Netflixは10月27日、今後配信予定のアニメ最新情報を公開する発表会「Netflix アニメフェスティバル 2020」を開催。YouTubeでライブストリーミング配信され、『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』、『パシフィック・リム:暗黒の大陸』、『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』、『岸辺露伴は動かない』、『スプリガン』など計15作品の新情報が一挙発表された。
かつてアニメ制作スタジオのProduction I.Gに所属し、脚本家としても活躍した、Netflixの櫻井大樹アニメチーフプロデューサーが冒頭で挨拶。Netflixが「世界中のアニメファンが集まるプラットフォーム」を目指していることや、2016年配信のアニメ「BLAME!」から始まった“ネトフリアニメ”の歩みについて紹介した。
櫻井氏は、全世界で1億以上の世帯がこの1年でNetflixのアニメを再生したという調査データを紹介。「(世帯数なので)ユニークユーザーにすると2倍、3倍の数字になると思う。しかも年々、50%増で増えている。世界のアニメファンが急速に拡大していることを如実に語っているのではないか」と話した。
櫻井氏によると、約100の国と地域において、日本のアニメ作品がNetflixのあらゆるコンテンツを押しのけ、各国の視聴ランキングトップ10にランクインすることがひんぱんに起きているそうだ。「これは凄いこと。台湾やタイ、フランス、イタリア、ペルーやチリなどで(日本のアニメが各国の視聴ランキングの)上位を占めることが増えている」(櫻井氏)と手応えを感じている様子だった。ちなみに、人気作品は「七つの大罪」や「バキ」シリーズとのこと。
日本ではNetflixユーザーの半分(2分の1)が、1カ月でアニメを5時間以上視聴しているというデータがあり、櫻井氏は「これを“ならす”と、アニメの1シーズン分に相当し、膨大な時間をアニメ視聴に消費している。コアファンだけでなく日本の全会員にアニメ視聴が定着してきた」と分析。「今後も日本、アジア、そして世界に向けた面白い作品を届けることを目指したい」と挨拶を締めくくった。
1時間半におよぶ16作品の紹介ののち、「#ネトフリアニメ クリエイター・セッション ~トップクリエイターがみる、アニメの未来~」と題したトークパートが展開。『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』の原作者であるヤマザキマリ氏(漫画家・随筆家)、『スプリガン』を制作中のDavid Productionのプロデューサー・田中修一郎氏が登場し、前出の櫻井大樹氏も加わってクロストークを繰り広げた(進行役は映画解説者の中井圭氏)。
Netflixと共に『テルマエ・ロマエ ノヴァエ』を作り上げることになったヤマザキマリ氏は、全世界1億人以上がNetflixのアニメを見ていることについて、「圧倒的な影響力を持つわけですよね」とコメント。
クリエイターとして刺激を受けたところもあるようで、「いままでは私のマンガは翻訳されない限り、世界の人たちには伝えることはできなかったが、(Netflixアニメになることで)多くの人たちに見ていただける。作品との向き合い方も今までと変わり、『これでいいんだ』という妥協がなくなる。世界のいろんなことを踏まえ、知ったうえで、こういう風に見せれば伝わりやすいなど、自分の研究意識も高める必要がある。それだけ真剣にモノが作られていくきっかけになる。『日本の人しか見ないからこれでいい』ではなく、(世界中の人々の)価値観の違いも考慮しないといけない。惰性でなんとなく作っていけばいいわけではない、というのは、ある意味いい刺激です」(ヤマザキ氏)。
一方、田中プロデューサーは「(Netflixのアニメが)1億世帯で見られています、世界最大規模ですと言われても、まるで見えないところに向かって玉を投げなきゃいけないみたいな悩みが(一緒にやっている監督やアニメーター、脚本家にとって)あるようだ。直接現場で話すわけではないが、日々模索されていると横にいて感じる。僕らは今回Netflixに初めてアニメを供給するので、逆にまずは日本、という目線を意識して作っていくという作り方もあるのかなと思う。悩んだ末に」と笑う。
アニメの表現の仕方をワールドワイド向けに考えるか、それとも国内ユーザーを意識したものにして作っていくのか。クリエイティブフリーダムという考えを持つNetflixとして、ここをどう考えるか問われた櫻井氏は、「おふたりの話していたことは腑に落ちるところがある。あえて“世界に向けて”というのをことさらには意識しなくていいし、逆にクリエイターが意識したいというのであれば、それでいいと思う。これまで日本のマーケットに向けて作っている、と思い込んでいた人たちに対して、新しいチャンスがあると感じる人はそちらに向かっていいと思うし、まずは日本を意識する作り方も重要だと思う」と話す。
田中氏はまた、アニメ制作の現状について、「ウィズ・アフターコロナのなかで今後どういった作品を作っていけばいいのか。各クリエイター、あるいはプロデューサーたちもすごく悩みながら考えている」とコメント。
「僕らの『スプリガン』はコロナ禍の前から企画・制作をしているが、今なかなか世界に出にくく旅行もしづらい中、世界を舞台に、かつ日常とかなりかけ離れたファンタジーを届けられるのは結果としてよかったと思う。ヤマザキさんの『テルマエ・ロマエ』もそうだと思うが、日常からかけ離れたところに連れて行ってくれる作品が(今後のアニメでは)より増えるのでは。いち視聴者としても楽しみ」(田中氏)。
コロナ禍で日本からイタリアに帰国できなくなり、家族にも1年近く会えていないというヤマザキマリ氏は、田中氏のこの話を受けて「世界各国に対して扉が開かれているということ、分断化した意識が実は統一されたモノだったり共有できる要素が沢山ある、というのは自分の作品でいつもテーマにしていることで、(テルマエ・ロマエは)古代ローマだから、ぜんぜん今とは関係ない世界ということではなく、現代を生きる、地域も違う私達にも共通するものがある。たまたまイタリアで長く生活する中で気付いたことですが。そういうことが実はいろんなところにあって、それがアニメというツールを通じて多くの人に発信され、共通のツールや言語になる。(Netflixは)大事な舞台なんだなと感じます」と応えた。
ヤマザキ氏はまた、コロナ禍で自身のインプットにおける変化があったとも話す。「Netflixとは長いお付き合いになると思う。自分の中に内蔵する世界をどこまで広げていくか、Netflixを見るのもそうけども、世界のいろいろなモノを自分の脳の中で開拓することは必要なことだな、と思うようになった。これまでは『体が移動すること』が創作の触発になっていたが、今はそれができないのでテレビをつけることが増え、(Netflixなどの)ビジュアルから吸収することも増えた。Netflixと携わる中で、(アニメ制作に)参加する面白さ、やっていくことへの意欲、まだまだやることは沢山あるなと思う」(ヤマザキ氏)。
田中氏もNetflixとの中長期のパートナーシップに期待を寄せているそうで、「Netflixはどこを切っても(金太郎アメみたいに)プロが出てくる。さまざまな方が出てくるが、皆さんプロなので、めちゃめちゃ相談に乗ってもらいやすい。『スプリガン』も、今準備しようとしているタイトルもそうだが、Netflixの櫻井さんやプロデューサー、ポストプロダクションの担当者と会う中で、企画の起点となるセレンディピティ(偶然の幸運、予期せぬ出会い)が沢山生まれる。今日のヤマザキマリ氏との出会いもそう。(Netflixとは)長くご一緒したい」と話した。