アドビは10月20日(米国時間)から3日間にわたってオンラインで開催するクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2020」にあわせて、「Adobe Illustrator」のiPad版をリリースしました。リリース日は10月21日(日本時間)を予定していましたが、時差の関係からか、日本では少し早く10月20日に公開されました。
これは、昨年(2019年)のAdobe MAXで発表され、2020年10月からApp Storeにて先行予約が開始されていたもの。Apple Pencilが利用可能なすべてのiPad製品に対応し、Adobe Creative Cloudのメンバーで、デスクトップ版「Adobe Illustrator」のユーザーであれば、無料で利用できます。
アドビの看板製品、ついにiPad対応
「Adobe Illustrator」は1987年にリリースされた、33年の歴史を持つソフトウェアで、グラフィックデザインの発展に大きく貢献してきたアドビの看板製品です。iPad版のリリースは2019年の「Adobe Photoshop」に続くもので、これでアドビのツートップともいえる2製品がiPadに対応したことになります。
2020年10月からの先行予約では4万2,000人のユーザーから申し込みがあるなど、注目度の高い看板製品。それだけに開発にあたっては、ユーザーの声を取り入れるために、かつてない大規模なベータテストが実施されたようです。アドビによればベータテストには、ユーザーコミュニティから5,000名が参加。イラストレーターのサタケシュンスケ氏など、日本人クリエイターも数多く参加し、ベータ版を使って2,100点ものデザインが作成され、1,200件のフィードバックやリクエストが、製品に取り込まれたといいます。
Apple Pencilに最適化された直感的なUXを採用
Illustrator iPad版のユーザーインタフェースは、Photoshop iPad版やスケッチ&ペイントアプリの「Adobe Fresco」と共通したものになっていて、起動するとまずホーム画面が表示されます。
最近使用したファイルにすばやくアクセスできるほか、「学ぶ」というメニューがあり、クイックツアーやビデオなど多くのチュートリアルが用意されているなど、Illustratorに初めて触れるユーザーにもわかりやすく工夫されています。
ドキュメントは新規作成のほか、クラウドドキュメントからも読み込めます。デスクトップ版のIllustratorや、Photoshop、Frescoとも共通のドキュメントを使ってシームレスに作業ができます。
編集用のワークスペースはデスクトップ版を踏襲しつつ、左にツールバー、右にタスクバーという、やはりPhotoshopやFrescoと共通のApple Pencilで操作しやすいシンプルな配置。Illustratorの既存ユーザーはもちろん、iPadでPhotoshopやFrescoを使ったことのあるユーザーなら迷わず作業ができるでしょう。
ベジェ曲線などのベクターツールを使ったイラストやロゴ、グラフィックが、Apple Pencilを使って直感的に作成、編集できます。1万8,000点を超えるAdobe Fontsも使って、タイポグラフィもお手の物。もちろんアウトライン化も可能です。
iPad版だけのリピート機能でパターン作成が簡単
iPad版ならではの機能として、パターンを簡単に作れる「リピート」が用意されています。グラフィック素材を作成し、ラジアル、グリッド、ミラーのいずれかを選ぶと、直感的な操作でパターン化できるという機能。テキスタイルデザインなど、様々な分野で重宝されそうです。
一方で、iPad版ではまだできないこともあります。たとえばグラフィックに多様な効果を追加するアピアランスもそのひとつ。ドロップシャドウなど多くのデザイン効果は今後のアップデートで追加される予定です。
ほかにも「スムーズとはさみツール」、「キャンバスの回転」および「消しゴムツール」の機能、AI「Adobe Sensei」を用いてスケッチをベクター描画に自動変換する機能、様々な幅のブラシストロークなどが、今後の追加予定となっています。
アドビによればデスクトップ版のIllustratorは、「Adobe MAX 2020」にあわせたアップデートでバージョン25となるそう。それに対してiPad版はバージョン1.0とまだ始まったばかりですが、Apple Pencilを使った直感的な描画や、デスクトップ版や他のツールとのシームレスな作業体験は、デザイナーやイラストレーターの働き方を大きく変えるかもしれません。