かつてスマートフォンのカメラといえば、背面に用意された1基の小さなレンズを意味していました。それが最近では背面に2、3基ある「複眼カメラ」が当たり前。背面どころかディスプレイ側にもカメラを用意して「フロントカメラ」などと呼んでいます。
iPhoneも事情は同じで、iPhone 11シリーズ以降は全モデルにフロントカメラと2基以上のリアカメラを装備しています。複数あるほうが見た目のインパクトは大きく、なんだかスゴそう、と感じてしまいますよね。もちろん、そんな理由で"複眼化"を進めたわけではありません。
フロントカメラはさておき、スマートフォンにおける複眼化の理由は「ボディの薄さを保ちつつ高画質化と焦点距離の多様化を図ること」にあります。iPhoneにかぎらず複眼化がトレンドになっているのは、それがキレイな写真を撮れるスマートフォンの実現に有利だからです。
どのスマートフォンでも、各カメラにはレンズが複数枚配置され、被写体から反射した光はそこを経由してイメージセンサーに到着、光は電子へと変換され画像データとなるしくみです。イメージセンサーは大きいほうがより多くの光を取り込めるため画質面で有利であり、大判化の方向で進化してきましたが、そうなると広い領域に光を当てる必要が生じるためレンズを大きくし、高さを増さなければなりません。しかし、薄さが至上命題のスマートフォンでそれは禁じ手です。
そこで考えられたのが複眼化です。かんたんにいうと、高さを増せないのなら横に広げて光量を稼ごう、という考えかたです。望遠・広角撮影のニーズも、複眼化によりある程度応えられます。焦点距離が異なる複数のカメラを搭載すればいいのです。
もちろん、メーカー各社は創意工夫で独自性を打ち出しています。たとえばiPhoneの場合、2基のカメラを利用することで被写体までの距離を測定し、"ボケ味"を出せるようにしました(ポートレートモード)。複眼を生かして画質向上を図るのが現在のトレンドですから、消費者にカメラ性能が重視されるかぎり、iPhoneの複眼状態も続くのではないでしょうか。