「朝、なかなか起きられない」「起床直後に頭がぼんやりする」「日中の眠気が強く、仕事や勉強に支障がある」……。これらの条件に当てはまる人は、睡眠時間が足りていない可能性があります。
睡眠不足の自覚があれば改善できますが、怖いのは、知らず知らずのうちに睡眠不足に陥って「睡眠負債」がたまっているケースです。この記事では、睡眠負債の基本的な知識と、睡眠負債の解消方法をご紹介します。
睡眠負債とは
「睡眠負債」とは、必要な睡眠時間に対する不足分が借金(負債)のように積み重なり、心身に不調を引き起こす状態を指しており、スタンフォード大学のWilliam C. Dement教授が提唱した言葉と考えられています。
日本では睡眠負債を抱える人が増えてきています。厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2018年)では、平均睡眠時間が「6時間未満」と回答した人が、男性・女性とも約4割もいました。さらに、毎年行われる同調査では「睡眠で休養が十分にとれていない」と答えた人の数が2009年から増加傾向にあります。
睡眠負債の特徴
睡眠負債には以下のような特徴がみられます。
慢性的な睡眠不足
睡眠負債は、慢性的に睡眠不足が続いている状態を指します。
夜になかなか寝つけなかったり徹夜したりして翌日に睡眠不足になることは、誰にでもあることです。しかし、睡眠負債は「一日の睡眠時間が足りていない」という程度ではなく、睡眠時間が足りない日が何日も続き「慢性的に睡眠不足が積み重なっている」状態がみられる点が特徴です。
)無自覚である
通常は睡眠不足になると日中に眠気を感じたり「眠りが十分ではない」といった自覚を持ったりするものです。しかし、睡眠負債では睡眠不足であるにもかかわらず、そこに無自覚であるケースが多いと言われます。
人によって適切な睡眠時間は異なりますが、自分に適した睡眠時間よりも短い時間しか寝ていない日が続いているにも関わらず、睡眠不足を感じないときは要注意です。気づかないうちに睡眠負債がたまっている可能性があります。
睡眠負債の原因
心身に不調をもたらす睡眠負債は、どのようなことが原因で引き起こされるのでしょうか。
純粋な睡眠量不足
まず考えられるのは純粋に睡眠量が不足しているということです。上述のように睡眠不足に陥っている事実に自覚がない場合、気づかずに睡眠不足がたまっていき睡眠負債が増えていく恐れがあるので注意が必要です。
睡眠リズムの乱れ
睡眠リズムの乱れも睡眠負債につながります。睡眠リズムとは、朝起きる時間・夜寝る時間のリズムのことです。このリズムが崩れると体内リズムも乱れ、早朝覚醒(朝起きる時刻よりも早く目覚めてしまう)や寝つきの悪さ、睡眠の質の低下につながります。リズムの乱れが原因で睡眠不足が続くと睡眠負債に陥る可能性があります。
睡眠負債による症状
睡眠負債に陥ると心身にどのようなリスクがあるのか、代表的なものをご紹介します。
ストレスへの耐久性の低下
睡眠負債とストレスには深い関係があり、ストレス耐性は睡眠時に分泌量が変化する「コルチゾール」と呼ばれるホルモンが影響しています。
コルチゾールの分泌量は体内リズムによって変化します。通常は、就寝の数時間後にコルチゾールの分泌量が増え、早朝の起きるころまで上昇していき朝のスッキリとした目覚めに役立ちます。その後は夜になるにつれて徐々に分泌量が下がっていきます。
コルチゾールは、適切な分泌量が保たれていれば、記憶力や集中力アップに寄与するなどよい効果があります。しかし、ストレスを過剰に受け続けるとコルチゾールの分泌量が慢性的に高くなり、ストレス関連の疾患につながったり睡眠時間の減少や眠りの浅さなどにつながったりします。コルチゾールの分泌量が原因で、体重増加や生活習慣病発症のリスクが高まることもあります。
免疫力の低下
睡眠負債によって「免疫力」も低下します。私たちの体には「免疫系」と呼ばれる、ウイルスや細菌などを排除して体を守ろうとするしくみが備わっています。この免疫系の力のことを「免疫力」と呼びます。 睡眠不足が数日続いただけで免疫力が低下してしまい、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなってしまいます。
生活習慣病リスクの増加
睡眠不足が続くと生活習慣病の発症リスクが高まることが多くの研究結果からわかっています。実際に慢性的に寝不足状態の人は、糖尿病や心筋梗塞、狭心症などの生活習慣病にかかりやすいと報告されています。 慢性的な睡眠不足は日中の眠気を引き起こしたり記憶力・やる気などを低下させたりするだけでなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を与えるため、病気になる可能性も上げてしまうのです。
睡眠負債を解消・返済するためのコツ
健康のためには、睡眠負債をなるべく早めに解消することが重要です。睡眠負債がたまっているときは、以下のことに気をつけましょう。
眠り始めを大切にする
睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠の2つの睡眠状態があります。レム睡眠のときには脳が活動し、その日の出来事や記憶を整理してくれます。一方、ノンレム睡眠のときは脳と体が休息状態になります。睡眠時には、この2つの睡眠状態をバランスよく繰り返すことで、質の良い睡眠につながります。
特に重要なのが、眠り初めに訪れる最初のノンレム睡眠の30~90分間です。このときが一晩で最も深い睡眠状態となり、脳と体がしっかり疲労回復できるタイミングです。最初のノンレム睡眠がうまくとれないと、十分な時間寝ても心身が休まらず、翌朝「眠りが足りない」と感じることがあります。
最初のノンレム睡眠をしっかりとるには、睡眠前に脳と体がリラックスした状態であることが重要です。寝る直前の大量の食事や熱めのお風呂、激しい運動などは、脳と体に刺激を与えてしまいます。また、寝る前にPCやスマホ、テレビなど見るのも脳への刺激となります。 就寝1時間前には、寝る準備を済ませ、ストレッチをしたり穏やかな音楽を聴いたりしながら心身を緊張から解放し、ゆったりと過ごすのがおすすめです。
睡眠時間を少しずつ長くしていく
睡眠負債を“返済”するには睡眠時間を少しずつ長くしていきましょう。例えば昨日よりも30分から1時間程度長く寝るように意識します。睡眠時間を1時間増やすには、1時間早く寝たり遅く起きたり、もしくは30分早寝して30分遅く起きる方法もあります。
15分ほどの短い昼寝をするのもよいです。ただし、睡眠リズムが乱れてしまうため、昼寝が30分以上にならないように気をつけます。
休日に寝だめをして睡眠負債をまとめて返済しようとする人がいますが、これも睡眠リズムの乱れにつながり睡眠の質を下げてしまうので避けましょう。
寝だめでは解消できない睡眠負債
質の高い睡眠をとることで、脳や体の疲労回復、免疫力アップなどにつながります。しかし、睡眠不足が続き睡眠負債が溜まると、脳も体も疲れがとれず、日々の生活や仕事、学業などのパフォーマンスが低下してしまいます。さらには、生活習慣病のリスクが高まる可能性もあります。
毎日を健康的に有意義に過ごすためにも、睡眠負債が溜まらないような生活を心がけましょう。