経営状態を分析する情報が詰まっている「決算書」。健全に会社を経営していくためには、決算書によって経営のための数字をしっかり管理し把握しておく必要があります。

この記事では決算書の基本から決算書のなかでも財務三表といわれている「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「キャッシュ・フロー計算書」の読み方、また作成方法まで詳しく解説します。

決算書とは?

そもそも決算書にはどのような役割があるのでしょうか。決算書の基本とその必要性についてみていきましょう。

■決算書は会社の通信簿

決算書は正式には「財務諸表」と呼ばれ、一定期間(原則1年間)における会社の経営状態や財務状況を表す書類のことです。決算書のなかでも「貸借対照表」「キャッシュ・フロー計算書」「損益計算書」は「財務三表」として、重要視されています。

企業活動を行う上で会計期間を原則として1年で区切り、期間内の利益に応じて税金を支払ったり、株主への配当金を支払ったりします。また決算書は出資者である株主に対し、出資金の用途や会社の経営状況を報告する書類でもあるため、株主総会で承認された後に公開されます(※)。

決算書をみることで、会社の得意分野や苦手分野を把握することができます。会社の得意分野をさらに伸ばし、苦手分野をこれからどのように克服するかを検討する経営方針の判断材料となるため、「会社の通信簿」といえるでしょう。

(※)「取締役会設置会社、かつ、会計監査人設置会社」については、取締役会の承認を受けた決算書類が法令で定める要件に該当する場合など、株主総会の承認が不要になる場合があります。

■決算書を見ればわかること

決算書をみることで、会社の優れているところや問題点・改善すべき点を知ることができます。人は健康診断やテスト結果の数字を見て、何が良くて何が悪いのか、前回と比較してどうなのかを知ることができますが、決算書も同様です。数字をみることで会社の利益がどの程度で、利益が伸びているのか減少しているのか、黒字なのか赤字なのかなど、決算書によってさまざまな経営の実態を知ることができます。

■決算書は与信管理に重要

決算書は金融機関から融資を受け、資金を調達するために重要です。 企業活動を行うためには資金が必要で、資金がショートすれば倒産に追い込まれてしまいます。全て自己資金・無借金経営をしている会社もありますが、多くの会社では、経営のために金融機関から融資を受けて会社の運転資金を調達します。

融資をする際、金融機関は「与信管理(よしんかんり)」を行い、融資先の経営実態をあらかじめ調査します。与信管理の結果よって融資を受けられるかどうかが決まりますが、決算書はこの与信管理の判断材料として重要な役割を果たします。

■決算書は税金申告に必要

決算書は税金申告のために必要です。会社には年に1回、法人税の税金を計算した書類の提出、すなわち確定申告と納税の義務があります。確定申告をするためにはさまざまな書類の作成・提出が必要ですが、その必要な書類のひとつが決算書です。法人税などは「会社の利益」に対して課税されますが、決算書には会社の利益を報告する役割もあります。

  • 決算書とは?

    会社の通信簿である決算書。会社の経営方針の指針、与信管理や納税額の判断材料などさまざまな役割がある

決算書の代表的な「財務三表」

それでは財務三表と呼ばれる、決算書のなかでも重要な「貸借対照表」「キャッシュ・フロー計算書」「損益計算書」についてくわしくみていきましょう。

■貸借対照表

貸借対照表は「会社がどのように資金を調達」し、「調達した資金をどのように運用しているか」を表す決算書のひとつです。「調達」「運用」の関係を財政状態と呼び、貸借対照表は決算時の財政状態を把握するためのものです。

貸借対象表は、左側に資産の運用形態を示す「資産の部」、右側に資本の調達源泉である「負債の部」「資本の部」を表示するのが一般的です。

貸借対照表の例(単位:千円)

資産 負債
流動資産 809,900 流動負債 155,900
現金預金 255,400 支払手形 50,900
受取手形 19,500 買掛金 25,000
売掛金 185,000 短期借入金 80,000
有価証券 350,000 固定負債 109,000
商品 0 長期借入金 109,000
固定資産 社債 0
土地 0 純資産
建物 0 資本金 300,000
機械 0 利益剰余金 245,000
合計 809,900 合計 809,900

この貸借対照表を見てわかるとおり、貸借対照表の左右の数字が一致することから、貸借対照表は「バランスシート(B/S)」とも呼ばれます。

・資産の部
資産の部は「流動資産」「固定資産」に分けられます。上段が流動資産、下段が固定資産で、一般的には現金化しやすいものから順番に並べます。流動資産は会社が保有している資産で、現金や預金、売掛金、有価証券など「決算から1年以内に現金化できるもの」のことです。

固有資産は会社が保有している資産で、土地や建物、機械など「決算から1年以内に現金化されず、支払う必要がないものなど」のことです。

・負債の部
負債の部はマイナスの財産で、いずれ返済する必要がある負債です。負債も資産同様、「流動負債」「固定負債」に分けられ、支払い期日の早い順に並べます。そのため上に流動負債、下に固定負債を記載します。

流動負債とは支払手形や買掛金、未払い金など「決算から1年以内に返済の義務がある負債」で、固定負債は長期にわたる借入金や資金調達のために発行した社債など、「決算から1年を超えた時期に返済する負債」を指します。

・純資産の部
純資産の部は「自己資本」とも呼ばれ、返済義務がない資産です。株主が出資する資本金や過去の利益の合計額などが含まれます。

貸借対照表からは会社の経営の健全性を読み解くことができます。総資産に対する純資産の比率が「自己資本比率」ですが、この自己資本比率が高いほど財政体質が良好だといえ、一般的には自己資本比率が50%以上であれば経営状態が健全であるとされています。自己資本比率が10%以下の場合は会社が危険な状態で、倒産リスクありとみられてしまいますので注意が必要です。 自己資本比率は次の表で求めることができます。

自己資本比率(% )=純資産÷総資産×100

また貸借対照表から、支払い能力を確認できる「流動比率」と「当座比率」が算出できます。流動比率は短期的に支払いが発生する「流動負債」に対し、すぐに現金化できる「流動資産」がどれくらいあるかを示したもので、流動比率が低い場合、短期的に支払い義務のある流動負債が、すぐに現金化できる流動資産よりも多いということです。一般的に流動比率は130~150%程度が目安とされ、100%を下回っていたら危険信号だといえるでしょう。流動比率は次の式で計算できます。

流動比率(% )=流動資産÷流動負債×100

よりシビアに支払い能力をチェックできるのが「当座比率」です。当座比率は流動資産ではなく、預金や売掛金など、「流動資産のなかでも確実に現金化できる可能性が高い資産」を指します。当座比率は次の計算式で求めることができます。

当座比率(% )=当座資産÷流動負債×100

貸借対照表は、決算年の1年間における会社の資金調達方法と調達した資金の保有・運用方法を示すもので、客観的に経営状況を把握することができます。貸借対照表から経営のリスクや課題を発見し、改善策を見つけていきましょう。

■損益計算書

損益計算書は、「1年間でどれくらい利益を上げたか、もしくは損をしたのかといった経営成績」を示す決算書のひとつで、「収益・費用・利益」の3つの要素から成り立っています。英語では「Profit and Loss statement」と呼ばれることから「ピーエル表(P/L表)」と呼ばれることもあります。

損益計算書は利益を「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つにわけ、売上高の収益の程度や売上高に対する人件費や家賃・仕入れ代金などの原価がどれくらいなのか、売上高とかかった原価の結果、利益はどれくらいなのか、ということがわかるようになっています。

損益計算書の例(単位千円)

項目 金額
経常損益の部 営業損益の部 売上高 950,000
売上原価 550,000
売上総利益 400,000
販売費及び一般管理費 250,000
営業利益 150,000
営業外損益の部 営業外利益
受取利息 1,500
受取配当金 1,000
雑収入 1,000
営業外収益合計 3,500
営業外費用
支払利息 500
為替差損 200
雑支出 100
営業外費用合計 800
経常利益 152,700
特別損益の部 特別利益
固定資産売却益 700,000
投資有価証券売却 200,000
特別利益合計 900,000
特別損失
投資有価証券売却損 30,000
災害による損失 20,000
特別損失合計 50,000
税引前当期利益 1,002,700
法人税、住民税及び事業税など 340,000
当期利益 662,700

それぞれの項目についてみていきましょう。

営業損益の部

売上高 定款に示す会社の本業で稼いだ収益です。本業ではない有価証券売却による利益や不動産収入などは含まれません。
売上原価 売上を上げるためにかかった費用です。小売業であれば仕入れ原価、製造業ならその原材料費などを指します。
販売費及び一般管理費 営業活動上かかった費用です。給与等の人件費や光熱費、オフィスの家賃、出張移動費などが該当します。

売上総利益は売上高から売上原価を引いたもので、「粗利益(粗利)」とも呼ばれます。営業利益は次の計算式で求めることができます。

営業利益= 売上総利益- 販売費および一般管理費

営業外損益の部

営業外利益 不動産収入や株の配当など、本業以外で得た利益で、突発的でないもののことです。
営業外費用 借入金の利息など、本業以外で使った費用のことです。

会社の経常利益は、次の式で求めることができます。

経常利益= 営業利益+ 営業外収益合計- 営業外損益合計

特別損益の部

特別利益 固定資産や有価証券の売却益など、本業以外で得た利益のことです。
特別損失 株による損失や災害補填のために使った費用など、本業以外の損失のことです。

実際の利益は、これらの「営業損益」「営業外損益」から、「特別損益」を引いた金額になり、次の式で計算できます。

税引前当期利益= 経常利益+ 特別利益合計- 特別損失合計

この「税引前当期利益」から「法人税などの各種税金」を差し引いたものが「当期利益」となり、「当期純利益」「最終利益」とも呼ばれます。

損益計算書では、最終的に当期利益がプラスになっているかどうかが大切です。利益は株主の配当原資であり、事業の次期運転資金となることで経営が安定します。ただし最終的な当期利益がプラス= 黒字であっても、営業利益がマイナスとなっている場合は注意が必要です。

特別利益など突発的な収益があったために当期利益がマイナスにならなかったものの、通常の事業活動では利益をあげられていないことになります。営業利益がマイナスとなっている場合は、根本的な事業や資金計画を見直す必要があるといえるでしょう。

■キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書は、「決算の期首に現金がどれだけあって、期末にいくら残っているか」の当期における現金の増減とその理由を示す役割を持った決算書のひとつで、「シーエフ計算書やCFS(C/F、Cash flow statement)」とも呼ばれます。キャッシュフロー計算書を確認することで、決算時に手元にある現金額を把握することができます。キャッシュフロー計算書の例をみてみましょう。

キャッシュフロー計算書の例(単位:円)

1.営業活動によるキャッシュフロー
税引前当期純利益 1,201,700
減価償却費 80,000
売上債権の増減額 56,000
営業活動によるキャッシュフロー(※1) 1,337,700
2.投資活動によるキャッシュフロー
設備投資による支出 - 4,200
固定資産の売却による収入 4,500
投資活動によるキャッシュフロー(※2) 300
3.財務活動によるキャッシュフロー
借入による収入 35,000
借入金の返済による支出 - 37,000
財務活動によるキャッシュフロー(※3) - 2,000
4.現預金の増減額(※1+2+3=4) 1,336,000
5.期首現預金残高(※5) 514,000
6.期末現預金残高(※4+5=6) 1,850,000

現金の動きには「入る」「出る」の2種類しかありませんがあまりに漠然としているため、キャッシュフロー計算書では現金の動きを「その出入りした理由」「出入りした順序」によって、次の3つに区分しています。

1. 営業活動によるキャッシュフロー(売上代金の収入及び仕入代金の支出) 企業の中心的な事業が、どれくらいの資金を生み出しているのかを示しています。
・プラスの場合
事業が資金を生み出している状態です。
・マイナスの場合
事業によって資金が食いつぶしている状態で、在庫圧縮や売掛金回収サイト短縮など対策を検討する必要があります。
2. 投資活動によるキャッシュフロー(設備投資や固定資産の売却など) 設備や事業投資など、投資活動による現金の流れを示しています。
・プラスの場合
固定資産などを売却し、資金を生み出しているということです。
・マイナスの場合
固定資産などを購入しているということです。
3. 財務活動によるキャッシュフロー(借入金の借入及び返済) 資金が不足した場合の資金調達方法と、借りたお金の返済方法を示したもので、銀行からの借入金や返済、株式の発行などが含まれます。
・プラスの場合
融資や貸付を受けている状態です。
・マイナスの場合
営業活動によるキャッシュフローがプラスで、きちんと借入金を返済している状態です。

営業活動によるキャッシュフローと投資活動によるキャッシュフローを足したものが、会社が自由に使える資金「フリーキャッシュフロー」です。フリーキャッシュフローが多ければ多いほど経営基盤は安定し、新事業への投資や借入金の返済、株主への配当金など事業拡大や財務体質の改善などに資金を使うことができます。

一方マイナスまたは0の場合は、資産売却や金融機関からの借り入れなどよって資金をつくる必要があります。

キャッシュフロー計算書の作成は上場企業にのみ義務付けられており、中小企業では作成しないところもあります。資金を客観的に把握し経営分析にも役立つ資料なので、作成しておくといいでしょう。

■3つの決算書の関係

「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」はそれぞれ関係があり、3つの決算書を確認することで企業が置かれている状況を総合的に判断することができます。

「貸借対照表」は事業に必要なお金の調達方法と運用のしかた(財産)を、「損益計算書」は1年でどれくらいの利益があったか(営業)を、「キャッシュフロー計算書」は現金が増減した理由や流れ(資金)をそれぞれ示しています。

会社の経営は「モノ(財産)」「人(営業)」「カネ(資金)」で成り立っており、同時にうまく作用することで事業が成りたちます。決算書も財務三表を総合的に確認することで、会社の状態がわかるのです。

  • 決算書の代表的な3つの種類

    決算書は「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つを総合的にみて判断しよう

決算書の作成方法

決算書は1年間を通し、つけてきた帳簿をもとに次の3つのプロセスで作成します。具体的な決算書の作成方法をご紹介しましょう。

■決算残高の確定

現金・預金・売掛金・買掛金・借入金など、原則としてすべての勘定科目について、決算日現在の各勘定科目の残高と実際の残高が一致しているかどうかを確認します。 「実際の残高・在高」「あるべき残高」と「合計残高試算表の科目残高」を照合していきます。

■税金などの計算

決算残高が確定したら、税金を計算します。税金を計算するときはまず消費税を、その次に法人税等を計算します。

消費税は売り上げなどによって預かっている仮受消費税から、仕入・経費など支出分で支払った仮払消費税を差し引いて計算します。この際計算した消費税は帳簿と多少差が出ますので、その差を修正して最終的な消費税額を算出し、未払い消費税額を決算書に記載します。

法人税等は「法人税・法人住民税・法人事業税」などを指します。これらは専門的な知識を要するため、税理士など会社が契約する専門家が担当するケースが多くなっています。

■決算書の作成

決算残高・税金が確定したら、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書、損益計算書を作成します。決算書はこの財務三表のほかにも、次のものがあります。

  • 株主資本等変動計算書
    1年間を通した当期純利益の使い道やその金額など、純資産の変動を示す資料

  • 個別注記表
    それぞれの計算書や注意事項などについての特記事項を一覧化した資料

  • 事業報告
    株主向けに会社の事業方針やその具体的な内容について報告するための資料

  • 附属明細書
    各決算書の記載事項において補足内容をまとめた資料

会社に取締役が設置されているかいないかなど、会社の機関設計にもよりますが、決算書は、まず経理担当者が作成したものを経営者が確認し、その後役員会での承認を経て株主総会に提出されます。最終的に株主総会で承認されるというフローが一般的です。また社内では作成せず、会社と契約している税理士などが決算書を作成する場合もあります。

  • 決算書の作成

    決算書の作成は帳簿がベースになります。資金の流れは毎日正確に記録しましょう

決算書をマスターして経営・ビジネスに活かそう

決算書は税務書へ提出するために作成するだけでなく、会社の経営状態を客観的にはかるための大切な資料です。決算書の具体的な読み方を理解しておくことで、取引先の経営状態の客観的な判断や自社における今後の経営方針の策定材料などに活用することができます。決算書の読み方・作成方法をマスターし、今後のビジネスに活用していきましょう。