中国発のアニメ映画『羅小黒戦記』の日本語吹替版『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』が現在公開されている。黒猫の妖精・シャオヘイが様々な出会いと戦いを通じて人間との共存を模索していく同作は2019年9月に日本公開されると口コミで評判を呼び、約1年経った今、日本語吹替版が全国で公開されるという異例の作品となった。

話題の秘密は魅力的なキャラクターたちと、アニメーション技術の高さ。さらに花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏ら人気声優の起用が発表され「キャスティングが本気すぎる」と注目を受ける。そんな中、フリーアナウンサーの宇垣美里が特別出演でアニメ声優に初挑戦。アニメ好きで知られる宇垣に、同作の魅力や声優挑戦の感想などについて話を聞いた。

  • 映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』に声優として出演する宇垣美里

    宇垣美里 撮影:泉山美代子

■もともと気になっていた作品に出演

――昨年の公開からすごく盛り上がっていた作品ですが、宇垣さんも元々この作品をご存知だったんですね。

レギュラーで出演しているラジオ番組『アトロク』(『アフター6ジャンクション』)でよくアニメを紹介するんですが、最近海外のアニメが良いという話の中で「今、中国の『羅小黒戦記』がすごい。おそらく日本のアニメを見て育ってきた人たちの作品なのでなじみもあるし、おすすめ」と話題になりました。ただ、シアターも埋まってしまったりして、なかなか観る機会はなかったところに、声優出演のお話がきて、びっくりしました。

  • 『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』

――しかもメインの声優さん方がそうそうたる面々で。

本当に豪華ですよね。すごい作品だからこそ、これだけの布陣なんだろうなと思い、自分が出ることを忘れて早く観たくなりました。「出れば観れるぞ」と(笑)。ただ、アニメは大好きで関わらせていただくのはすごく嬉しかったけど、"通行人A"でいいと思っていたら、しっかりセリフがある役だったので、ドギマギしました。

  • 宇垣が演じる「花の妖精」

――アニメ声優に挑むにあたっての心構えはありましたか?

アナウンサーの訓練を受けてきたので、どうしてもそれらしい喋り方をしてしまうんです。それは作品の中の日常で自然ではないので、その喋り方を外せるかな、という心配はありました。実際にアフレコに挑戦してみると、本当に全部難しくて。画面を見てると台本が見えないし、うっすらと中国語も聞こえてきて、かつ画面には中国語の字幕が書いてあるので、もう何を見ていいかわからなくて、最初は混乱してしまいました。

――経験を通して、より声優さんのすごさは感じましたか?

当たり前なんですけど、改めて完成作を観て、すごいなと思いました。そんな方々と一緒の作品に出るのは、もう冥土の土産ですね(笑)。本当に、子々孫々に語りたいと思いました。

――ちなみに今回出てらっしゃる声優さんたちについて、これまでにどんな作品を見てきたんですか?

ありすぎて、何を言えばいいかわからないです。花澤香菜さんは千石撫子(『化物語』)が大好きでしたし、櫻井さんについては、私は『コードギアス』シリーズのルルーシュがすごく好きなので、演じられたフーシーについても「裏切るんじゃないか」と思いながら観てしまいます(笑)。宮野真守さんは『Free!』の松岡凛もすごく好きですし、最近はドラマ『半沢直樹』にも出てらして。あとは『銀魂』が好きなので、杉田智和さんがテンフー役で、「うわ~!」と思いました。

■日本でも馴染みある感覚の『羅小黒戦記』

――そんなアニメ好きな宇垣さんから見て、『羅小黒戦記』はどのようなところがすごいと思いますか?

始まりの緑のシーンもジブリ作品を思わせるような美しさでしたし、戦闘シーンもすごくかっこよくって。「どれだけ描き込んでいるんだろうか」と驚きましたし、日本でも馴染みのある感覚がありました。キャラクターも造形や性格が全部かわいくて、絶対にどのキャラクターも好きになってしまうと思います。

内容としても、普遍的だと思うんです。人間が生きていく上で起こり得てしまうもので、常に見続けなければいけないものだと。

――宇垣さんの過去の「私には私の地獄がある」という発言が話題となっていましたが、この作品にもいろいろな事情を背負うキャラクターが出てきて、少し通じる部分など感じるところはありますか…?

この作品には一見して幸せそうだけど内に抱えるものがある、というキャラクターが出てくるわけではないですが、もし共通点があるとしたら「それぞれにそれぞれの事情がある」ということかもしれません。悪だけの人は1人もいなくて、だからこそ狭い世界で生きていくのはすごく大変なことだと思います。

思い入れのある土地を自分のものにしたいとか、そういうわけにはいかないとか……ずっと続いていくことだから、覚えておかなければいけないと思います。日本だって、きっともっとたくさん森や自然があっただろうに、人が住むことによって失われたものもあるだろうし、その「八百万の神」といった宗教観が、『羅小黒戦記』にもあると思うので、より身近に感じられる作品になっているのではないでしょうか。

――キャラクターの話も出てきましたが、宇垣さんのお気に入りのキャラはいますか?

難しい! みんな好きなんです。シャオヘイは本当にかわいいですし、フーシーの気持ちもわかるから深みを感じるし、シャオヘイとムゲンがだんだん師弟になっていく感じも泣いちゃう。全員好きですね。

――ちなみに、宇垣さんの好きなキャラクターの傾向はあるんですか?

傾向で言うと、ムゲンのようなキャラはすごく好きです。多くは語らず、全部「自分のせいということで大丈夫です」としてしまうところ……偽悪的と言ったらいいのか。でも、フーシーみたいな影のあるキャラクターのことも、好きになってしまうんですよね。「多くを語らず」といったキャラが好きなんだと思います。『羅小黒戦記』は、そんなキャラクターが多くて「ありがとうございます」という感じでした(笑)。

■体制を変えていく物語が好き

――アニメも好きで、活字中毒でもあるということですが、宇垣さんの物語への欲求はどのようなところから来るんですか?

私は現実逃避に近くて、自分じゃない誰かの人生を覗き見ることによって、全然違う人にもなれるし、違う人なのに共感できたりするところが、楽しいです。最近は中華SFがすごく面白いので、『三体』や『紙の動物園』にもハマっています。

――今まで自分の考え方などに影響が大きかった物語はありますか? 小説でも、アニメでも漫画でも。

これもいっぱいあるから難しいんですけど、学生時代に坂口安吾をすごく読んでいたので、私の文章の基礎が作られたように思います。自分の文章を読んでも少し硬いなという印象があるんですが、それは坂口安吾の影響を受けたのかな……。あとはルルーシュが本当に好きで、『コードギアス』の言葉も自分の中に残ってるものがすごく多いです。

――若手の俳優さんなどでも、『コードギアス』が好きと言う方すごく多い印象があります。

そうなんですか? 嬉しい! もともとレジスタンスものがすごく好きなんです。虐げられている弱い人たちが、体制を変えていく物語が好きで、中でもルルーシュの性格が悪いというところが一味違うし、人生が詰まっています。映画にもなっているので、3部作で観ると良いと思います! ぜひ(笑)。

――ありがとうございます(笑)。それでは最後に、『羅小黒戦記』を楽しみにしている方へのメッセージをいただけたら。

まずアニメーションの力がすごく強い作品で、絵の力や動きの力だけで圧倒されます。こういうアニメは日本の文化といった気持ちもどこかにあったのですが、これだけ自然に受け入れられてクオリティが高い作品が出てきたということは、今後どんどん色々な場所で面白いアニメ作品が増えるってことじゃん! と楽しみになると思います。テーマとしてはすごく普遍的なもので、誰かが生きていくために誰かが悲しい思いをしてるということを描いているので、改めて、自分はどうかということも考えさせられる作品になっています。

■宇垣美里
1991年4月16日生まれ、兵庫県出身。2014年よりTBSアナウンサーとして活躍し、2019年3月に同局を退社。現在はフリーアナウンサーとして、テレビ、ラジオ、雑誌、多数のCM出演のほか、執筆活動も行うなど幅広く活躍中。自身初の美容本『宇垣美里のコスメ愛 BEAUTY BOOK』(小学館)が11月18日に発売。