「関わる全ての人達の幸せを追求する」という理念を掲げ、16店のコンビニエンスストア・ファミリーマートのFC経営をするオオハシリテイリング。その代表取締役社長・山田有吾氏は、「コンビニエンスストアを経営することで、社員を終身雇用したい。社内キャリアプランを描き、成長機会を与え、いずれは家庭を持って家を買える。そんな社員を一人でも増やしたい」と語ります。

ネガティブな情報が多いようにも感じるコンビニ経営ですが、その実態はどうなのでしょうか。本稿では、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が、そんな山田有吾氏と対談を行いました。

  • ファミマFC社長に聞く、コンビニ経営のカギと存続への想い【前編】

ファミリーマート一筋の人生

井上一生氏(以下、井上)――私たちSAKURA United Solutionは、会計事務所として全国4,500店舗以上のコンビニエンスストア経営者の皆様の経営支援をさせていただいています。コンビニFC加盟店の約10%のシェアです。私たちにとって、コンビニ経営を支援することは使命でもあります。今回は、数多くいらっしゃるコンビニ経営者の中から、オオハシリテイリングの山田社長にお越しいただきました。まずお聞きしたいのは、山田社長はいつからコンビニ業界に入られたのですか?

山田有吾氏(以下、山田)――大学生になった18歳の頃に、アルバイトとしてファミリーマートで働いたのがきっかけですね。大学でソフトテニスをしていたのですが、ラケットとシューズ代は自分で稼げと親に言われたので、アルバイトを探していたんです。たまたまオープニングスタッフ募集をしているお店があって。母親がコンビニFC加盟店の社員をしていたことも影響しているかもしれません。なんとなく親近感があったのでしょうね。大学の4年間は、テニスとコンビニアルバイト漬けの日々でした。そうしたら、気づいたらトレーナーになっていた。

コンビニは好きだったので、「もっと知りたい。自分でやってみたらどうだろう」と思うようになりました。それで、2002年にファミリーマート本部社員になりました。9年間、スーパーバイザーとして働いています。本部での経験は、今に確実に生きていますね。

井上――なるほど、ファミリーマート一筋の人生なのですね。ずっと本部にいても良かったのだと思うのですが、なぜまたFC加盟店で働こうと思ったのですか?

山田――「こうやったら儲かるのに。こうやったら良い店になるのに」と、本部でスーパーバイザーをしているときに感じていました。それを自分でやりたかった。サラリーマンではなく、自分で動いて会社が回るというのを試したかったというのが動機です。それで、弊社の前社長に入社を懇願しました。

井上――前社長は、快く山田社長を向かい入れてくれたのですか?

山田――「バカヤロー!」と反対されました(笑)。それでも入社して、気づけば社長に(笑)。

井上――前社長は、山田社長の能力の高さを見抜いていたのだと思いますよ。

山田――恐縮です。アルバイト時代のオーナーは、丸投げなオーナーだったのです。「今日、新人さんが来るから山田くん教えといて」というような、古き良き(?)オーナーでした。だから、自分でどんどんコンビニ経営のことを学ぶことができた。とても感謝しています。

コンビニFCという確かな仕組みがあるから「やるべきこと」に集中できる

井上――生業ではなく事業としてコンビニを見たとき、山田社長はどのような可能性を感じますか?

山田――そうですね。よく「コンビニ経営は、本部に利益を持っていかれてしまう」とネガティブに報じられることが多いのですが、それは違うと思います。コンビニ経営は、ビジネスが存続しやすい環境がある。

まず、商品開発やマーケティングは本部がしてくれます。このコストを捻出するだけでも、かなり大変なことです。仕入れや流通、陳列などの細かな仕組みが整っていますし、マニュアルもあります。これらをゼロから作るのは、本当に大変です。ですから、コンビニ経営には「割り切り」が大切だと思います。

また、オープンアカウント制という仕組みもあります。これにより、本部からFC加盟店に毎日売上を送金することで、滞納やトラブルを防ぐことができます。ある意味、本部が資金繰りの半分を担っているということです。そういう仕組みが整っているので、やるべきことに集中できます。具体的には、資金調達や人材採用・育成ですね。これができれば、コンビニ経営は鉄板の事業だと思います。

井上――全くの白地から事業をつくるのと、仕組みができあがっているコンビニ経営を始めるのとでは、5年後の生存率は全く違うでしょうね。

山田――そのとおりだと思います。コンビニ経営をどうビジネスとして捉え、人を育てるかという視点が大切ですね。最近は、早々に7店舗、10店舗と展開するコンビニ経営者の方もいらっしゃいますよね。最初から株式会社化して、資金調達をしっかりしてスタートされる方も増えていると思います。

井上――そうですね。生業としてではなく、事業・ビジネスとしてコンビニ経営を捉えている方は確かに増えています。私たちはコンビニ経営を支援する会計事務所が組織の基盤になっていますから、「コンビニ経営は儲からない」という話を聞くと、心が痛むのです。感謝している業界が批判されるのを黙ってみていられません。事業・ビジネスとして捉え、しっかりと経営すればコンビニ経営で成功できるということを伝えていきたいです。

  • (左)オオハシリテイリング 代表取締役社長・山田有吾氏、(右)SAKURA United Solution 代表・井上一生氏

「コンビニ経営で社員を終身雇用したい」

井上――オオハシリテイリングさんのホームページを見ると、社員さんをすごく大切にしていて、人にフォーカスした経営をされているとわかります。前社長の理念もあるのだと思いますが、山田社長も同じ想いでしょうか。

山田――そうですね。「コンビニ経営で社員を終身雇用したい」という気持ちがあります。

井上――それは、入社のときや、会社を引き継いだときに抱いたお気持ちですか?

山田――はい。私がオオハシリテイリングに入社したときは、10店舗目をオープンした節目の年でした。前社長は、「日本一のフランチャイズ加盟者になる」と宣言していて、私は「先代がそう言うなら」という気持ちで。店舗数を増やして、次は質をどう上げていくかというときでした。

ファミリーマートには、QSC(クオリティ・サービス・クレンリネス)という考え方があり、そのQSCの向上を店舗でいかに当たり前にするかを考えました。あいさつをすること、商品がきれいに並んでいること、笑顔でお客様をおもてなしすること、アイコンタクトを取ることなど、基本の大切さですね。弊社では、本部基準とは別に独自のQSC基準を設けて週1回チェックしています。

私は本部でスーパーバイザーをしていましたから、入社したとき、本音では店舗を指導する仕事をしたかったのです。でも、前社長から「店長からやれ」と言われました。「山田の能力を周りの人間がわかってくれないと、だれもついてこない」と言われて。それで店長になって、3カ月で売上を130%にしました。店舗のポテンシャルをわかっていたので、絶対にできると確信していました。実績を積み重ねていって、気づいたら社長を任せていただけるようになり、今に至ります。

井上――なぜ引き継ごうと思ったのですか?

山田――コンビニ経営には、まだまだ可能性があると思ったからです。確かに、10年前・20年前よりも、経営は難しくなっています。でもそれは、コンビニ以外の事業でも同じことです。簡単な事業なんてありません。売上はそこまで伸びませんが、人件費はどんどん上がっています。弊社でも人の入れ替わりはありますが、私と同期入社の人は半分ほど残ってくれていて、私と同じくらいの社歴の人もいます。経営者として、そんな人たちを裏切れません。若い人を使い捨てるような経営はしたくない。プロ店長を育てたいというのが私の想いです。

井上――山田社長は、コンビニ経営におけるプロ経営者の道を究めようとしたわけですね。真剣に考えているから人が育ち、人がついてくるのでしょうね。素晴らしいです。

山田――ありがとうございます。今は16店舗を展開しており、4地区に分けて、店長の他に部長や課長を置く会社組織づくりをしています。ゆくゆくは、社長の他に副社長、部長などのポジションを増やしていく計画です。これによって、社内キャリアプランを描けるようになります。「オーナーがいて店長がいてアルバイトがいる」というだけではない、会社らしい組織づくりを目指しています。社内にもスーパーバイザーがいるので、QSCの向上を図れますし、お客様に喜んで来ていただける店舗づくりを各店が実践できる環境を整えることが私の役割でもあります。

人事評価システムや組織づくりがポイントですね。やはり人材の課題はありますから、ドミナント展開してスタッフを各店舗でシェアリングできるようにしたりと、柔軟な対応ができるようにしています。お客様の多くはその地域に住んでいる方々ですから、地域に根差すことは大切です。アルバイトのスタッフも、地域の人たちが多いわけですからね。

私のようにアルバイトからスタートして、コンビニ業界で一生を過ごす人もいるかもしれません。だから、終身雇用ができるコンビニ経営を目指しています。

井上――山田社長のビジョンは、本当に素晴らしいと思います。社員のことを真摯に考えておられますよね。

山田――ありがとうございます。終身雇用できる環境を構築するためには、利益を出す仕組みづくりが必要です。どうすれば利益が出るのかは、社長だけが考えるのではなく、みんなで考える。そう考えられるように育成することも、私の役割だと思います。「会社だけが儲かる」ではなく、社員が結婚して家庭を持てる。家を買える。そんな社員を増やすことが、終身雇用の実現につながると思います。実際に、2人の社員が家を買うことができました。

(次回につづく……)