都内の浅草駅から栃木県の東武日光駅まで、乗換えなしで結ぶ東武鉄道の特急「けごん」。筆者は「SL大樹『ふたら』」のイベントを取材するため、特急車両100系「スペーシア」で運行される下り「けごん9号」に乗車した。

  • 東武鉄道の特急車両100系「スペーシア」(「粋」編成)

下り「けごん9号」は浅草駅を8時30分に発車する。車両は水色のラインと青い2本のラインが特徴的な「スペーシア」の「粋」編成だった。1990(平成2)年のデビュー当初、「スペーシア」はオレンジのラインと2本の赤いラインが特徴的なカラーリングだった。筆者も登場時の塗装をまとった「スペーシア」に家族で乗ったことがある。

■「スペーシア」のカラーリングは現在4種類

「スペーシア」は2011年12月以降、順次リニューアルが行われ、現在は紫色と青い2本のラインの「雅」編成、水色と青い2本のラインの「粋」編成、オレンジと青い2本のラインの「サニーコーラルオレンジ」編成、そして金色の車体に朱色と黒のラインが高級感を醸し出す「日光詣スペーシア」の4種類のカラーリングに分かれている。

浅草駅を発車した「けごん9号」は、いきなり急カーブに進入。浅草駅が松屋浅草ビル内の狭い用地にあるため、隅田川を渡る前に急なカーブを抜けなければならない。このカーブのきつさは、進行方向右側の車窓から前後の車両が見えるほど。隅田川を渡りながら東京スカイツリーを眺めつつ、最初の停車駅、とうきょうスカイツリー駅へ。

  • 東武鉄道の浅草駅。ホーム先端から急カーブにさしかかっている

  • 隅田川を渡るべく写真左の方向へ走る「スペーシア」(「雅」編成)

次の北千住駅までは、東京の下町を縫うように走る。この区間はカーブが多く、特急列車といえどもあまり速度は出せない。牛田駅を通過した後、右に大きくカーブしたところで、左手から東京メトロ日比谷線が高架線で合流。北千住駅に到着となる。

北千住駅から北越谷駅までは複々線区間となり、特急列車は外側の急行線を走る。内側の緩行線を走る各駅停車を何本も追い抜きながら、特急列車らしい速さで住宅地を駆け抜けていく。

越谷駅で東京メトロ半蔵門線から直通してきた電車を追い抜く。北越谷駅を通過すると複々線区間は終了となるが、「けごん9号」は速度を緩めずに快走した。春日部駅の1駅手前、一ノ割駅を通過したところで減速を始め、左に大きくカーブしながら東武アーバンパークライン(野田線)と合流し、春日部駅に到着した。

■ビュッフェも利用可能、1人でもグループでも快適な車内

日光・鬼怒川方面の特急「けごん」「きぬ」で活躍する特急車両100系「スペーシア」は6両編成。下りの先頭車から1号車・2号車と続き、最後尾が6号車となる。その6号車は個室車で、4人掛けのコンパートメントルーム(個室)を6室備えている。停車駅などのアナウンスには自動放送が使用され、日本語、英語、中国語、韓国語に対応している。

  • 「スペーシア」6号車のコンパートメントルーム(2011年撮影)

3号車には自動販売機をはじめ、軽食やおみやげなどを販売するビュッフェが設置されている。筆者は浅草駅の売店で事前に飲み物と弁当を購入したが、車内でも温かい紅茶を追加で購入し、少しずつ飲み進めながら過ごした。乗客の中には、購入したビールを自分の席に持って行く人もいた。

1号車から5号車までの座席は青いモケットのリクライニングシートで、肘掛けにテーブルが収納されている。足元にはフットレストがあるので、靴を脱いで全身を預け、めいっぱいくつろぐのも良い楽しみ方ではないだろうか。また、各席上部にはエアコンの吹き出し口と、筆者は使わなかったがスポットライトもある。

  • 「スペーシア」の車内(2011年撮影)。青いモケットのリクライニングシートを備える

肘掛けのテーブルに加え、窓下にもテーブルが収納されている点もありがたい。1人で使っても便利だが、座席を向かい合わせにして、窓下のテーブルを展開すれば、4人でテーブルを共有できるようになる。筆者が乗車した5号車の車内を眺めてみると、1人で乗っている人もいれば、夫婦やカップルで乗っている人、さらには観光に向かう学生と思われるグループも乗っていた。

■黄金色の平野部から次第に山の風景に

「けごん9号」は東武動物公園駅を通過し、東武日光線に入る。ここからは沿線の景色が一変し、開けた景観になる代わりに駅間距離も長くなる。しばらく田園地帯を走行し、住宅地が見えたところで南栗橋駅を通過した。特急列車はすべて通過するが、特急列車に乗らずに日光方面に向かう場合、この駅で乗換えとなる。

JR宇都宮線と接続する栗橋駅を過ぎると、田園風景がさらに広がり、稲穂が黄金色に色づいていた。乗車日の時点で、すでに稲刈りを終えていたところもあったが、それでも一面に広がる黄金色の車窓に見とれてしまう。各駅停車の待避が可能な新大平下駅を通過すると、次第に住宅地が見え始め、JR両毛線が左手から接近して、栃木駅に到着する。

ここまではずっと先まで見渡せるような平坦な地形が続いていたが、楡木(にれぎ)駅付近からいよいよ車窓左手を中心に山々が近づき始める。新鹿沼駅以降はさらに山林が接近し、間を縫うように、「けごん9号」は軽やかに走行。目ではわかりにくいが、下今市駅まで上り勾配が続いており、VVVFインバーター制御の音からその懸命な走りが耳に伝わった。

木々を抜けて視界が開け、右手から交差してくるJR日光線を跨いだら、間もなく下今市駅だ。ここから先は東武日光方面(日光線)と鬼怒川温泉方面(鬼怒川線)の2方向にレールが伸びている。鬼怒川温泉方面の先は福島県の会津田島駅や会津若松駅にもつながっているのだから驚く。

なお、ホームに隣接してSL下今市機関区と一般利用者向けのSL転車台広場がある。休日は家族連れや鉄道ファンでにぎわいそうだ。

■坂を駆け上がって東武日光駅へ、駅前に保存車両も

終点の東武日光駅まであと少し。右手に別れる鬼怒川線を見送った後、坂を上りながら左にカーブし、上今市駅を通過する。その次が東武日光駅だが、長い駅間距離に加え、上り勾配も続く。「けごん9号」はモーターを唸らせ、力強く駆け上がる。やがて坂を上りきり、左手にJR日光駅を眺めつつ、10時23分、東武日光駅に到着した。

東武日光駅の駅舎は三角屋根が特徴的な山小屋風の建物。駅前からは日光東照宮や中禅寺温泉など各方面に向かうバスが発着しており、日光観光の玄関口となっている。駅前広場には1953年から1968年の廃線まで東武日光軌道線を走った100形も静態保存されている。日光に路面電車がいたことを現在に伝える貴重な車両なので、こちらもぜひ見ておきたい。

  • 東武日光駅に到着

  • 東武日光駅の駅前広場に、元日光軌道線の100形も

浅草駅から東武日光駅まで、「けごん9号」は1時間53分かかった。特急料金をかけても2時間近くかかるほどの距離はあるが、乗り心地は良く、車内で軽食を買うこともできるので、1人でもグループでも楽しめる。「スペーシア」のカラーリングは計4種類あるので、乗る編成とすれ違う編成で色の違いに着目するのも面白い。日光・鬼怒川観光の行き帰りに乗ってみてはいかがだろうか。