「契約書に捨て印をお願いします」と言われたこと、ありませんか?
捨て印(または捨印)とは、契約書などの文書の余白に印鑑を押すことで、後の訂正作業を容易に行うことを目的とするものです。非常に便利なものであることは間違いがないのですが、一方で、捨て印を押す際に事前に知っておくべきこともいくつかあります。
本記事では、捨て印の役割や押し方、知っておきたい注意点について紹介します。
捨て印とは?
書類を役所や会社に提出するとき、ちょっとした誤字や脱字があるだけで、受け付けてもらえずに訂正印を押す必要があったり、場合によっては契約書を書き直す必要があったりと、時間がかかってしまうことは少なくありません。
そこで、あらかじめ書類に捨て印を押しておくことで、「簡易な誤字や脱字程度の修正であれば、そちらで対応してくださってかまいませんよ」という意思を表示することができます。捨て印の主な役割は以下の通り。
- 書類に誤字脱字があった場合でも訂正が容易
- 本人に代わって代理人が訂正できる
たとえ修正箇所が複数あった場合でも、捨て印が押されていると、全修正箇所に訂正印を押す必要はありません。修正をして、捨て印の下に削除した文字数と加えた文字数を記入するだけで済みます。一つひとつの修正点に訂正印を押すより、手間が少なく済む点がメリットです。
また、書類に捨て印が押してあることで、契約当事者が訂正印を押さなくても、代理人による訂正が可能となります。これにより、契約書が代理人や契約当事者の一方の手にある時に誤字脱字が見つかっても、訂正ができるので便利です。
通常、書類に誤字脱字があることがわかっても、訂正を行えるのは原則として記名押印をした本人です。訂正内容が軽微なものであっても、訂正した箇所に記名押印したのと同じ印鑑を押す必要があり、手間がかかってしまいます。そこで、捨て印を押印しておくことで、代理人が本人を代理して訂正することが可能となります。
捨て印を求めるとき・求められたときの注意点
次に、捨て印を求められた際、もしくは捨て印を求める際に知っておきたい注意点を紹介します。主な注意点は以下の通り。
- 重要な部分の訂正はできない
- 委任状には捨て印を押さない
- 捨て印を押した書類のコピーを持っておく
- 悪用されないよう捨て印であることを明記しておく
- 信用できる相手に渡す書類だけに捨て印を押す
順に説明します。
1. 重要な部分の訂正はできない
捨て印で訂正できるのは軽微な誤字脱字に限られています。契約内容の根幹に関わるような重要事項の訂正はできません。
例えば、送り仮名の誤りや住所の表記の仕方の誤りであれば捨て印での訂正ができます。一方、金額の訂正や契約内容の書き換えなどは捨て印ではできません。修正できるのは誤字脱字のような軽微な部分に限られている点を押さえておきましょう。
2. 委任状には捨て印を押さない
本人が契約を行う代わりに、代理人に任せる際に用意する書面を「委任状」といいます。委任状には捨て印を押さないようにしましょう。
委任状には、委任内容や代理人の記入欄を空白にして作成した「白紙委任状」というものが存在します。これは、委任内容や代理人を勝手に書き込まれる可能性があり大変危険なものです。
委任状に捨て印を押すことで、委任状が「白紙委任状」のように用いられる可能性があります。勝手に委任内容などが書き換えられてしまう危険を避けるためにも、委任状には捨て印を押さないようにしましょう。
3. 捨て印を押した書類のコピーを持っておく
捨て印は訂正が簡単にできる反面、代理人による訂正が可能なので、書類を偽造されるリスクも伴います。悪用されないよう注意するためにも、捨て印を押した書類のコピーをもらうと安心です。
手元に持っておくことで、万が一大幅な書類の改編をされてもコピーが証拠となります。
4. 悪用されないよう捨て印であることを明記しておく
捨て印は契約に用いる印鑑と同じなので、悪用されてしまうリスクもあります。そのため、捨て印を悪用されるリスクを避けるには、捨て印であることを明記しておくと安心です。
書類上部の余白に「捨て印」と記載したうえで、契約当事者全員の印鑑を押すようにしましょう。これにより、捨て印以外の用途で使われてしまうリスクが少なく済みます。
5. 信用できる相手に渡す書類だけに捨て印を押す
書類に捨て印を求められたら、契約相手や代理人が信用できる場合にのみ押すようにしましょう。捨て印があることで契約内容を改変されるリスクは少なからずあります。
弁護士や司法書士、銀行印など銀行窓口での契約など、自分にとって信用できる相手である場合にのみ捨て印を押すのがいいでしょう。
捨て印の押し方
捨て印は通常、書類の余白上部に押すのが一般的です。専用の押印欄がある場合は、その欄に押印しましょう。
また、書類が複数ページにまたがっている場合は、原則としてすべてのページに捨て印が必要です。
ただし、書類が袋とじをなされているか契印が押されている場合、捨て印は1カ所で問題ありません。契印とはページとページの間に、両ページにかかるように押された印鑑のことです。袋とじされている場合には、製本テープなどの帯と文書にかかるよう押印されている必要があります。
なお、捨て印に用いる印鑑は署名捺印欄に捺印した印鑑と同じものを用いる必要があります。もし別の印鑑を捨て印に押印したとしても、捨て印としては無効ですので注意しましょう。
捨て印を用いた訂正方法
捨て印を用いて訂正する場合、まずは訂正したい部分に二重線を引きます。二重線を引いた近くに訂正後の内容を記入しましょう。
訂正後には訂正した文字数と記入した文字数を数え、捨て印の側に「削除○字 加入△字」と記入します。複数箇所訂正を行った場合は、訂正した文字数を数えて合計した数を記入しましょう。
まとめ
契約時に誤字や脱字がないかしっかり確認したつもりでも、誤字や脱字が発生してしまうことがどうしてもあります。契約当事者全員に訂正印をもらうと訂正はできますが、当事者同士が遠方の場合や人数が多い場合など、訂正印をもらうだけでも一苦労してしまうこともあるでしょう。
あらかじめ捨て印を押しておくことで、誤字脱字などの軽微な誤りに対する修正が可能です。修正できるのは契約当事者または代理人なので、本人が出向かなくても済みます。ただし捨て印は悪用されるリスクがあるため、相手や書類の内容をよく判断して押すことが大切です。
補足 : 捨て印は必ずしも必要ではない
なお、契約書などの書類で捨て印を求められることはありますが、必ずしも押さなければならないわけではなく、押さなくても問題ありません。なぜなら、作成した書類に誤りがあった場合に、捨て印が押されていなくても訂正は可能であるためです。
捨て印の場合と同じように訂正箇所を二重線で消し、周辺の余白に正しい内容で書き直します。二重線の上に契約当事者の印鑑を押すことで訂正可能です。ただし、修正箇所すべてに契約当事者全員の印鑑を押さねばならず、修正箇所が多い場合には手間がかかってしまうことを理解しておきましょう。