アドビの年次クリエイティブカンファレンス「Adobe MAX」では、研究開発段階にある技術の“チラ見せ”「SNEAKS(スニークス)」を発表することが恒例となっている。
完全オンライン開催となった「Adobe MAX 2020」でも、未来の新機能になるかもしれない「SNEAKS」を披露。司会進行は米国で、技術者はドイツやインド、フランスなど世界各地からリモート共演して進行された。
例年であればリアルイベントでの発表なので、聴衆の歓声やリアクションが自然と採否の指標になる。だが今回はオンラインイベントということもあって、「SNSでの反響を加味して採用を決める」と明言された。
ここからは、発表された未来の新機能候補について列挙していく。
Comic Blast
テキストで物語を描いて読み込ませると、内容を解析して自動でコマ割りと吹き出しがつけられる。作家の感性と技量がすべてだった漫画制作に、テクノロジーでの自動化を適用した意欲的な機能だ。生成して終わりではなく、コマの幅調整やコマの追加、隣り合った吹き出しの合成もドラッグアンドドロップで行える。
そのほか、紙以外の媒体で楽しむコミックの形態として、選択肢に応じて筋書きのかわるアドベンチャーブックのようなストーリーの生成、コマ単位でのアニメーションの追加も可能だ。
デモンストレーションでは「プロレベルのコミックを作れるツール」とアピールされていた。個人的には、コマ割りや吹き出しの配置はそれだけで職人技と言える部分が多数あるため、漫画に挑戦中の初心者や、テキストで物語は作れるがイラストは描けない…という人にこそ、恩恵の大きい技術と感じた。
AR Together
スマートフォンを使って現実世界にCGを表示する「AR機能」。多くはひとつのデバイスでしか使えないが、AR Togetherでは複数人で共同で編集する。
スマートフォンの内部センサーで相手の機器の相対的位置を予測することで、複数のスマートフォンを使っていても、ARオブジェクトを現実の同じ位置に出すことを可能にした。招待された側・した側の分け隔てなく、双方向に編集も行える。
Sharp Shots
動画のブレ、ぼけをワンクリックで自動修正。Adobe Senseiを活用した技術だ。車の走行中や音楽演奏など、動きの多い動画はブレが気になることは多い。気軽に撮って手軽に直せるのは、動画のSNS投稿が盛んな現代にフィットしている。
2D Plus
多数のベクター画像の配置を簡単に変更。遠近感を出したり、パスに沿っての整列をしたりできる。グラフィックデザイナーがこれまで時間を必要としてきた作業を数秒で終わらせる。ハイライト・影の自動付与機能も紹介された。
Scantastic
3Dのアセット(素材)は増えてきたが、用途にあったものを探すのはまだまだ手間がかかる。そこで、手元の物体を、スマートフォンで写真を撮るだけで素材化する。3Dソフト「Adobe Dimension」にすぐ読み込んで使える。実物から3Dを作るという手法から、Web通販の商品情報への活用も示唆された。
In Sync
デザイナーが制作したWebデザインを、Adobe XDと、Adobe製品ではないデベロッパーのアプリとの間でリンクさせることで、クライアント・デザイナー間での円滑な情報共有を実現する。クライアントに最新のデザインを見せたつもりが反映が遅れており、認識にすれ違いが起こる…などのトラブルを防げる。
Typographic Brushes
フォントをApple Pencilでなぞると、ブラシの軌跡を適用した装飾的な文字を作成。ブラシのストロークをすべての字形に反映するため、何度も描く必要はない。アルファベットだけでなく日本語(ひらがな)にも瞬時に適用されることがアピールされた。
Material World
写真から素材を読み込んで、3D空間にその質感込みのCGマテリアルを呼び出せる。写真は自分で撮影しても、素材を読み込んでもOK。3Dモデルに写真をはるだけだとのっぺりしてしまうが、この機能ではAdobe Senseiを活用して質感のパラメータを持たせて適用するため、布の編み目の立体感なども再現。あとからパラメータの調整もできる。
On the Beat
音楽のビートにあわせて、動画中の人の体の動きを調整。それぞれ別の動画の素材をつなげあわせても、動きをBGMにあわせて同期させられる。
Physics Whiz
3D編集作業では、「本を積み上げた状態」を作るのが難しい。それは、CGモデル同士が接すると互いにめりこんでしまう(交差する)ためだ。現実の物理法則をCG空間に持ちこんで、まるで現実でものを置くように3Dオブジェクトを操作できることで、配置がぐっと楽になる。
実装されるかは反響次第!
前述の通り、これらは開発中の新機能「候補」であり、実装されるかどうかは今回の発表に対する反響で決まる。欲しいと思った機能には、イベント公式ハッシュタグ「#AdobeMAX」「#AdobeMAX2020」と、デモ動画中左下に表示されているハッシュタグなどを追加して、TwitterなどのSNSに投稿してみると後押しになりそうだ。また、SNEAKSの内容は「Adobe Labs」上で閲覧できるため、気になるものはぜひ動画でチェックしてみてほしい。