トヨタ自動車が富士山の裾野で計画している街づくりプロジェクト「ウーブンシティ」の詳細が明らかになった。自動運転、MaaS、ロボット、AIなど、最新の技術を盛り込んだ実証都市は、いったいどんな姿になるのか。入居希望を提出している筆者としては、気になって仕方がない。

  • トヨタの「ウーブンシティ」

    富士山の裾野に最新技術を詰め込んだ実証都市を作る「ウーブンシティ」プロジェクト

ウーブンシティ構想とは

トヨタの豊田章男社長が11月6日の2021年3月期第2四半期決算説明会に登壇し、ウーブンシティの詳細について説明した。

トヨタは2020年1月の「CES 2020」(アメリカ・ラスベガスで開催)でウーブンシティの計画を明らかにした。2020年中に閉鎖予定の東富士工場(静岡県裾野市、トヨタ自動車東日本の施設)跡地を利用し、自動運転、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI(人工知能)などの技術を導入・検証できる場として、実証都市を新たに整備するという社長直轄のプロジェクトだ。

  • トヨタの「ウーブンシティ」

    「ウーブンシティ」には自動運転車両が行き交い、広場には人々が集う。そんな想像図だ

「ウーブン」とは英語で「織られた」(weave=織るの過去分詞)という意味。網の目のように道が織り込まれた街の姿から命名したというのがトヨタの公式な説明だが、同社の起源が豊田自動織機であるということにも関係しているのだろう。

豊田社長はCES 2020において、将来的に175エーカー(約70.8万m2)の範囲で街づくりを進め、初期にはトヨタ従業員やプロジェクト関係者をはじめとする2,000名程度を実際に住まわせて実証実験を進めると説明していた。その際、以下のような構想も明かされていた。

☆街を通る道を3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた街を作る。具体的には、スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette」(東京モーターショー2019で発表)など完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道、歩行者専用の公園内歩道のような道。
☆街の建物は主にカーボンニュートラルな木材で作り、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とした街作りを行う。
☆暮らしを支える燃料電池発電も含めて、この街のインフラは全て地下に設置する。
☆住民は、室内用ロボットなどの新技術を検証するほか、センサーのデータを活用するAIにより、健康状態をチェックしたり、日々の暮らしに役立てたりするなど、生活の質を向上させることができる。
☆e-Paletteは人の輸送やモノの配達に加えて、移動用店舗としても使用する。
☆街の中心や各ブロックには、人々の集いの場としてさまざまな公園・広場を作り、住民同士もつながり合うことでコミュニティが形成されることを目指す。

  • トヨタの「e-Palette」

    トヨタ自動車が東京オリンピック向けの車両として公開した人員輸送仕様の「e-Palette」(2019年10月撮影)

豊田社長が明かした実証都市の詳細

今回の決算説明会では、豊田社長がメディアの質問に答えるかたちでウーブンシティについていくつかの具体的な中身を明らかにした。それによると、富士山にかけて2021年「2月23日」(ふじさん)あたりにくわ入れ式(着工)を行う予定であり、150m×150mの区画を原単位とし、各区画に360人程度を住まわせて実験を進めるとのこと。住民は高齢者と子育て世代のファミリーが中心で、そこに「発明家」が加わる。実際に住んでこそ、さまざまな社会課題(高齢化社会の問題など)を解決する発明が生まれるとの期待からだ。発明家枠については、一定期間に成果が出ない場合は人員を入れ替え、発明を活性化させることも検討しているという。

区画内には地上に3本、地下に1本の道を整備する。地上の3本の道は初期の構想通り、自動運転専用道路、歩行者専用道路、歩行者とスモールモビリティが混在する道とする方針。天候の影響を受けない地下道は、物流専用の自動運転専用道路とする。ちなみに、ウーブンシティには現在までに、参加あるいは居住を望む企業および個人約3,000人からの応募があったという。

  • トヨタの「ウーブンシティ」

    「ウーブンシティ」には子育て中のファミリー、高齢者、発明家が入居するという

豊田社長はことあるごとに「自動車メーカーからモビリティカンパニーへ」「人々を幸せにすることを目指す企業でありたい」と話している。安全、快適な移動の手段を提供することで、人々を幸せにする。その具体化が自動運転ということなのだろう。自動運転社会は車両開発とインフラ整備がセットになって初めて実現できる。ウーブンシティは、それに向けた実証実験都市というわけだ。

ちなみに、年始にこの計画が明らかになった直後、私も住民募集に応募した(フォームに沿ってメールしただけではあるが……)。もちろん、発明家枠ではなくファミリー枠だ。近頃、物忘れや体力低下が顕著になっていることを鑑みると、初期の高齢者枠としても貢献できるかもしれない。自動運転車両がデモ走行ではなく、実際に人を移動させ、モノを運んでいる環境に身を置くことができるかもしれないと考え、応募しただけだが勝手にワクワクしている。

富士の裾野を皮切りに、将来は日本全国にウーブンシティが点在するようになり、都市間を自動運転専用となった高速道路網がつなぎ、やがては日本中、世界中の隅々まで自動運転が当たり前の社会になる。クルマを自らの手で運転したいという人のためには、現在の乗馬クラブのような感覚で“乗車クラブ”が生まれるのではないか。なかにはアーミッシュのように自動運転を拒否する国や自治体も出てくるかもしれないが、それはそれで面白い。妄想が止まらない。住めなくてもいいから、早くウーブンシティに足を踏み入れてみたい。