いろいろと異例づくしが続いている2020年。Appleが毎年9月に行ってきたiPhoneを含む主要製品の発表会も、今年は何度かに分けてオンラインで開催され、iPhoneの発表は10月、4モデルが発表され、発売日は2回に分かれるという、異例の年らしい形になりました。
モデルが増えたことで機種選びがより複雑になりそうなところですが、実機に触れてみて感じたのは、実は以前よりもわかりやすくなったのではないか、ということです。他モデルとの比較を軸に、iPhone 12がどんな位置付けのモデルなのかを考えてみます。
サイズの大・中・小とグレード分けが整理された
今年発表された4モデルのうち、iPhone 12とiPhone 12 Proは画面サイズが6.1インチです。iPhone XR、11に続くベーシックモデルのサイズを引き継いでいることから、Appleがこのサイズを今のスタンダードに位置付けていると考えらえます。
手にしてみると、成人男性ならギリギリ片手で使えるサイズ感です。やや大きいと感じる方も少なくないと思いますが、米国サイズ基準なら程よいのだろうと想像できます(※)。
※社)人間生活工学研究センター「在日外国人の身体特性計測 結果概要報告」(2011年12月)
このサイズを軸に、使用目的に応じてより大きな画面が必要ならPro Max、小さめを好むならminiという形で「大中小」がそろっています。2018年・2019年のモデルでは、この関係性にちょっとしたねじれが生じていました。性能的に上位の機種が大と小、下位の機種が中サイズという振り分けだったのです。今年はこれが整理されたことで、サイズ・性能の位置付けが理解しやすくなっています。
同じフォルムでも素材と仕上げで差をつけたデザインに
iPhone 12と12 Proは、同じサイズだからこそデザインの差異が際立って見えます。iPhone 12はマット仕上げのアルミニウムと光沢あるガラスの、ソリッドでテクノロジカルな印象、iPhone 12 Proは鏡面仕上げのピカピカなステンレスにマット加工の背面ガラスを組み合わせ、華やかでエレガントな印象です。
iPhone 11/11 Proシリーズも差異はあったものの、ここまで異なる雰囲気ではありませんでした。今年のモデルはデザインによってグレードの違いが明確に表現されていると言えるでしょう。
Appleが定義した「少し未来のスタンダード」
性能面では、やはりカメラ周りの違いが目立ちます。12 Proは望遠カメラとLiDARスキャナを搭載し、RAW撮影にも対応(記事執筆時点では対応予定)。また、ストレージに512GBモデルをラインアップし、公式には公表されていませんがメモリもProの方が2GB多い6GBとなっています。
これらは写真・映像撮影方面に明るい人にとっては付加価値となりますが、わりとマニアックな領域です。注目すべきはその領域よりも、広く共通している部分です。付加価値でなく共通して搭載された機能、それがAppleが「今年のモデルに必須」と判断したものだと考えられるからです。
即ち、5G通信対応、セラミックシールドの画面、ニューラルエンジンを倍増したA14 Bionicチップといった、昨年モデルより新しく、12と12 Proで共通している部分です。いまこの時点では必要ないかもしれませんが、数年後を考えるとどうでしょうか。
数年後、5G通信が主力になった時にプラン変更でき、弱点だったガラス割れもない。機械学習をガンガン活用したOSやアプリのアップデートにも対応できる。そんな、近い将来も普通に使える「少し未来のスタンダード」を形にしたのが、iPhone 12であると考えることができます。
近年、Appleは製品をより長期的に使用することを想定したものづくりを行っています。買い替え頻度が落ちても、Apple MusicやiCloudストレージなど自社製品×サブスクリプションのエコシステムが利益を生み出します。iPhoneのライフサイクルが長いほど、顧客のライフタイムバリューが高くなる構造がすでにあるからこそ、顧客に「少し未来」を提供した方がAppleにとって有利になることがうかがえます。
iPhone 12がLightning端子搭載だったことや、マスク着用がニューノーマルとなる中でTouch ID非搭載であったことは「未来」を損なうポイントとして残念なところです。しかし、5G通信とA14 Bionicチップは現行モデルに残るiPhone 11やSEと比べて長期的に使う上で決定的な差になり得ます。少し未来を考えるなら、iPhone 12はおススメの選択肢と言えるでしょう。