女優の柴咲コウが主演する日本テレビ系ドラマ『35歳の少女』(毎週土曜22:00~)。『女王の教室』(05年)や『家政婦のミタ』(11年)、最近では『過保護のカホコ』(17年)や『同期のサクラ』(19年)など、次々とヒット作・話題作を生み出し続ける脚本家・遊川和彦氏の最新作で、不慮の事故によって長い眠りについていた主人公が25年の時を経て目覚め、体は大人、心は子供の“35歳の少女”が成長していくというヒューマンストーリーだ。
今作は、その大筋で展開される主人公の“成長物語”が堪能できるのはもちろん、表面上で感じ取れる物語以上に、視聴者の想像力をかき立てる“仕掛け”や“思惑”が満載。それを改めて検証することで、ドラマ後半戦への想像力をさらにかき立てたい。
■恋愛の鈍感さが仕事にも影響
このドラマに散りばめられた“仕掛け”の1つとして挙げられるのが、キャッチーなタイトルが表しているように、見た目(=35歳の体)と、抱えているもの(=少女の心)の “ちぐはぐ”を、主人公・望美(柴咲)以外のキャラクターにも当てはめている点だろう。
まず、主人公の妹・愛美(橋本愛)は、広告代理店に勤務する優秀なキャリアウーマンで、見た目も凛とした美人。それにもかかわらず、姉の事故によって家族の愛に飢えており、鬱屈(うっくつ)を抱えていることに加え、恋愛についてもかなり鈍感という女性だ。しかもそのせいで能力が高いはずの仕事にまで影響を及ぼし、公私ともに全くうまくいかない、“ちぐはぐ”が起きている。
父・進次(田中哲司)も、一見優しい性格でどのキャラクターよりも朗らかに見えるのだが、実は望美が目覚めることを諦め、別の女性と再婚している。しかも、その再婚相手の連れ子が引きこもりになっているという現状もあり、見た目や性格の穏やかさに反してかなり重いものを背負い、体裁を繕って“ちぐはぐ”に生きてきたことで皮肉が展開されているようにも思える。
■本当ではない自分を装う初恋相手、一筋縄ではいかない母
そして、望美の幼なじみで初恋相手でもある結人(坂口健太郎)は、さらに重層的な“ちぐはぐ”を見せる。ルックスは爽やかな好青年で、その見た目通り、小学校教師になるのだが、ある暗い事件をきっかけに退職。その後、偽者の恋人や友人など、見た目だけの関係を演じる“代行業”を務めていた(第5話で退職)。
本来であれば純粋な志を持っている青年だが、自らあえて本当の自分とは違う、“ちぐはぐ”の人物を装うという設定が実に複雑。さらに、望美の結人に対する恋心も10歳当時に向けてのものなのか?、現在の自分へ向けてなのか?、その本質を考えると、気持ちの矢印が“ちぐはぐ”になってしまい、さらに複雑化してくる構造となっている。
しかし、それよりもさらに複雑なのは、望美の母・多恵(鈴木保奈美)だろう。25年間眠り続けた望美の回復を誰よりも信じて待ち、一見強い母として映っているのだが、望美が目覚めてからはなぜか笑顔が消えてしまった。その理由は、望んでいたはずの娘の成長と、自身の親としての成長が追い付いていかない、戸惑いがあったということが徐々に分かってくるのだが、それが判明するまで、なぜ母は笑わないのか?、見た目と感情のちぐはぐ具合をどう理解していいのか?、かなり複雑でミステリアスだった。
しかも第4話で、ようやく笑顔を見せない理由が分かった……と思わせておきながら、第5話のラストで、やはり親としての成長が追い付かず、感情の揺り戻しが起こり、望美を追い出してしまうという意外過ぎる展開が起こる。母の一筋縄ではいかない“ちぐはぐ”な思いは、今後もどんな方向へ転がっていくのか、まだまだ予断を許さない状況になっている。
■引きこもり青年が着る“ちぐはぐTシャツ”
そんな中、置かれている状況はかなり深刻であるにもかかわらず、感情と見た目の“ちぐはぐ”によって微笑ましい気持ちにさせてくれるのが、進次の義理の息子・達也(竜星涼)だ。達也は就職先でいじめにあってから引きこもり生活を送り、家族ともろくにコミュニケーションをとらないというかなり重いキャラクター。だが、彼の“ちぐはぐTシャツ”の秘密に気付くと一気に見え方が変わってくる。
引きこもりという設定が明らかになった第1話では、その状況に相反するような「絆」「誠」とプリントされたTシャツを身に着けていたのだが、それだけにとどまらず、母が就職先を紹介するも逆上してしまった第2話では「感謝」。父が意を決してコミュニケーションを取ろうと訴えかけた第3話では「HELP ME」。望美が初めて家へやってきて“ニート状態”を脱するように問いただした第4話では「一発逆転」と、回を追うごとに置かれた状況とTシャツの文字の“ちぐはぐ”がエスカレート。それがスパークしたのが前回の第5話で、崩壊寸前だった母・加奈(富田靖子)の気持ちの糸がついに切れてしまい、リビングで暴れまわっている最中、何事かと飛びだしてきた達也のTシャツには……「愛」という文字があった。
かなり深刻な場面にもかかわらず、デカデカと「愛」という文字を掲げてやってきた達也に、状況と相反する希望が見えるような気持ちになり、その“ちぐはぐ”だけは解消されるに違いないと微笑ましく感じてしまうシーン。だからこそ今後、どんな“ちぐはぐTシャツ”が見られるのか、達也の登場を楽しみに待ちたい。
そして物語はここまで、主人公が35歳の“少女”から、中学生(第4話)、高校生(第5話)と成長し、年齢差の“ちぐはぐ”が、徐々に解消されつつある。だが、その先に待ち受けているものは一体何なのだろうか。類似性を指摘されている『アルジャーノンに花束を』と同様に、成長が本来の自分=35歳を超えてしまったその先、自らの“ちぐはぐ”に戸惑い、元に戻ってしまうという可能性も予想できる。
そうなったとき、周囲のキャラクターの“ちぐはぐ”も、どのように変化していくのか、見逃せない。