メイクを通して浮き彫りになる「社会」や「自意識」と戦う女性たちの悲喜こもごもを描いたドラマ『だから私はメイクする』(テレビ東京 毎週水曜24:58~)が11日に最終回を迎える。同作はオタク女性4人組・劇団雌猫による同名エッセイ集を原案とした、シバタヒカリ氏のコミックの実写化作。毎話、様々な女性の「メイク」にまつわるエピソードが繰り広げられ、話題を呼んでいる。

最終回を目前に、原案となったエッセイ集『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)を手掛けた劇団雌猫(かん)と、ドラマ化の企画を進めた祖父江里奈プロデューサーにインタビュー。その話からはオタク女性の空気の変化や、時代についていくための作り手の思いが浮かび上がってきた。

  • ドラマ『だから私はメイクする』主演の神崎恵

    ドラマ『だから私はメイクする』主演の神崎恵

■リアルなコスメブランドを使うというこだわり

――まずは今回の企画のきっかけを教えてください。

祖父江:もともと劇団雌猫さんたちの『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)を読んだ時点で、「絶対ドラマになるな」と思ってすぐに企画書を書いたんですけど、その時は企画が通りませんでした。そのあと祥伝社さんからコミックス版が出て、改めて企画書を出したら、ドラマ化に至りました。テレビ東京の中では、まだそんなに女性向けドラマの募集がなかったんですが、配信に力を入れるドラマパラビ枠ができてから、女性向けに振った企画を出そうという流れが起き、『来世ではちゃんとします』(20年1月クール)もご好評をいただいて、「そういえばあの企画……」と掘り起こされました(笑)。

――劇団雌猫さんたちはドラマ化の企画を聞いていかがでしたか?

かん:「いいの?」という感じでした(笑)。ドラマ化の話も、生まれては消え生まれては消え……という感じだったので、ここまでの熱量をいただくことは珍しかったとも思います。

祖父江:たとえば劇団雌猫さんの『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』は私もドラマ化を考えましたし、本当に面白いけど、やっぱりどうしても女性が「ハマってるもの」を紹介する時に権利関係が難しい(笑)。今回は実際のコスメブランドがたくさん出てくるところにもこだわりましたが、ドラマはスポンサーやタイアップでお金をいただくので、実際の商品を出すのにはいろんな手続きが必要で。すべてが広告につながってしまうから、架空の商品を作らなければならないのですが、そうするとこの作品の面白さは半減してしまうので、絶対にリアルなコスメブランドを使う、ということは最初に決めました。

――そこをクリアするにはどんな方法があるんですか?

祖父江:ひたすら電話をかけて、お願いします(笑)。ブランドに企画書を出して。出てくるシーンのリストを作って「こういうシーンで使ってもいいですか?」と。

かん:撮影現場のお写真を送っていただいた時も、実際のコスメが並んでいて、「OKしてくれたの!?」と衝撃でした。

祖父江:美容業界の中では原案の書籍から有名でしたし、みなさん好意的で「どうぞどうぞ」と言ってくださるブランドさんばかりでしたね。神崎恵さんが出るドラマということも、交渉を非常にうまく進めてくれました(笑)。

――劇団雌猫さんのつくられていた「インターネットで言えない話」というコンセプトの同人誌が最終的にドラマ化に至ったというところもすごいなと思いました。

かん:そのコンセプトで同人誌シリーズを出し始めたのは2016年末なので、もう4年前。今回のドラマの大元になった同人誌「悪友DX 美意識」が2017年に出て、書籍『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』が出たのは2018年です。たった2年前ですが、オタクとコスメ・メイクにまつわる空気感は結構変わったなと感じます。もう「インターネットで言えない話」でもないですよね。「推し色×コスメ」というのも普通だし、ドラマで多くの人に受け入れていただくのがあり得る構図になったなと思います。

祖父江:本来、オタクの女性とメイクって、相性がいいところもありますもんね。コレクター気質な人の心もくすぐるし、メイクも創作ですし、何に遠慮して発信ができなかったのかというところもあります。

かん:自分の中でもこの数年で、オタクが容姿や美容、メイクの話をするときに無理に自虐しなくてもいい、堂々と好きなコスメの話をしていいんだと自信を持って言えるようになった感覚はあります。

■メイクの話にまつわる意識に変化

――一方で、昨今は「メイクを強要されたくない」といった反応もあるように思います。メイクを楽しむ自由もあるし、しない自由もあると思うのですが、その点について、発信される側からとらえられていることや、表現で気をつけていることはありますか?

かん:まず「メイクの話はしづらい」という風潮が徐々に変わってきて、「メイクの話をしても別にいいんじゃないかな」となった。それが当たり前になると、「メイクやメイクの話を強要されたくない」と変わってくる。それは自然だし良いことだと思います。実際、「メイクの話をしてもいいんだよ」には「メイクをしなくてもいいんだよ」が内包されていますから。

祖父江:ドラマでもそこは意識していて、4話は「メイクをしない自由」という回になっています。「特別な人の前でだけメイクをしたらいいから、会社ではメイクをしなくていい」という回。いろんなバリエーションを出そう、メイクしない自由も描こうと思っていました。

かん:祖父江さんがドラマ化決定のニュース記事内コメントで「メイクをしない自由」についても明言されていたのがすごいなと思いました。化粧品メーカーが協力してくださるのに「メイクしなくてもいい」というのも、挑戦的ですよね(笑)。仕事に行く時にメイクするのがいやだなと思ってる方、メイクときいて「ウッ」となる人ほど、見てほしいです。

祖父江:本当に、悩みながら宣伝しています(笑)。「メイクする全ての女性のために」というコピーも、悩みつつ、まずは女性に向けようと、やむなく書いたところもありました。メイクする男の子のことも絶対に意識してはいるし、無視したくないし。私は、今回のドラマは「テレビ東京 メイク祭り」だと思っているんですよ。メイクに興味がある方が楽しんでくれたらいいですし、興味ない方も「メイクしなくてもいいじゃん」と気づいてくれたら、と。広い意味でメイクに対しての考えが盛り上がればいいなという気持ちです。

――そういう回も盛り込まれている、時代が描かれているところで、最終話も楽しみになりますね。

祖父江:最終話である6話はオリジナルストーリーにさせてもらってるんですけど、コロナの時代、メイクをしなくなってもいい状況になって、私たちはどうメイクと向き合うのかという話になっています。神崎さんから聞いた出来事から着想を得たんですが、メイクをしなくていい状況になってしばらく経ってから、普段コメントを寄せない層から、いっぱい質問が来たらしいんです。しばらくメイクを強制されない状況に置かれたことで、みんな「私はなんでメイクするんだろう」と考え、自分と向き合えたのではないかとおっしゃってました。やっぱり、ドラマなのでその時代を折り込みたいですし、どうやったって嘘もつけないんです。今、デパートのコスメ売り場に行ってもビニールがかかっているし、でもそれをそのまま描くとつまらないし、だったら最終回で描いてみよう、と。結果として、今の時代にメイクと向き合う回になりました。

――改めて、今後の作品の中で意識していくことはありますか?

かん:『FEEL YOUNG』(祥伝社)でまんが版『だから私はメイクする』の連載が再開しました。描いてくださっているシバタヒカリ先生もすごい勢いで進化されているので、より登場人物たちの内面も表現してくださるんじゃないかなと楽しみにしています。原作エッセイに関しては特に新作の予定はありませんが、2年前とはわたしたち劇団雌猫の考え方やまわりの雰囲気も変わっているので、同じようなテーマで取り組んだとしても表現方法は変わってくるだろうなと思います。少なくとも「メイクしてもいいんだよ」は言わなくても大丈夫だし、もしかしたら今回のドラマで多くの方に伝えてもらえるから「メイクしなくてもいいんだよ」も言わなくてよくなるかも。

祖父江:今回に限らず、時代はどんどん変わっていって、特に女性の考え方やあり方は、刻々と変化しています。とにかく、常に感覚のアップデートを意識していないと、どんどん遅れていくと意識しています。ものを作るにあたって、私自身も変わっていくし、うっかりすると、老害にもなりかねない。特に女性や経済力が弱い立場の人、オタクもそうかもしれませんが、生きづらさを感じる立場の人に対する感覚は、常に意識していたい。あとは私もアラフォーと呼ばれる年代になって、どうやってもエイジングを意識せざるを得ないですし、変化に対する感覚を研ぎ澄ませてないと、どんどん時代遅れなものを作ってしまうので、ノスタルジーに浸らず、新しい感覚を意識しながら作品を発信していきたいと思います。

■祖父江里奈プロデューサー
1984年生まれ、岐阜県出身。2008年テレビ東京入社。『おしゃべりオジサンと怒れる女』『モヤモヤさまぁ~ず2』『YOUは何しに日本へ?』などを担当したのち、ドラマ部へ。『よつば銀行 原島浩美がモノ申す! ~この女に賭けろ~』『きのう何食べた?』『来世ではちゃんとします』などに携わる。

■劇団雌猫
かん、ユッケ、もぐもぐ、ひらりさのアラサー女性4人組からなるサークル。2016年冬に同人誌『悪友』シリーズを作り始めて以来、愛ある浪費を綴った『浪費図鑑』(小学館)や、メイクへの想いを集めたエッセイ集『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)等を出版し、SNSを中心に大きな話題を呼んでいる。最新刊に『海外オタ女子事情』(KADOKAWA)、イガリシノブとのコラボ本『化粧劇場 わたしたちが本当に知りたいメイク術』(イケダ書店)