JR九州は9日、新D&S列車「36ぷらす3」の報道試乗会を実施した。この日は金曜日ルート「黒の路」と同様のスケジュールで、12時16分に鹿児島中央駅を発車。途中の大隅大川原駅、青井岳駅に停車しつつ、約3時間40分かけて宮崎駅まで走行した。

  • 鹿児島中央駅で発車を待つ「36ぷらす3」。報道試乗会が10月9日に実施された

新D&S列車「36ぷらす3」は、JR九州の特急形電車787系1編成(6両編成)を全面的にリニューアルし、「九州のすべてが、ぎゅーっと詰まった“走る九州”といえる列車」のコンセプトを体現。黒い森をイメージしたメタリック塗装を車体に施し、金色をベースとしたロゴマークを各所にあしらった。車内は1~3号車をグリーン個室、4号車をマルチカー、5~6号車をグリーン席とし、先頭車の1・6号車は畳敷きの空間に。3号車ではドーム天井を生かし、17年ぶりの復活というビュッフェを設けた。

運行ルートは曜日ごとに異なり、金曜日ルートは鹿児島中央駅から宮崎駅へ、土曜日ルートは宮崎空港駅から別府駅へ、日曜日ルートは大分駅から小倉駅・博多駅へ向かい、月曜日ルートは博多~長崎間を往復する。各ルートで色を決め、その色にちなんだ地域のエピソードを紹介するとのこと。金曜日ルートは「黒の路」として、鹿児島のシンボルである桜島と霧島山麓の森の車窓を楽しみつつ、「南九州の黒の名物に迫る旅」とされた。

  • 報道試乗会ではグリーン席の6号車に乗車。車内は畳敷きで、各座席にコンセントも付く

  • 6号車の乗降ドア付近に大きな荷物を置けるスペースがあり、靴箱も用意されている

報道試乗会の当日は台風14号の影響も心配されたが、列車の運休・遅延など発生することなく、ほぼ予定通りのスケジュールで運行された。「36ぷらす3」は正午すぎ、6号車を先頭に鹿児島中央駅の在来線3番のりばへ入線。6号車に通され、1人掛けのA席に座ったところで、定刻通りに鹿児島中央駅を発車した。

鹿児島駅で列車待ち合わせを行い、発車後にトンネルを抜けると、進行方向左側に仙巌園、そして右側に錦江湾と桜島の車窓風景が見えてきた。天気が回復したおかげもあり、桜島の荒々しい山肌もくっきりと見える。列車は竜ヶ水駅を経て重富駅が近づくまでの約10分間、錦江湾に沿って走り、日豊本線でも屈指の車窓ポイントとなっている。なお、この区間でグリーン席を利用する場合、6号車は1人掛けのA席が海側、2人掛けのC・D席が山側に。5号車は2人掛けのA・B席が海側、1人掛けのD席が山側となる。

  • 鹿児島中央駅を発車した後、客室乗務員による案内放送が行われる

  • 進行方向右側に桜島と錦江湾の車窓風景が広がる

  • ランチプランの食事を提供。グリーン席では特製弁当が用意された

  • 老舗割烹料理店「茶寮 山映」(鹿児島市)の特製「鯛そぼろと薩摩のおばんざい弁当」

鹿児島を象徴する車窓風景を楽しんでいる間に、車内ではランチプランの料理提供が始まった。グリーン個室の乗客へ、鹿児島市のフランス料理店「フランス厨房 旬彩」による「旬彩フレンチ松花堂弁当」が提供され、やや遅れてグリーン席でも、鹿児島市の老舗割烹料理店「茶寮 山映」の若女将特製「鯛そぼろと薩摩のおばんざい弁当」が提供される。下段に天然鯛の鯛そぼろ、上段に鹿児島県産の肉・野菜をふんだんに使ったおばんざいを詰め合わせ、黒毛和牛と喜入蒟蒻の甘辛煮をはじめ、がね天や小茄子田楽など、いずれも美味。「鹿児島の食材全部おいしい」との声も聞かれた。

「36ぷらす3」は姶良市・霧島市の平野部を走り、思川の土手で地元の人々が、錦江駅を過ぎたあたりで地元の園児たちが手を振り、列車を歓迎する様子を見ることができた。国分駅を通過すると霧島山麓の区間に入り、それまでとは一転してトンネルと勾配が続くようになる。途中の北永野田駅は、日豊本線で最も標高の高い駅だという。

13時20分頃、「36ぷらす3」の“おもてなし駅”である大隅大川原駅に到着し、ここで約50分間停車する。ホームでは地元・曽於市の関係者らが横断幕を持って出迎え、曽於市のゆるキャラ「そお太くん」も登場。駅前広場では、駅から程近い「たからべ森の学校」(旧財部北中学校跡地活用施設)のカフェ「たか森カフェ」がキッチンカーで出店し、ジビエバーガーなどを販売したほか、曽於市観光協会による地元の土産品販売も行われた。発車までの時間、駅周辺はひとときのにぎわいを見せた。

  • 「36ぷらす3」が大隅大川原駅に到着。地元・曽於市の関係者が出迎える

  • 曽於市のゆるキャラ「そお太くん」も登場。地元の土産品などが販売され、駅前広場はにぎわいを見せた

  • 発車5分前になり、客室乗務員がハンドベルを鳴らす。大隅大川原駅を発車する「36ぷらす3」を地元の人々が見送った

発車5分前になると、「36ぷらす3」の客室乗務員がハンドベルを鳴らし、発車が近づいたことを知らせる。14時11分、曽於市の人々が手を振って見送る中、列車は大隅大川原駅を発車。その直後、沿道で「曽於市へまた来やんせ!」の横断幕も見えた。

その後もしばらく山間部を走行。財部駅のあたりから開けた風景となって都城盆地に入り、鹿児島県と宮崎県の県境を越える。都城市内の西都城駅から都城駅まで高架区間を走行。その後も比較的平坦な区間が続き、餅原駅周辺で一面畑の広がる車窓風景を見られる。走行中の車内では、4号車のマルチカーにて発酵食品・黒酢の試飲体験イベントが行われていた。このイベントは車内での事前予約制で行われ、無料で参加可能だという。

  • 4号車のマルチカーで黒酢の試飲体験イベントが行われる

  • 「36ぷらす3」が青井岳駅に到着。10分間停車する

  • 青井岳駅に停車中、急な雨に見舞われる場面もあった

  • 宮崎駅に到着するまで、4号車のマルチカーで「黒の路」に関するエピソードが紹介された。3号車のビュッフェもにぎわっていた様子

山之口駅を通過した後、しばらくすると再び山間部を走り、14時58分、“特別停車駅”の青井岳駅に到着。鹿児島県内では持ちこたえていた天気も、宮崎県内に入ると不安定になり、青井岳駅での停車中、急な雨に見舞われる場面もあった。青井岳駅では10分間停車し、15時8分に発車。次の田野駅を過ぎたあたりから、沿線に住宅地が目立ち始め、宮崎市の市街地が近づいていることを感じさせる。宮崎駅に到着するまでの間、4号車のマルチカーにて、「黒の路」に関する5つのエピソードを紹介するイベントも行われた。

やがて進行方向右側から日南線の線路が合流し、南宮崎駅で列車待ち合わせのため停車。発車後、大淀川を渡り、高架区間となって、15時57分、「36ぷらす3」は宮崎駅の2番のりばに到着した。隣の3番のりばに787系の特急「きりしま」が停車しており、同じ787系を改造した「36ぷらす3」と並んだ姿が興味深かった。

宮崎駅のホームは2面4線。以前の改札口は2カ所に分かれていたが、駅リニューアルにともない、現在は1カ所に統一されている。宮崎駅では10月14日、高架下商業エリア「ひむか きらめき市場」が開業し、あわせて現在の西口に「高千穂口(西口)」、東口に「大和口(東口)」の愛称名を導入する予定。11月20日には、駅前のJR宮交ツインビル商業エリアに「アミュプラザみやざき」の「うみ館」「やま館」がオープン予定となっている。

  • 「36ぷらす3」が宮崎駅に到着。787系の特急「きりしま」と並んだ。宮崎駅では改札口や高架下商業エリアのリニューアルが行われ、「アミュプラザみやざき」のオープンも近づいている

新D&S列車「36ぷらす3」は10月16日、鹿児島中央発宮崎行の金曜日ルート「黒の路」から営業運転を開始する。鹿児島中央駅で出発式を開催するほか、大隅大川原駅、青井岳駅、宮崎駅でも地元関係者らによる出迎え・見送りなどが予定されている。