レノボ・ジャパンは、2020年8月からゲーミングPCのサブスクリプションサービス「スグゲー」を提供している。「スグゲー」は、ゲーミングPCに加えて、キーボードやマウス、ヘッドセットなどのアクセサリーをセットで利用できるサービス。プレミアム、スタンダード、エントリーという3つのパッケージを用意しており、料金は最も安いもので月額5,900円(税込)から。契約年数は1年もしくは2年で、契約満了後は、「機材を返却する」か「残価分を支払い、商品を買い取る」、もしくは「商品を返却して新しいスペックのものに乗り換える」から選択可能だ。

まだ珍しいゲーミングPCのサブスクサービス。その狙いや収益性、さらに同社のeスポーツへの取り組みなどについて、レノボ・ジャパン代表取締役社長であるデビット・ベネット氏に話をうかがった。

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    レノボが展開しているゲーミングPCのサブスクリプションサービス「スグゲー」

サブスクですぐにゲームが楽しめる環境を提供する「スグゲー」

――まずは「スグゲー」をはじめた背景を教えてください。

デビット・ベネット氏(以下、ベネット氏):僕が代表取締役社長に就任した2年半くらい前から、レノボは「Legion」というゲーミングPCブランドに力を入れてきました。

日本という国のゲーミングカルチャーはとても強い。ゲーマーがゲームに対して消費している1人当たりの金額は、アメリカ、中国に続いて3番目に高いんです。しかし、日本のPC市場において、ゲーミングPCが占める割合は、他国に比べるとかなり小さいのが現状です。

そのお金をどこにかけているかというと、モバイルや家庭用ゲーム機。ゲーミングのマーケットはあるのに、PCでの開拓が十分にできていないと思ったんです。

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    レノボ・ジャパン 代表取締役社長のデビット・ベネット氏。今回の取材はオンラインで実施した

――その状況を打破するためにLegionを展開してきたわけですね。

ベネット氏:そうです。Legionのミッションは「PCゲーマーを増やす」こと。今回の「スグゲー」はその延長線上にある施策です。

以前は、家庭用ゲーム機とモバイル、PCでは、遊んでいるゲームタイトルがまったく違いました。でも今は、内容的にほとんど変わりがありません。PlayStation 4や5、Xboxシリーズは、ほぼPCと同じアーキテクチャですし、モバイルにしてもUnityやUnreal Engineなど、マルチプラットフォームのゲームエンジンで作られているものが増えています。同じタイトルであれば、ゲーミングPCなら、高精細かつフレームレートの高い滑らかなグラフィックで楽しめるなどの利点があります。

eスポーツのプロ選手から、PS4でゲームをはじめたけれど、上達のために環境をPCに移行したといった話を聞いて、そのストーリーは販売促進に活用できると思いました。

――家庭用ゲーム機とPCのどちらでも遊べるタイトルは確かに増えていますね。

ベネット氏:ただ、ゲーミングPCには問題もあります。仕様の選択肢が広すぎて、「このゲームを遊ぶのには、どういうCPUとGPUを選べばいいのか?」といったことがわかりづらい。そして、価格が高いことですね。

日本でPCゲーマーを増やすには、こうした問題をクリアし、すごくかんたんにゲームを遊べる環境の提供が必要だと考えました。これが「スグゲー」のコンセプトにつながっています。

なので「スグゲー」は、Webサイト上のメニューから選ぶだけで、キーボードやマウス、ヘッドセットまでがセットで届き、ゲーミング環境が整う、誰でも気軽に利用できるサービスにしました。

単独での利益追求はせず、長期的な視野で展開

――デスクトップとノートで3機種ずつがラインアップされていますが、機種は定期的に入れ替わるのでしょうか?

ベネット氏:もちろん、新製品が出ればすぐにラインアップを変えます。契約が終わって更新するタイミングで、最新の機種に切り替えることが可能です。

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    「スグゲー」のデスクトップPCの機種ラインアップ

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    「スグゲー」のノートPCの機種ラインアップ

――たとえば、月額5,900円のコースで2年間支払いを続けても、14,1600円と、販売価格より低い金額にしかなりませんが、収益についてはどのようにお考えでしょうか?

ベネット氏:PC本体に加えて、ヘッドセットやゲーミングマウスのほか、24時間365日対応のコールセンターによるサポート、最新ゲームが遊び放題になるDMM GAMESの利用料も込みですから、はっきり言って、金額的な面での利益はそれほどよくありません。

――残価を支払って買い取ることもできるとうかがいましたが、ヘッドセットやゲーミングマウスなども買い取れるんですか?

ベネット氏:実は、ヘッドセットやゲーミングマウスなどのアクセサリーは、返却の必要がないんです。契約終了のときは、ノートPCのプランならノートPCだけ、デスクトップのプランなら本体とディスプレイだけを返却していただきます。

――プラン終了時に“機種変更”を続けていくと、ヘッドセットなどが手元にたまっていくということですか?

ベネット氏:そういうことになりますね(笑)。

僕たちはロングタームストラテジー、長期的な戦略としてこの「スグゲー」を考えています。まずはPCゲーマーを増やすことが目的。日本のゲーミングPC市場は、もっともっと伸びる余地があります。まずはその市場を活性化させたい。「スグゲー」を通じてこれが実現できれば、レノボやLegionのファンも増え、いずれLegionの製品を購入してくれるのではないかと期待しています。

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    サービスに申し込むと、ゲーミングPCに加えて、アクセサリーが付属する

――「スグゲー」単体での採算は度外視しているということになりますね。

ベネット氏:レノボは2年半前からゲーミングPCを本格的にはじめましたが、おかげさまで2020年の第1四半期ではLegionがGfKのデータでゲーミングPCのシェアトップを記録しました。

現状のシェアが低いからこそ、そこには伸びる可能性も秘められています。市場活性化へ向けたこういう取り組みは、マーケットリーダーこそがやるべき。逆に我々がやらなかったら誰がやるのかと危惧しています。

――市場開拓の意味が大きいんですね。サービスを終えて返却されたPCの使い道は決まっているんですか?

ベネット氏:今はまだ決まっていません。我々は、eスポーツの部活動をはじめようとしている企業にゲーミングPCを貸与する「企業eスポーツ部支援プロジェクト」や、さまざまなeスポーツ大会の協賛を行っています。そのため、いろんな使い道が考えられますが、現在は計画中です。

eスポーツ部結成を考える企業にゲーミングPCを無償貸与

――話に出た「企業eスポーツ部支援プロジェクト」を発足させた狙いを聞かせてください。

ベネット氏:40~50社からの応募がありました。貸し出せるPCの台数に限りがあるので、順次お送りしている状態です。「大成功」と言っていいでしょう。

「スグゲー」は個人のPCゲーマーを増やす取り組みですが、会社のなかにもPCでゲームを遊んでみたいと考えている潜在的なユーザーはいるはずです。そういう人たちのためには社内の部活動が有効だと思いました。

弊社には、eスポーツ部がすでにあって、部活動のノウハウも持っています。それを提供しようという試みです。

――「企業eスポーツ部支援プロジェクト」はPCを無償で貸与しますよね。

ベネット氏:このプロジェクトでは、ビジネス的な側面よりも、コミュニケーションの活性化につなげたいという想いがあります。今は新型コロナウイルスの影響でみんな自宅にいますから、職場でのコミュニケーションが失われています。eスポーツはこの状況下でも遊べるじゃないですか?

我々はレノボ内のeスポーツ部活動で、地域や部署、役職を超えたコミュニケーションの利点などを強く感じています。実際にレノボのゲーミングPCを使ってみていただいて、そうしたバリューがあると感じてほしいんです。

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    レノボは法人向けに「企業eスポーツ部支援プロジェクト」を展開する

――企業としてeスポーツに取り組むところに意味があるんですね。

ベネット氏:レノボ社内で皆さんと僕がゲームをやっているときに思うのは、「ゲームのなかでは平等」ということ。役職の上下や性別も関係ありません。

――確かに、会社の役職を考えて発言をためらっていたらゲームになりませんね。

ベネット氏:たとえば、フットサルみたいなフィジカルスポーツをプレイしても、社員は誰も僕にタックルしてきません。でも、ゲームのなかでミスをすれば社長の僕でも関係なく「何やってるんだ」「あっち行け!」と怒られます(笑)。こうしたコミュニケーションの活性化は、社会的にもいいベネフィットがあるんじゃないかと考えているんです。

eスポーツ部のバリューを理解できれば、会社の予算、あるいは個人でもゲーミングPCを購入しようという考えになりますよね。そのきっかけ作りのために貸し出しを行っています。

――「企業eスポーツ部支援プロジェクト」でゲーミングPCを借りたあと、購入に至った企業はありますか?

ベネット氏:もちろんあります。大きな企業から、かなりの台数をオーダーいただいたこともあり、そういう意味では、きちんと利益を生み出していますね(笑)。

――「企業eスポーツ部支援プロジェクト」とともに「Lenovo Legion 企業eスポーツ対抗戦」もすでに実施されていますよね。

ベネット氏:企業対抗戦は、2020年7月10日に『PLAYERUNKNOWN‘S BATTLEGROUNDS』(PUBG)の大会をオンラインで開催し、多くの企業に参加していただきました。我々も初めての運営で改善したいところはたくさんありましたが、楽しんでいただけたようです。

卓球やバレーボールでは、会社のチーム同士が戦う実業団リーグがありますよね。僕はeスポーツの実業団リーグを作りたいんです。企業間でeスポーツによる交流が生まれたらおもしろいし、それは本業のビジネスにおいても利益になるんじゃないかと。各企業にちゃんとしたチームを用意して、新しい競技として認められたいですね。

企業対抗戦では、本当にさまざまな企業に参加していただけたうえ、視聴者も多く、リーグ実現に向けた今後の道筋も見えたように思います。

2020年7月10日に実施された「Lenovo Legion 企業eスポーツ対抗戦」の配信

ベネット氏自らがVTuberとして配信も

――2020年7月に開催された「RAGE × Legion Doujou Cup」は、芸人やアイドル、VTuberなど多彩な選手が参戦して話題になりました。プロゲーマーが出場するものでなく、こういったバラエティ色の高い大会にしたのはなぜでしょうか?

ベネット氏:7月24日に開催されたこの大会は「RAGE ASIA 2020」のプレイベントとして、RAGEとLegionのパートナーシップを結んで開催したものです。プロ選手のみが出場するRAGE ASIA 2020を盛り上げる意味もあったので、大きく内容を変えることにしたのですが、おかげさまで大成功に終わりました。

我々はゲーミングPCをコアゲーマーだけでなく、広くいろんな人に使っていただきたい。そのためにはアイドルや芸能人、VTuberといったさまざまな人に楽しさを伝えてもらうことが大事だと考えました。

結果として今まで我々が関わったeスポーツ大会のなかでは、もっとも多くの人に観ていただけました。

――Twitterでも大きな話題になっていましたね。

ベネット氏:Twitterトレンドで全体の9位になりました。40万~50万人に観てもらえたんじゃないかと思います。ライブ配信では日本での最大視聴者数も記録するビッグで楽しいイベントとなりましたね。こういう数字を観ても、日本ではPCゲーマーがもっと増える可能性はあると思います。

――「Legion Doujou Cup:VTuber編」では、ご自身もVTuberとなってイベントに参加されていましたね。

ベネット氏:これには2つの目的がありました。1つはLegionのパフォーマンスの高さを示すこと。Legionには高速なCPUと強力なGPUが搭載されていて、ゲームだけでなく、ビデオや写真の編集、音楽やCGの制作といったクリエイティブな作業をスムーズにこなせます。ゲーミングPCはゲームを遊ぶためだけのものではないというアピールですね。

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    「Legion Doujou Cup:VTuber編」の様子

――ゲームやクリエイティブ系のアプリケーションはかなり重いので、これが快適に動くゲーミングPCは、何をさせても快適ですよね。

ベネット氏:もちろんこのオンライン取材も自分のゲーミングPCで行っています。本体性能の高さだけでなく、マウスやキーボード、それにゲーミングチェアもそうですが、ゲーミンググレードの製品は、長時間にわたってPCを快適に操作できるよう設計されているので、テレワークにもぴったりなんですよ。

それと、最近はゲームに関するものを含めて、動画配信が増えています。でも、日本人は顔を見せたがらない人が多いですよね? VTuberなら自分の顔を見せなくともキャラクターを使って配信できるとアピールしたかったのが、もう1つの理由です。

――VTuberとなったご自分を見てどう思われましたか?

ベネット氏:実は僕のあの3Dモデルには、2つのバージョンがあるんです。最初に出来上がってきたモデルもかっこよかったんですが、もう少しクオリティを高めることができそうでした。

それで改善してもらうときに、「かっこいいんですけど、僕の髪型はもう少しM型です」と伝えてみました。すると、次のバージョンでは確かに全体のモデルはさらにかっこよくなったのに、わざわざ髪型がM字になってしまっていて。

ちょっといじめられたのかもしれません(笑)。でもVTuberとしての出演なら、自分の顔や髪型も気にせず寝起きのパジャマ姿だろうと、いつでも配信ができるのはおもしろかったですね。あれを見て自分も配信をやってみようと思う人が増えてくれるといいと思っています。

Legion Doujou Cup:VTuber編では、ベネット氏がVTuberとして出演

eスポーツへの支援はレノボとしての社会貢献にもつながる

――「RAGE ASIA 2020」のトップスポンサーにも就任されましたがこの狙いを教えてください。

ベネット氏:2020年は、レノボとして「もっとeスポーツ大会に力を入れていきたい」という想いがありました。これが理由の1つめ。もう1つの理由は、RAGE ASIA 2020で『Apex Legends』が競技種目になったことです。

RAGEは国内最大級の規模を誇るeスポーツイベントですし、レノボはワールドワイドで『Apex Legends』のスポンサーを務めていることからも、我々の狙いにマッチしていました。それで、新型コロナウイルスの影響が大きくなる前から、一緒に何かをやろうという動きが生まれていたんです。

アジアのいろんなところからトップの選手が集まり、Legionを使って『Apex Legends』の強さを競うのは、非常によいブランドアピールになったと思います。

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    RAGE ASIA 2020では、トップスポンサーに就任

――「スグゲー」や企業eスポーツ部支援プロジェクト、それに「RAGE × Legion Doujou Cup」、「RAGE ASIA 2020」と、活動の幅がとても広いですね。

ベネット氏:eスポーツは老若男女、タイトルによっては障がいを持っているかたでも参加できます。レノボは、平均年齢が70歳を超える「シルバー・スナイパーズ」というスウェーデンのプロeスポーツチームのスポンサーを務めているんです。先にも言いましたけど、eスポーツは会社の役職などを超えた、ある意味、平等なコミュニケーションも可能にします。

LegionというゲーミングPCが売れてほしいのはもちろんですが、eスポーツを普及させることはレノボという企業としての社会貢献につながる側面もあると考えているんです。

ですから、今後もeスポーツの普及に向けた活動には積極的に協力していきたいですね。

――ありがとうございました。