Intelの新ファブは先端プロセスを活用できるのか?
Intelは、National Manufacturing Dayに、同社にとって最新のメガファブである米国アリゾナ州のFab 42を公開した。
IntelのCEOであるBob Swan氏はNational Manufacturing Day 2020にあたり、「Intelがアリゾナ州にはじめて半導体工場Fab 6を建設したのは1980年のことで、それから最新の半導体製造施設であるFab 42に至るまでアリゾナでの半導体製造40周年を迎えた。そして、アリゾナ工場で1万2000人のハイテク従事者の雇用を生んできた。Fab42には70億ドル(7400億円)を投資し、すでに3000人を雇用した。Fab 42を建設が完了するまでに総勢1万人の雇用が生まれた。Fab42は隣接する既設3ファブともネットワークおよび連絡通路で結び、Intelにとって最初のメガファブとなっている。これまで合計230億ドルをアリゾナ工場に投資してきたことになる」とのメッセージを発表した。しかし、Fab 42の生産品目については「最新世代の製品(our newest generation of leadership products)」ときわめて抽象的に述べるにとどめた。
実はFab 42の歴史は、そのまま2010年半ば以来長期にわたるIntel先端半導体製造低迷の歴史でもある。同社は、2011年2月18日、米国アリゾナ州に50億ドル以上を投じ、新しい製造施設Fab42を既設のFab 12、22、32の隣接地建設するに発表した。300mmあるいは450mmウエハを用いた14nmデバイス製造の世界最初の工場になるはずだった。2013年末までに建屋は完成したが、2014年1月に期間の定めのない稼働延期を発表し、設備を導入せず、長期にわたり放置された。スマートフォンの台頭で、PCの需要が急激に低下していったのは、Intelにとって予想外の出来事だった。
ところが、2017年2月8日に突然、IntelのCEO(最高経営責任者)であるBrian Krzanich氏(当時、のちに社内不祥事に出て辞職)は米国ワシントンD.C.のホワイトハウス大統領執務室においてトランプ大統領と会談し、同社が米国アリゾナ州チャンドラーに保有する半導体製造工場「Fab 42」に、70億ドルを投資するとホワイトハウスからトランプ大統領とともに派手に発表した。
Intelは、Fab 42は、3~4年後をめどに稼働開始予定と発表したが、すでに建屋が完成しているのに稼働開始までそんなに長期間を要することが不思議に思う向きもあった。7nmデバイス製造のためにASMLによるEUV露光装置の量産機の開発を待っているのではないかと半導体業界内では憶測も飛び交ったが、実は、そのころ10nmプロセスを用いた開発段階での歩留まりが低迷したままで量産のめどが立っていなかった。さらに2020年7月23日、CEOのBob Swan氏が、オレゴン州の開発ラインで、7nmプロセスの試作段階の歩留まりが1年にわたり低迷したままで、これを用いて製造するはずだったCPUの発売延期を発表した。このため、せっかく準備していたFab 42での7nmデバイス量産はペンディングとなってしまっている。
一方、TSMCは、米国政府の要請で、高額の補助金をもらってアリゾナ州に半導体工場を建設する予定だが、その生産能力はわずか月産2万枚と小規模で本気度が感じられないという向きもあるが、Intelがもしもファブレスになったら米国政府は同州内に進出するTSMCにFab42の買収を含むアリゾナ工場売却をIntel持ち掛けるのではないかとのジョークのような憶測が半導体業界内に出始めている。
なお、Intelは、Natrional Manufacturing Dayに合わせてFab 42の紹介ビデオ「Intel Manufacturing Day 2020 from Arizona's Fab 42」を、誰でも登録なく自由に閲覧できる形でネット上にアプロードした。このビデオには、クリーンルームのある建屋外観や純水製造棟やクリーンルーム内の多数のOHS(天井搬送無人走行シャトル)の試運転のような光景ばかりで、先端プロセスを用いた製造を強調する様子をうかがい知ることはできない。