転職が珍しくない今、いろいろな場所で円満な退職の仕方が紹介されています。転職サイト『マイナビ転職』も、「転職ノウハウ」として転職前から転職活動、転職が決まった後の振る舞い方やコツを解説しています。
特に大切なのが、「今の職場」に迷惑をかけないこと。これは、社会人のマナーとして必要なことでしょう。先日、この転職に伴う元の職場に関して、大きな議論を呼ぶツイートがあったので紹介します。
投稿したのは、くらはし(営業中)(@TareObjects)さん。以前、エンジニアとして勤務した会社からの転職を決意。そのことを、挨拶を兼ねて職場で報告したそうです。
以前、朝礼で
「転職決まりました。お世話になりました」
って挨拶したら、あとで上司に呼び出されて
「そういうのは勝手に言ってもらっては困る」
と渋面。「役職者から『くらはしさんが辞めることになりました』って切り出さないと駄目」なんだって。
そういう会社だから辞めたんです。
(@TareObjects)より引用
ツイッターという、短い文章でしか説明できない、この内容を見るだけでは、くらはしさんがマナーを少し欠いたようにも取れます。
実際、本ツイートに対して、「言わせて貰いますが上司の言ったことは正しいと思います。みんなで貴方の門出を祝いたでしょうに、なんの心の準備も出来てない状態で辞めると言われても混乱しか生まれません」「当たり前だと思う……辞める人が許可も取らずにやめるのを堂々と正当化するとかヤバすぎる」「気持ちは分かるけど。立つ鳥跡を濁さずだと思う」など、上司や同僚たちへの礼儀を欠くと指摘する声が上がっていました。
しかし、「転職の何があかんの?」「スジが通ってる。お疲れ様でした」「そういうことを平気で言う上司がいる会社なんて辞めて正解ですね」私も、そういう会社来月でやめます。本当に、上司って、、、。困りますよね」など、くらはしさんに賛同する読者もいました。
このツイートだけでは判断できないと思いましたので、くらはしさんに、転職経緯をお聞きしました。
転職発言の問題を探る
――そもそも、この会社はどのようなカルチャーだったのでしょう。
くらはしさん: 社員数100人以下の、トップが強力なリーダーシップを持ついわゆる中小企業でした。しかし業界シェアは高く、収益も良いアットホームな部分もある会社でしたね。
また、今時珍しい「毎朝の全員朝礼」「週一度の社訓唱和」「トップ以下全員参加の会議室飲み会」も頻繁に行われたそうです。よく言えば古き良き昭和、悪く言うと旧態依然とした組織でしょうか。
――イマドキではないですが在籍したのはどの程度でしょう。
くらはしさん: 1年未満でした。その会社には、当時いた役員の方と「一緒に働きたい」と思って入社したのですが、いざ入るとその人は辞めていて。もちろん、採用してくれた恩があるので、気持ちを切り替えて仕事に励んでいました。
ただ、最後に担当した「プロダクト開発案件」が社内・社外とも問題が山積みで、改善を訴えてもトップも含め、一切考慮してもらえませんでした。その結果、ストレスによる深刻な健康問題が発生し、それがきっかけで退職を決意したのです。
自身の健康問題もそうですが、一番の要因は問題を放置する上層部、苦しむ部下を救おうとする姿勢を見せない上司を、くらはしさんが信頼できなくなったのではないでしょうか。
――退職理由は理解できました。しかし、朝礼で伝えたのはマナー違反ではないでしょうか。
くらはしさん: 正確に言うと、朝礼でなく終会です。司会役の進行のもと、業務の進捗などを共有する場でした。また、仕事以外のプライベートな話をすることもありました。私の転職もその流れの中で伝えたのです。ただ、ツイートのツリー内でも簡単に書きましたが、発表した時点で私の転職は社内調整済みでした。
――なるほど。では、引継ぎ業務も支障なかったのですね。
くらはしさん: もちろんです。直属の上司、人事、役員、社長とも何度も話し合いをしてスケジュールも含めて退職は確定していました。同じ部署の同僚の多くも知ってましたし、その時知った人も、健康問題を含め、私が業務で四苦八苦していたことを知っていたので驚くことはなかったでしょうね。
お話を聞くと、問題となった投稿内容では分からない背景が浮かび上がります。また、「退職報告」も既に折り込み済みの話でした。となると、問題の焦点は発言ではなく、上司とくらはしさんにある気がしました。
――勤務している際、上司とのコミュニケーションはどの程度あったのでしょう。
くらはしさん: 実は担当プロジェクトが上司と異なるため、彼とはすれ違うと挨拶する程度でした。ですので、彼の人となりは今でも分からないのです。確か大手メーカー出身だったので、本人なりの「社会人の常識」、というニュアンスで苦言を呈されたのかと思います。ちなみに、上司からは退職報告を自分から話すとは言われていません。
これを聞くと、問題はやはり「コミュニケーション」だったと筆者は思いました。そもそも、中途採用されて1年にも満たず、普段も話し合うことがない上司。信頼関係を築くどころか、上司・部下の関係もままならない状況だったのではないでしょうか。
上司と部下のコミュニケーションの重要さ
くらはしさんの転職を上司が伝え、周囲の同僚は快く送り出すのが理想なのかもしれません。しかし、そうした考えを上司はくらはしさんに事前共有せず、そうした組織文化があるということも伝えることもできていません。
この状況では、くらはしさんの行動が「適切」だったとは言えないでしょうが、「不適切」と非難することもできないと思います。
昨今は、アルムナイ制度として、退職者を再度社員として迎える制度を持つ企業もあります。また業界によりますが、退職した社員と新たなビジネスを行うことも増えつつあります。
その観点で見ると、やはり上司・部下のコミュニケーションは、その部分だけにとどまらず、会社への忠誠心、本人のパフォーマンス、辞めた社員と会社の関係性など、さまざなま意味で重要と言えるのではないでしょうか。
なお、ツイートに対して「所定の手続きを済ませる前にいきなり退職宣言した」と誤解した心無いコメントがあり、事情をきちんと説明したにもかかわらず謝罪・訂正が無く残念だったと、くらはしさんが話していたことも付け加えておきます。
以前、朝礼で
— くらはし(営業中) (@TareObjects) October 12, 2020
「転職決まりました。お世話になりました」
って挨拶したら、あとで上司に呼び出されて
「そういうのは勝手に言ってもらっては困る」
と渋面。「役職者から『くらはしさんが辞めることになりました』って切り出さないと駄目」なんだって。
そういう会社だから辞めたんです。