カシオ計算機は11月10日、2021年3月期・第2四半期の決算概要について、オンラインで発表会を実施しました。国内や欧米市場では新型コロナウイルスの影響が続く一方、中国市場では時計事業が急速に回復し、楽器事業の収益改善も進むなど好調に推移。結果的には減収減益となったものの、順調な回復基調にあることを強く印象付けました。

G-SHOCKの販売がコロナ以前並みに!

発表によれば、カシオ計算機の2021年3月期・第2四半期の損益状況は売上高639億円となりました。これは対前年比80%に当たります。営業利益は54億円(対前年比59%)で、経常利益は56億円(対前年比65%)でした。

  • グレーの背景色のセルが第2四半期の数字。単位は億円(%部以外)

事業別では、時計事業が売上高が383億円と、第1四半期の222億円から大きく伸長。これは中国市場による牽引が大きく、同じ中国市場においても前年比で49%の伸び率です。

  • どの商品も回復基調。中でも時計と教育関数事業が大きく回復

カシオ計算機 執行役員 広報・IR担当の田村誠治氏によれば、「特にG-SHOCKの回復が大きく、第2四半期は対前年(コロナ以前)比で95%まで戻しています」とのこと。

日本でも人気のメタルを使ったG-SHOCK(「GMW-B5000」など)が躍進。第1四半期では▲37%と赤字の商品ジャンルでしたが、今四半期では2%へと増収に転換しました。これは、中国市場での客単価が上昇したという実績と、今後の伸びしろを示しているといえます。

  • カシオ計算機 執行役員 広報・IR担当の田村誠治氏

  • メタルG-SHOCKの伸びが時計事業の業績を後押ししたといいます

  • フルメタルオリジン「GMW-B5000」シリーズ

  • G-SHOCKが市場を牽引する一方、ノンブランドの時計が消費マインド低下の直撃を受け、伸び悩む側面も

田村氏「9月9日に行われた『京東商城(JD.com)』(※1)のスーパーブランドデーでは、時計カテゴリーにおいて歴代1位を獲得。11月11日『中国独身の日』(※2)に向けてEC販売の体制を強化しています。現在の中間進捗では、対前年比約146%の売上を見込んでいます」

※1:ジンドン。中国第2位の規模を持つネットショッピングモール
※2:光棍節ともいう。独身者が集まってパーティーを開いたり、婚活をするなど様々なイベントが開かれる。買い物や贈り物をする日としても知られ、最近はECサイトが最高売り上げを更新することで話題になることも多い。

  • TikTokを活用した情報拡散や投稿参加型イベント、番組型生中継で新製品発表などにより、京東スーパーブランドデーでも好業績。結果、中国市場の売り上げが拡大

このようにEコマースでの販売が伸びる中、実店舗との割合については「Eコマースの販売割合が44%、実店舗が56%」(田村氏)とのこと。ほぼ半々に近付くほどEコマースでの販売が拡大した理由については「超規模モールでイベントを開催した結果がプラスに寄与している」と分析しています。ちなみに、購入される商品は実店舗が比較的高価格帯のものが多いのに対して、Eコマースでは100~300ドルという中価格帯のものが多く売れるといいます。

  • Eコマースの販売量が増え、実店舗は減少傾向。それでも第1四半期からは大きく回復

なお、時計と同じく収益拡大事業に位置付けられる教育や関数電卓について、田村氏は次のように語ります。

田村氏「対面授業が再開されれば、数字は戻ってくると考えています。関数電卓へのニーズは変わりませんので。欧州ではかなり多くのエリアで授業が再開されており、販売実績もほぼ百パーセント水準まで戻りました。一方、新興国エリアではまだ休校が続いており、こちらの方が出遅れているという状況です。それでも足元10月の実績では、対前年93%まで戻っています」

  • 欧州では対面授業再開で関数電卓の需要が回復、例年並みに

収益改善事業に位置付けられる、電子辞書、楽器、プロジェクター、その他システム事業についても、構造改革の効果が現れているようです。

田村氏「楽器事業は2年前から構造改革を着実に行った結果、収益体質が大きく改善、この上期で利益率9%を達成しています。キーボード『Privia』や『カシオトーン』の戦略商品、スリム&スマートモデルが依然好調に推移しており、楽器全体に占める比率はおよそ45%に達しました」

  • 収益改善事業は楽器事業が牽引

  • 楽器はスリム&スマート戦略商品が巣ごもり需要にマッチ。長期赤字体質から脱却

「0.6」を「4.1」に!

2021年3月期通期の見通しとして、カシオは売上高2,200億円、営業利益100億円を見込んでいます。これは当初計画の60億円から40億円の上方修正に当たります。

田村氏「もともと今期に関しては、第1四半期の段階で、第2四半期および下期について対前年75%の水準で推移するという想定。2,200億円という売上計画を立てています。一方、第二四半期は80%、10月に関しては96%まで戻っております。しかしその一方で欧米を中心とした新型コロナウイルスの感染増加などを考慮して、今後の経済活動の制限あるいは消費マインドの低迷といったリスクもあり、売上高に関しては据え置きとしています」

  • 通期では売上を上方修正、2,200億円を見込むが、コロナ感染の動向次第なところも

そのための取り組みとして、大きな柱となるのはやはりG-SHOCKを基軸とした時計事業でしょう。

田村氏「これからは、お客様とのタッチポイントが変化すると思います。また、一般時計は市場規模が縮小するかもしれません。ただし、G-SHOCKはタフネスという特徴をはじめ、そのデザイン的な個性やファッション性、高い機能を詰め込んだ唯一の価値を持つ時計です。よって、引き合いが強い状況は続くと考えます。

スマートウォッチの市場も拡大する。その前提のもと、我々としても今期は自社Eコマース比率をより拡大、デジタルマーケティングの強化を行っていきます。

G-SHOCKはコアなファンの囲い込み、また、得意な領域を生かしてランニングや健康に特化したスマートウォッチ展開を行います」

  • 成長拡大事業の今後の取り組み

これらの取り組みについて、さらに詳しく説明していただきましょう。まず「お客様とのタッチポイントが変化する」という点について。

田村氏「カシオには、全世界に1,400店舗の実店舗『G-SHOCKストア』があります。これを単なる売り場から、最適かつ重要なタッチポイントに進化させる必要があると考えています。また、自社のEコマースでは、ユーザーごとのニーズや困りごとをリアルタイムで把握して最適な提案やカスタマイズに対応できるようにしたい、と。我々の調査では、G-SHOCKのファンは世界に500万人いると推定されています。

G-SHOCKを3個以上持っていて、G-SHOCKを極めて高く評価してくださっているコアなファン500万人に、ひとりひとりに寄り添って深く長くつながり続けていく。そんな、ロイヤルファンを獲得するための取り組みを考えています。ほかにも、G-SHOCKを時計の購入候補として挙げてくださるお客様も5,000万人おりますので」

  • G-SHOCKストアの単なるショップにとどまらない有効活用が重要

  • ユーザーデータの積極的な収集と活用によって、各ユーザーに最適なきめ細かいサービスを提供

  • G-SHOCKファンを階層化し、各層に最適なアプローチを

今四半期においてもカシオ復調のための重要な基盤となり、今後もその重要性を増すと予想される中国市場について、田村氏は次のように分析します。

田村氏「仮に日本の市場規模を1としたとき、現在、中国市場でカシオの時計はまだ0.6程度しか販売できていません。ところがスイス製の輸出時計は、日本1に対して中国は2.9も販売されている。当社推計では、G-SHOCKも4.1くらいの潜在的な市場ポテンシャルがあると計算されています。市場としての伸びしろは、まだまだあるはずです」

  • 中国市場のポテンシャルを最大限に生かすマーケティング手法を構築

スマートウォッチ市場の拡大については、G-SHOCKのスポーツモデル「G-SQUAD」の好調に言及。噂の「G-SHOCKスマートウォッチ」については触れませんでした。

田村氏「G-SQUAD『GBD-H1000』は、ハートレートモニターとGPSを両搭載したモデルです。これがG-SHOCKファンの指名買いだけでなく、エクササイズ需要をしっかり取り込んで新規ユーザーの獲得に成功しています。また、ランニング総合サービスの提供をアシックス様との共同開発で進めています。こちらにつきましては、2021年1月に製品サービスの概要を発表する予定です」

なお、これらの商品やサービスをカシオは将来的にウォーキングや睡眠、疲労リカバリーといった健康領域へ拡大していくとのことです。

  • G-SQUAD「GBD-H1000」シリーズ

  • ワークアウトや健康志向の需要に向けてスマートウォッチ+ランニング総合サービスを供給

  • スポーツを中心としたサービスから守備範囲を広げ、健康や美容市場にも切り込みます

  • プロジェクター事業は、独自技術を応用したプロジェクションエンジンを組み込みモジュールとして提供

  • プロジェクター事業のターゲットは、コンシューマーからビジネスへ移行

  • カシオは持続的価値創造企業として、デジタルトランスフォーメーションの高度化にも力を入れています