アルバイトやパートで「最低賃金」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。この最低賃金は、月給にも適用されるのをご存知ですか?
「賃金が安すぎる」と感じている方は、改めて計算をしてみると自分の給料が最低賃金を下回っていた……なんてこともあるかもしれません。
本記事では、月給最低賃金の計算方法や、下回っていた場合の相談窓口をご紹介します。
最低賃金とは?
最低賃金とは、国が定めた賃金の最低限度のことです。雇用者は労働者に対して、最低賃金上の賃金を支払わなければなりません(※1)。
最低賃金は日本国内で一定というわけではありません。一般的に最低賃金と呼ばれるものは、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金に分けられます。
最低賃金には「地域別」と「特定(産業別)」の2種がある
最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金があります。
地域別最低賃金とはその名の通り、職業を問わず都道府県で定められている最低賃金のことです。2020年10月現在、東京都の最低賃金は時給1,013円です。秋田県や沖縄県などの計7県は時給792円と定められています。このように地域別最低賃金は都道府県によって大きな差があります(※2)。
特定(産業別)最低賃金とは、特定の産業で定められた最低限度の賃金のことです。特定最低賃金には都道府県の特定の産業について適用されている場合のものと、全国的に適用されているものの2種類に分けられます。地域別特定最低賃金には、北海道の糖類製造業や千葉の調味料製造業、沖縄の清涼飲料、酒類製造業など数多くの産業が設定されています。
地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類が同時に適用される条件で働く労働者は、高い方の最低賃金が優先して支払われます。
最低賃金に含まれないものは?
最低賃金は、原則毎月支払われる基本的な賃金と役職手当などの諸手当に限定されています。賃金は基本的に月額固定となる所定内給与と、残業代など変動のある所定外給与に分けられます。最低賃金が適用となるのは所定内給与です。
しかし、所定内給与に含まれる手当でも精皆勤手当(無欠勤・欠勤が少ない場合に支給されるもの)、通勤手当、家族手当は最低賃金に含まれないので注意しておきましょう(※3)。
月給最低賃金を知る方法
ご紹介した通り、最低賃金は時間給で設定されています。そのため月給制で働いていると、なかなか意識することはないかもしれません。
しかし、最低賃金はすべての労働者に設定されている金額です。月給制の場合でも最低賃金は適用されます。月給制下の最低賃金を知りたい場合は、計算して自分の時間給を明らかにしなければなりません。
賃金が最低賃金以上か確認する方法
毎月給料をもらっていると、なかなか自分の給与が最低賃金以上かどうかと考えることはないかもしれません。
しかし、先述したように労働者は定められている最低賃金以上の賃金を得ることができます。自分の賃金が不当なものではないか、一度確認してみるといいでしょう。 計算をする前には、自分の働いている地域や産業の最低賃金を前もって確認するようにしましょう。
また、計算に間違いが生じないように、先ほどご紹介した手当などを引いた基本的な賃金で行うようにしてください。
月給制の場合の換算方法
まず、自分の勤めている地域や産業の最低賃金を確認しましょう。
最低賃金は時間給で定められているので、月給の場合は月給を1カ月の平均所定労働時間で割り、時間給を明らかにします。
月給÷1カ月の平均所定労働時間≧最低賃金
と計算することで、自分の賃金が最低賃金より上かどうか判断することができます。
以下、厚生労働省の「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」を例に、月給制の場合の計算方法を紹介します(※4)。
例 : 月給制で働く〇〇県で働くAさんの場合
Aさんの状況
- 基本給 : 12万円
- 職務手当 : 3万円
- 通勤手当 : 5,000円
- 時間外手当 : 3万5,000円
- 合計 : 19万円
※労働時間/日=8時間
※年間労働日数=250日
※〇〇県の最低賃金=850円/時間
○○県で働く労働者Aさんの場合、上記のうち「通勤手当(5,000円)」「時間外手当(3万5,000円)」は最低賃金計算の対象とはならないため、合計額から引くと、15万円になります。
次に、この金額を時間額に換算する必要があります。15万円/月を年で換算すると、15万円×12(カ月)=180万円。実際に働いた時間は、8時間×250日=2,000時間であるため、これを180万円から割ると、180万円÷2,000時間=900円となります。この額は、最低賃金の850円を上回っているため、最低賃額以上であることがわかります。
計算式まとめ :
・19万円-(5,000円+3万5,000円)=15万円
→ (15万円×12カ月)÷(250日×8時間)=900円>850円
時給・日給の場合の計算方法
時給や日給の場合の計算方法もご紹介します。時給で働いている場合は、自分の確認した最低賃金をそのまま当てはめることで確認することができます。
自分の時給≧最低賃金
となっていれば、適切な賃金が支払われていることになります。
日給の場合は、月給と同じく一度自分の給与を時間給に直す必要があります。 1日の所定労働時間で日給額を割り、時間ごとの賃金を明らかにしましょう。
日給÷所定労働時間≧最低賃金
であれば問題ありません。
最低賃金よりも給料が低かった場合の対応法
実際に計算してみると、自分の時間給が最低賃金よりも上か下かが明らかになります。思っていたよりも高かったという方や、想定よりも低くショックを受けたという方もいるのではないでしょうか。
最低賃金よりも低い額を労働者に支払っている場合は、違法となります。次に、実際に自分の賃金が最低賃金よりも低かった場合、どのように対応すればいいのかご紹介します。
会社の人に確認する
労働者に最低賃金以下の賃金を払っている場合は違法となります。
自分の賃金が最低賃金よりも低いことが発覚したら、まず自分の会社の労務担当などに確認するようにしましょう。労務担当などに相談し問題を明らかにすることによって、正当な給与に引き上げることができるはずです。
改善されない場合は労働基準監督署へ
会社に相談しても改善されない場合、または言い出しにくい場合は労働基準監督署に相談するのをおすすめします。
労働基準監督署とは労働基準法などを守らない企業を取り締まるための機関です。労働者は企業から不当な扱いを受けている場合、労働基準監督署に相談することができます。
労働準監督署は受けた内容により企業に是正勧告をしたり、立ち入り調査をしたりすることができます。全国に支所があり匿名の相談も可能です。不当な賃金を受け入れず、必ず相談するようにしましょう。
不足分は請求できる
働きはじめたときは最低賃金以上だったはずなのに、最低賃金の改定後も引き上げられずいつの間にか最低賃金以下の給与になっていた、というケースもあるかもしれません。
最低賃金以下で長らく働いていたことに気付いた場合は、過去2年間の不足分を企業に請求することができるので、さかのぼって精算してもらいましょう。
直接会社に請求することもできますし、労働基準監督署から会社に対して指導することも可能です。
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すべての労働者は最低賃金以上の賃金を支払われていなければなりません。
月給制だとなかなか考えるきっかけがつかめませんが、給与は自分の生活の基盤となるものです。必ず計算し、確認するようにしましょう。
計算するときには自分の地域や産業の最低賃金を必ず調べた上で行い、特別手当や残業手当を抜いた基本的な賃金と役職手当などの緒手当で計算するようにしましょう。 最低賃金以下の賃金を労働者に支払うことは犯罪です。最低賃金以下の賃金が支払われていると発覚した場合は、必ず会社や最寄りの労働基準監督署に相談するようにしましょう。
(※1)厚生労働省「最低賃金制度とは」
(※2)厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
(※3)奈良労働局「最低賃金はどのような賃金を対象としているのですか?」
(※4)厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」