毎年行われる「年末調整」ですが、今年2020年は、年末調整が大きく変わります。最も大きな変更点としては、給与所得控除の減額とそれに伴う基礎控除の増額です。さらに、新たに「所得金額調整控除」が導入されました。また、多くの点が変わった今回の年末調整では申告書にも変更があり、内容が複雑化しています。そこで本稿では、2020年の年末調整の変更点と、新しい申告書の注意点についてまとめました。
「給与所得控除」と「基礎控除」の変更点
給与所得控除とは、給与収入から差し引くことのできる控除で、個人事業者の「必要経費」に相当するものです。この給与所得控除が、2020年の年末調整から一律10万円減額されることになりました。
さらに、上限がこれまでの220万円から195万円に引き下げられ、これにより、年収が850万円を超える人は給与所得控除額が10万円以上下がります。
所得税は、給与収入から給与所得控除を差し引いた給与所得額をもとに金額を算出するため、給与所得控除額が下がるということは、所得税が増えることになります。
ただし、給与所得控除が減額する代わりに、基礎控除が10万円増額します。基礎控除とは、収入や所得に関係なく一律38万円(住民税33万円)が差し引ける所得税および住民税の控除のことで、2020年の改正により、一律48万円(住民税43万円)に引き上げられました。
しかし、合計所得金額(給与所得以外にも全ての所得を合計した所得金額)が2,400万円を超える人は、段階的に基礎控除額が引き下げられます。そして、合計所得金額が2,500万円を超えると、基礎控除は受けられなくなります。
給与所得控除の減額と基礎控除の増額は2020年の年末調整において大きな変更点ですが、実際には、多くの人にとっては税額への影響はありません。
影響があるのは、給与所得控除額の上限引き下げにより増税となる年収850万円を超える人です。さらに、合計所得金額が2,400万円を超える人は、基礎控除も引き下げとなるため、更なる増税となります。なお給与所得控除がない個人事業者などは、基礎控除額が10万円上がることで、減税となります(青色申告特別控除の要件を満たしていない場合は除く)。
ちなみに、給与所得控除以外にも減額された控除があります。それは、「公的年金等控除」です。公的年金の受給者にかかる税金は、公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を引いて計算します。
この公的年金等控除額が2020年度分から(住民税は2021年度分から)改正され、合計所得金額1,000万円以下の公的年金受給者の場合、一律10万円引き下げられます。なお、受給者の合計所得金額が高いほど、公的年金等控除額はさらに縮小されます。
新設された「所得金額調整控除」とは?
給与所得控除額の上限が引き下げられたことにより、年収850万円を超える人にとっては増税となります。しかし、その中でも一定の要件を満たす人は「所得金額調整控除」の対象となり、増税されない措置が取られるのです。給与収入が850万円を超える人のうち、以下のいずれかに当てはまる場合、所得金額調整控除に該当します。
・本人が特別障害者である
・23歳未満の扶養親族がいる
・特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる
また、控除額は、以下の式で計算します。
所得金額調整控除額=(給与収入-850万円)×10%
※給与収入は1,000万円が上限となる
この所得金額調整控除は、子育てや介護を行う人が、増税による負担増となるのを回避するための施策と言えます。要件に該当する人は、年末調整で給与所得から調整控除が行われます。なお、所得金額調整控除の適用を受けるには、年末調整において「所得金額調整控除申告書」の提出が必要です。
また、給与所得者かつ公的年金受給者である場合も、所得金額調整控除に該当します。その場合の控除額は、以下の式で計算します。
給与所得控除後の引き下げ額(10万円)+公的年金等控除引き下げ額(10万円)-所得金額調整控除(10万円)
年末調整の変更点はまだあった
このほかにも変更点はあり、「ひとり親控除」が今回の年末調整から創設されます。これまで、寡婦(寡夫)控除は離婚や死別によって配偶者がいなくなった人のみに適用され、「未婚のひとり親」は対象外となっていました。それが今回の改正で、性別や婚姻の有無に関わらず、「ひとり親控除」が適用されるようになりました。ひとり親控除が受けられるのは、以下の全ての条件を満たしているひとり親です。
・生計を一つにする子(総所得金額等が48万円以下)を有すること
・本人の合計所得金額が500万円以下であること
・住民票の続柄に「未届の夫」「未届の妻」など事実婚の記載がないこと
上記の条件の全てに当てはまる場合、ひとり親控除35万円(住民税30万円)が受けられます。なお、寡夫控除は廃止され、ひとり親控除に吸収されました。また、寡婦控除は、「ひとり親控除」の適用条件に当てはまらず、以下の要件に該当する女性に対して適用されます。
・本人の合計所得金額が500万円以下であること
・住民票の続柄に「未届の夫」「未届の妻」など事実婚の記載がないこと
これ以外にも、配偶者控除、扶養控除などを受けるための合計所得金額要件が変更となります。ただし、収入が給与収入のみの人は、実質的な変更はありません。合計所得に給与所得以外の所得が含まれる場合、これまで非該当だったのが該当になる可能性があります。
複雑な申告書の注意点は?
変更点の多い今年の年末調整ですが、それに伴い、申告書の様式も複雑に変わっています。これまでの「給与所得者の配偶者控除等申告書」に、新しく「給与所得者の基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」が統合され、基礎控除、配偶者控除等、所得金額調整控除の3つの控除を計算する申告書が一つになりました。名称も「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」と大変長いものになっています。
今年の年末調整で注意したいのは、これまで無条件に適用されていた基礎控除に要件が加わり、同申告書が基礎控除10万円増額の判定にも使われるため、配偶者のいない給与所得者も提出の必要がある点です。
今回の年末調整では、「令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「令和2年分給与所得者の保険料控除申告書」のほか、「令和2年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」を提出することになります。
変更点に気を付けて年末調整を!
年末調整の話題が出るようになると、今年!もそろそろ終わりという気持ちになりますね。新型コロナウイルスの感染拡大で異例の年となった2020年。最後に年末調整を滞りなく終わらせ、少しでもスッキリした気分で新年を迎えたいものです。