ここまで永瀬王座は2連勝、藤井二冠は2連敗と明暗が分かれる両者の対決

渡辺明王将(名人・棋王)への挑戦権を争う、第70期王将戦挑戦者決定リーグ(主催:スポーツニッポン新聞社・毎日新聞社)の▲藤井聡太二冠(0勝2敗)-△永瀬拓矢王座(2勝0敗)戦が10月26日に東京・将棋会館で行われています。ここまでは明暗がくっきり分かれている両者の対決は、意外な戦型になりました。

藤井二冠の先手番で始まった本局、永瀬王座は4手目に△4四歩と突いて角道を閉じました。雁木模様の将棋にするのかと思いきや、12手目に△4二飛と振って四間飛車を採用しました。

現在では居飛車党の永瀬王座ですが、プロデビュー時は振り飛車党。大山康晴十五世名人を彷彿とさせる受け将棋で、「根絶やし流」とも呼ばれていました。しかし、その後鈴木大介九段のアドバイスで居飛車党に転向します。その理由について、『将棋世界2020年1月号』(発行:日本将棋連盟)誌上で以下のように語っています。

「いま、振り飛車で結果を出している久保利明先生、菅井竜也さん。そして、藤井猛先生も鈴木先生もみんな振り飛車の武器を持っている。しかし、自分は振り飛車では6割くらいしか勝てなかったので、限界は感じていました。それで居飛車を指すことにしました。」

居飛車党に転向してから永瀬王座はタイトル戦に登場するようになり、ついに2019年には叡王と王座のタイトルを獲得。今年は叡王の防衛には失敗してしまったものの、王座は防衛を果たすなど、トップ棋士の一人として大活躍中です。

その永瀬王座が四間飛車を指すのは久しぶりで、2017年8月以来。この将棋は角交換四間飛車の戦型でした。本局のような角道を閉じた四間飛車は、15年6月以来の採用です。

強敵藤井二冠相手に、今回永瀬王座が久しぶりに四間飛車を採用した背景には、久保九段の挑戦を受けた今期の王座戦があると見て間違いないでしょう。永瀬王座がフルセットで防衛した五番勝負は、久保九段が全局飛車を振る、対抗形シリーズとなりました。四間飛車は久保九段の得意戦法の一つ。永瀬王座は入念に研究したことでしょう。その中でキラリと光る鉱脈を発見したため、本局の採用に至ったのではないでしょうか。

かつての振り飛車の囲いは、ほぼ美濃囲いと穴熊の2つだけでしたが、近年では新たな布陣が流行しています。一つはミレニアム囲いに組む形。王座戦第1局で久保九段が採用したものです。もう一つは金無双にする「耀龍四間飛車」と呼ばれる形です。

本局もそのどちらかになるかと思われましたが、永瀬王座は従来の美濃囲いに組みました。これは藤井二冠が右銀を素早く繰り出す急戦策を採用したためでしょう。新型の布陣は組むのに手数がかかるため、急戦を迎え撃つには適しません。

本局は結局、昔懐かしの四間飛車対居飛車急戦に近い将棋になりました。違いは藤井二冠が▲7七角と上がっている点。従来の急戦策には不要の一手です。これを生かす戦いにするのか、それとも気にすることなく攻めていくのかが注目ポイントとなります。もしかしたら右銀で敵陣にちょっかいを出した後に、おもむろに穴熊や左美濃に組み始めることもあるかもしれません。

ここまで2連勝の永瀬王座は、ここで強敵を破れば挑戦権獲得に大きく前進します。一方2連敗の藤井二冠は敗れると挑戦権獲得が完全に消滅する上、残留も厳しくなってきます。どちらも負けるわけにはいかない大一番。決着は本日夜となる見込みです。

「VS」と呼ばれる研究会仲間の永瀬王座(左)と藤井二冠(提供:日本将棋連盟)
「VS」と呼ばれる研究会仲間の永瀬王座(左)と藤井二冠(提供:日本将棋連盟)