今年7月、当時の菅官房長官が「新しい旅行や働き方として、政府としても取り組んでいきたい」と発言したことで、俄然注目を集めた"ワーケーション"。賛否両論の状況だが、自治体と企業の連携で、いち早く取り組み始めたのが徳島県三好市と同市にサテライトオフィスを持つ企業、あしたのチームだ。両者による取り組みを紹介する。
ワーケーションが地域を活性化する
"ワーケーション"とは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語。観光地や地方など、普段の職場とは異なる場所で働きながら休暇を過ごすことを指すが、菅氏はコロナ禍で大きな打撃を受けている観光産業を支援する一環として打ち出したようだ。
「実現すれば、企業や地域、個人にもメリットがある」という賛成意見がある一方で、「休暇中に仕事なんてしたくない」「日本には合わない」といった否定的な声もある。そうした状況の中、サテライトオフィスを利用したワーケーションの推進強化に取り組んでいる三好市の市長 黒川征一氏は次のように話した。
「ワーケーションは、企業にも地方にもメリットがあるものです。企業では、社員の心身のリフレッシュやクリエイティブな環境における生産性の向上が、地方では移動自粛による閉塞感の打破や地域経済の活性化が期待できます。三好市では、withコロナ時代を見据え、テレワーク環境を備えたワーケーション促進循環住宅や異業種交流ができるシェアオフィスなどの供用を進めていく計画です」。
観光スポットを持つ地方にとってワーケーションは、地域を活性化するためのチャンスであることは間違いないようだ。
サテライトオフィスの活用がワーケーションの現実解に
では、提携先のあしたのチームは、どんな意図でワーケーションを推進しているのだろうか。同社の代表取締役社長 高橋恭介氏が狙いを次のように語った。
「私たちのワーケーションのコンセプトは『長期休暇×ワーケーション×サテライトオフィス』になります。つまり、長期休暇を利用したサテライトオフィスでのワーケーションにインセンティブを付与することで、日本にワーケーションが定着する現実解したいと考えています」。
高橋氏が「現実解」と言ったのは、日本におけるワーケーションの普及を不安視する声に応えたものだからだ。政府が発表したワーケーションを推進するには、できる社員ほど長期休暇が取得しづらいといった問題や、地方におけるテレワーク環境の不備もある。これらに応えるのが同社のコンセプトというわけだ。高橋氏は会見をこう続けた。
「サテライトオフィスを活用したワーケーションなら、休暇中でも状況を見ながら柔軟に働くことができるので長期休暇も取りやすくなる。また、『仕事と休みの区別が難しい』といった懸念にも、『サテライトオフィスでは仕事、それ以外は休み』というように、区別しやすいメリットもあります」。
確かに、これなら戦力社員が長期離脱を心配することなく休暇を取ることができるだろう。
ワーケーションを利用した社員からも評価の声
同社では、ワーケーションを推進するために就業規則まで変更したという。
「当社では、福利厚生の一環として勤続5年ごとに5日間のリフレッシュ休暇を付与する制度をすでに導入しています。そこで、この制度を活用してワーケーションを推進するため、9月に取締役会を開き就業規則を変更。リフレッシュ休暇に伴って支給していたインセンティブを10万円から20万円にアップしました」。
これまで有給休暇は、制度としてあっても、実際にはなかなか取得できないという問題があった。そこで、政府は2019年から5日以上の有給休暇の取得を義務付けている。コンプラアインスの観点からも、企業は休暇取得を進める必要があるわけだ。同社が力をいれているのも頷ける。
実際、同社では10月からワーケーションの実施に踏み切っている。
「ワーケーションの事例として当社では、三好市のサテライトオフィスを使って、本社の管理部長や名古屋エリアの部長が家族と共にリフレッシュ休暇を取得しました。活用した社員からも『三好の豊かな大自然が堪能できた』と評価する声が上がっています」。
ワーケーションは働き方改革における方策のひとつ
こうした実績を踏まえ、高橋氏はワーケーションに関する次の展望を描いている。
「私たちは、全国に3,000社以上のクライアントを有しています。次のステップとしては、これらクライアントに現実解としてワーケーションの促進をプレゼンテーションしていきたい。それが働き方改革における日本のひとつの方策であり、withコロナによる地方の観光業や飲食・宿泊業のさらなる衰退を防ぐという国の課題を解決する取り組みになると考えています」。
ワーケーションを推進する政府の発表を聞いたときには正直、「絵に描いた餅」になるのではといった危惧を抱いた。しかし、三好市とあしたのチームの合同会見から見えてきたのは、サテライトオフィスを活用するというワーケーションの確かな可能性だった。