睡眠は、健康的な生活を送るために欠かせない要素です。しかし、普段「いい睡眠がとれている」と感じられている人は少ないのではないでしょうか。毎日とる睡眠だからこそ、基本的な知識を身につけ、質を上げることが重要です。 いつまでも健やかに暮らすために、今日から実践できる睡眠の質を上げる方法をご紹介します。
「睡眠の質が良い」とは
「睡眠の質が良い・悪い」といった表現をよく耳にするかと思いますが、睡眠の質を理解するためにまずはまず睡眠のメカニズムについてお話しします。
私たちは通常、睡眠中に「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2つを繰り返しています。ノンレム睡眠中は脳が休んでおり、深い眠りの状態になります。一方で、レム睡眠中は脳が活動しているため浅い眠りの状態にあると言えます。
ノンレム睡眠にはレベルがあり、最も深い眠りを得られるのは入眠直後から睡眠の前半部分だと言われています。前半に深い眠りにつけるかどうかが質の良い眠りのポイントになるでしょう。
質の良い睡眠がとれると、朝起きたときに「よく眠れた」と実感できます。反対に睡眠の質が悪いと、十分な時間を寝ても疲れがとれなかったり起床時刻になっても起きるのがつらかったり、あるいは日中に強い眠気を感じたりすることがあります。
続いて、質が良い睡眠の条件を4つに分けて解説します。
■1.適正な睡眠時間がとれている
寝不足(短時間の睡眠)も、寝すぎ(長時間の睡眠)も体にはよくありません。しかし、適正な睡眠時間は人それぞれで異なるため「一日何時間眠ればいい」とは一概に言えません。
そこで「日中に眠気がないか」を目安に、自分に最適な睡眠時間が何時間程度なのかを知ることが大切です。自分に合った睡眠時間がわかったら、毎日同じ時間に眠るように意識しましょう。
■2.寝つきが良い
寝つきがいいことも質が良い睡眠の条件です。ベッドや布団に入って15分以内に眠れている場合は、寝つきには問題がありません。ただし、ベッドや布団に入って1分以内に眠ってしまう場合は寝不足などの要因が考えられます。
■3.中途覚醒しない
中途覚醒とは、寝ている間に何度か起きてしまったり一度起きてしまってから寝られなくなったり、起床時刻の2時間以上前に起きてしまったりすることです。途中で起きることなく起床時刻までぐっすり眠れることも良い睡眠の条件です。
■4.寝起きが良い
起床時刻に頭や体がスッキリした状態で起きられるなら、質の良い睡眠がとれているために寝起きが良いと判断できます。反対に、十分に寝ても朝に疲れがとれなかったり起床時刻になかなか起きられなかったりする場合は、寝起きが悪いと言えます。
1週間の睡眠を振り返ってみて「睡眠不足」「寝過ぎ」「寝つきが悪い」「中途覚醒がある」「寝起きが悪い」といった状況が数日間続いている場合は注意が必要です。 生活習慣の見直しなどでも改善されない場合は専門科を受診しましょう。
睡眠の質が悪くなる原因
睡眠の質は、さまざまな要因によって悪化してしまいます。睡眠の質を下げる代表的な原因を解説します。
■生活習慣が不規則である
生活習慣が不規則だと、睡眠の質が悪くなることがあります。睡眠の質を保つために重要なのは、生活リズムを一定にして睡眠時間と体内リズムを整えることです。
朝起きるのがつらかったり日中眠くなることが多かったりする場合は睡眠時間が足りないサインです。自分に合った睡眠時間を毎日確保するようにしましょう。
また、一日でも夜更かしや徹夜をしたり休日にいつもより遅く起きたりすると、体内リズムは乱れてしまいます。体内リズムが乱れると寝つきが悪くなったり、睡眠時間は十分なのに寝起きが悪くなったりします。
■ストレスがたまっている
ストレスは睡眠の質に大きく影響します。ヒトの自律神経は、交感神経と副交感神経の2つがバランスを保つことで、うまく機能しています。通常、日中の活動時間は交感神経が優位に働き、夜のリラックスタイムや就寝時は副交感神経が優位に働くようになっています。しかし、ストレスがたまっていることで自律神経のバランスを崩してしまうと、眠る時間になっても交感神経が優位に働き、寝つきを悪くしたり睡眠の質を悪くしたりする原因となります。
■寝室環境が整っていない
寝室の環境が悪いことも睡眠の質を下げます。就寝時に寝室が明るすぎると脳が刺激され、眠りが阻害されます。「寝るときに外の音が気になる」「湿度や温度が低すぎたり高すぎたりして不快」といった状況も、自覚はしていなくても体にとっては意外とストレスになり眠りの質を下げてしまいます。
睡眠の質の悪化が心身に与える影響
睡眠の質が悪くなると、心身にさまざまな悪影響を及ぼします。中でも、生活や人生にも関わるような影響は次の2つです。
■記憶力・判断力・集中力の低下
睡眠の質が悪いと記憶力や判断力、集中力が低下し、学業や仕事にもネガティブな影響が出てきます。脳は睡眠中、その日の出来事や覚えたことなどを整理して記憶の定着を図っており、質の悪い睡眠はこのタスクを阻害しかねません。
睡眠不足がストレスにつながることもあるため、眠りの質が悪く不安感やストレスが解消されないままだと、判断力や集中力の低下から普段しないようなミスが多発してしまうケースもあるでしょう。
■生活習慣病リスクの増加
複数の研究結果から、睡眠不足の日が続くとがんや糖尿病、高血圧といった生活習慣病や精神疾患、認知症など、さまざまな疾病の発症リスクが高まることがわかっています。
例えば、平均睡眠時間が7時間の人の糖尿病発症リスクを1とすると、5時間以下で約2倍、逆に8時間より長いと約3倍、糖尿病になりやすいと言われています(※1)
睡眠時間は死亡率にも関連しています。約10万人の日本人を対象とした大規模コホート研究によると、睡眠時間が7時間台の男女の死亡リスクを1とすると、睡眠時間4時間以下の死亡リスクは男性が1.29、女性が1.28でした。同様に10時間以上では男性が1.41、女性が1.56となっており、睡眠時間が長すぎても短すぎても体を壊すリスクがあるということがわかります(※2)。
また、十分な睡眠がとれていないと免疫機能の働きが悪くなり風邪などにかかりやすくなってしまいます。
睡眠の質を上げるために今日からできること
それでは、睡眠の質を上げるには、どんなことをしたらよいのでしょうか? 今からできる方法をご紹介します。
■起床時間・就寝時間をそろえる
起床時間と就寝時間がバラバラだと体内時計も乱れ、睡眠の質を下げてしまいます。起床と就寝の時間は、毎日なるべくそろえるようにしましょう。ただし、多少時間がずれてしまったとしても30分程度なら問題ありません。
寝起きが悪いと感じている人は特に起床時間をそろえることが重要です。また、長時間の昼寝は夜に寝つきにくくなる原因となることがあります。昼寝は30分以内に留めるようにしましょう。
■食事を一日3回、規則正しく摂取する
食事は朝、昼、晩に3回、なるべく決まった時間に食べるようにしましょう。特に朝食を食べないとエネルギーの補給ができず睡眠のリズムがずれてしまうので、忙しい朝でも手軽に食べられる物を用意しておくのがおすすめです。
寝る直前の飲食は消化活動によって睡眠の質を下げるため、食事は就寝の3時間前までに済ませるのが理想です。遅くとも、就寝1時間前には夕食を終えるようにしましょう。
■就寝前にブルーライトを浴びないように注意する
ブルーライトは睡眠の質に大きく関わります。ブルーライトはスマートフォンやパソコン、テレビ、ゲーム機器といったデジタル機器の画面から発せられる青色光で、ヒトの目で見える光の中で最も波長の短くて強いエネルギーを発します。
夜や就寝前にブルーライトを浴びると睡眠ホルモンである「メラトニン」が分泌されにくくなります。メラトニンが分泌されないと体内時計が後ろにずれてなかなか寝つけなかったり起床がつらくなったりします。
そこで、就寝の1時間前には、スマートフォンなどの画面を見ないように気をつけましょう。どうしても夜間に画面を見る必要がある場合は、ブルーライトをカットできる画面シールや眼鏡などを活用するとよいです。
■就寝前にカフェインの摂取をしないようにする
ご存じの方も多いかと思いますが、カフェインには覚醒効果があります。そのため、日中の眠気覚ましには有効ですが、就寝前にコーヒーなどのカフェインが入ったものを摂取してしまうと、眠りの質を下げてしまいます。夕方以降はカフェインの摂取を控えたほうが、睡眠には良いと言えます。
■なるべくお風呂につかる頻度を増やす
特に夏の入浴はシャワーで済ませる方も多いかと思いますが、なるべくお湯にゆっくり浸かるほうが睡眠の質を上げてくれます。例えば38度などのぬるめのお湯に30分ほど浸かると体温が上がり、血流が良くなってリラックス効果が得られます。そして、お風呂上りに体温が下がっていくことでスムーズな寝つきにつながります。体温を下げるため、就寝の2~3時間前の入浴がおすすめです。
■寝室の光や温度、湿度を調整する
光や気温、湿度といった環境も睡眠に影響があります。眠る前から徐々に部屋の明かりを暗くし、就寝時には遮光カーテンなどを利用し寝室が真っ暗になるようにしましょう。就寝時の適切な温度は夏は25~28度、冬は16~20度程度だといわれています。また、湿度は夏なら70%以下、冬なら湿度50%以下が理想的です。エアコンなどの冷暖房機器や除湿器、加湿器などを活用して快適に眠れる温度と湿度を保ちましょう。
睡眠の質の向上は規則正しい生活習慣から
睡眠には脳や体の休養、疲労回復、記憶の定着、ストレスの緩和など、健康的な生活に必要なさまざまな役割があります。質の良い睡眠をとって健やかな毎日が送れるよう、今日から生活習慣を改善してみませんか?
※1:Yaggi HK. et al. Diabetes Care 29:657, 2006.
※2:Ikehara S, et al.; JACC Study Group. Association of sleep duration with mortality from cardiovascular disease and other causes for Japanese men and women: the JACC study. Sleep. 2009; 32: 295-301.