JR東海は19日、山梨リニア実験線で走行試験を行う超電導リニアL0系の改良型試験車を報道関係者らに公開した。車内が公開されたほか、改良型試験車と既存のL0系の体験試乗も行われ、最高速度500km/hで山梨リニア実験線を往復した。
同社は中央新幹線品川~名古屋間の開業に向け、2013年から山梨リニア実験線でL0系による走行試験を行ってきた。改良型試験車は先頭車1両を日立製作所、中間車1両を日本車両が製作。リニア営業車両の仕様策定に向け、既存のL0系をさらにブラッシュアップさせた車両となる。改良型試験車2両を既存のL0系と組み合わせ、今年8月から山梨リニア実験線で走行試験を開始した。
改良型試験車は営業車両の仕様である誘導集電方式(電磁誘導の作用を利用し、照明・空調など車内用の電気を非接触で供給する方式)を全面的に採用し、既存のL0系で搭載していたガスタービン発電装置(灯油を使用し、車内用の電気を発電する装置)は非搭載。これを前提として、走行試験で得られた結果をもとに先頭形状を最適化した。先頭部は凹凸を際立たせ、先端部は丸みを帯びた形状に。既存のL0系と比べて、先頭部の空気抵抗を約13%下げ、消費電力や車外騒音を低減している。
前照灯と前方視認用カメラの位置も変更。既存のL0系は先頭車の先端部に取り付けていたが、改良型試験車では先頭車の上部、従来の新幹線車両の運転席にあたる位置に設置され、前方視認性を向上させている。車体のカラーリングは白地に青帯を継承しつつ、進化し続ける躍動感と、新しい先頭形状でのなめらかな空気の流れをイメージしたという青の流線デザインが特徴となる。
車内は先頭車・中間車ともに白を基調とした内装デザインに。先頭車の内装には膜素材が使用され、車内の反射音を低減するとともに、膜素材を通したLEDの間接照明により、温かみのある室内空間となった。一方、中間車は吸音素材(ガラス素材)を活用することで車内の反射音を低減。高輝度LEDの直接照明を用い、トンネルの多いリニアの車内空間を明るく演出している。荷棚はよりシンプルな造形とし、広い空間を確保した。
座席のデザインは先頭車・中間車ともほぼ共通。横4列(2列+2列)のリクライニングシートで、従来のL0系では背面テーブルを使用していたが、改良型試験車では軽量テーブルを用いたインアームテーブルを採用した。全席にUSBコンセントも装備。全座席の足もとに小型荷物の収納スペース、客室妻部に大型荷物の収納スペースを確保した。
座席幅は477mm、奥行は445mm、背ずり高さ(床基準)は1,230mm。いずれも既存のL0系より拡大された。背面を曲面化することにより、前後の座席間も空間を確保。耳部バゲットを拡大し、プライベート感のある空間も演出したという。背ずり・座面ともに新方式となる多層構造(ばね+スポンジ)のクッションを採用し、体圧が分散され、ソファのような座り心地を実現。リクライニング連動座面により、体全体が背もたれと座面に接触することで、最適な姿勢を維持する。
この日の報道公開では、山梨リニア実験センターで改良型試験車の概要説明などが行われた後、センター内の乗降口から車内へ。改良型試験車2両は、既存のL0系5両に連結された7両編成で走行試験を行っており、中間車は6号車、先頭車は7号車となっている。内装等の撮影に続いて体験試乗が始まり、6号車の座席に着席したところで出発。山梨リニア実験線の上野原市側(終点)まで350km/hで走行した後、笛吹市側(起点)まで往復した。
車内に設置されたモニターに走行中の映像と速度が映し出され、150km/h前後でタイヤ走行から浮上走行に切り替わると、さらに速度を上げ、500km/hに到達する。わずかな時間だが「503km/h」と表示されることもあり、500km/h走行は約2分間にわたって続いた。やがて減速し、130~140km/hあたりで軽い衝撃とともに着地し、浮上走行からタイヤ走行に切り替わる。
山梨リニア実験線を1往復して上野原市側(終点)に戻ってきたところで、報道関係者らは座席を移動。既存のL0系の座席に座り、再び笛吹市側(起点)まで最速500km/hで往復した。既存のL0系では、速度が上がるたびに多少不安になるほどの振動を感じたが、改良型試験車の車内ではそれが少ないように感じられる。浮上走行からタイヤ走行に切り替わる際の衝撃を除けば、車内の快適性は向上している印象だった。
体験試乗の後、取材に応じた山梨リニア実験センター所長の大島浩氏は、「いままでのL0系がブラッシュアップされ、非常に良いものができたと思っています」と改良型試験車を評価。「走行試験は始まったばかり」とした上で、「これからさまざまなデータを取り、改善すべきところは改善しつつ、より良いものを営業線に入れていけるように、試験を続けていきたい」と述べた。