マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、米大統領選について語っていただきます。
トランプ大統領はコロナ陽性となって入院したものの、わずか3日間で退院。大統領執務と選挙キャンペーンの継続にやる気満々の姿勢をみせています。
幸い大事には至りませんでしたが、大統領選を戦うトランプ大統領もバイデン候補も高齢であり、今後どんな形で健康問題が浮上するか予測できません。両者、あるいはいずれかが執務不能となる状況では相当な混乱が生じそうです。
そうした事態が起こらないことを切に願いつつ、イメージトレーニングだけはしておきたいと思います。
投票日の延期は可能か
法律上、大統領選の延期は可能です。ただし、上院と下院のいずれもが過半数で可決する必要があります。現在、上院では共和党が、下院では民主党が議席の過半数を持っています。両党の利害が一致して、投票日が延期される可能性は高くないかもしれません。
大統領候補が死亡した場合……
大統領候補が死亡または執務不能(以下では便宜上、「死亡」とします)となった場合、RNC(共和党全国委員会)もDNC(民主党全国委員会)も新たに代替候補を選定するルールを持っています。
もっとも、不在者投票やコロナ対策としての郵便投票は既に実施されており、数百万票が投じられたとされています。また、約半数の州が郵便用の投票用紙を送付済みです。さらに、多くの州で投票用紙を修正して代替候補の名を載せる期限が過ぎています。そのため、議会が投票日を延期しなければ、ほとんどの有権者がトランプ氏かバイデン氏のいずれかを選択をします。
選挙人の投票日の前に勝利候補が死亡した場合……
有権者による一般投票は11月3日ですが、その結果選ばれた選挙人が次期大統領を選ぶ投票日は12月14日です。それまでに一般投票の勝利候補が死亡した場合、州によって選挙人が自由に誰にでも投票できるケースもありますが、多くの州は選挙人が一般投票の勝利候補に投票するよう義務付けています。ただし、党による代替候補への投票を可とする州もあれば、投票用紙に名前の載った候補に投票しなければならない州もあります。
大統領選に敗れた政党は、選挙人が代替候補に投票することの合法性を問題視するかもしれません。その場合、最高裁がどう判断するか、あるいは判断を保留するかは不透明です。
勝利候補が選挙人の投票後、かつ議会の承認前に死亡した場合……
議会は21年1月6日に招集されて、選挙人の投票結果を承認します。その間に勝利候補が死亡した場合、議会がどう判断するかは不透明です。合衆国憲法修正第20条は就任式前に次期大統領が死亡した場合は次期副大統領が次期大統領になると規定しています。しかし、議会の承認前に勝利候補が「次期大統領」と認定されるか、明確な規定はないようです。
議会が選挙人の投票結果を無効と判断すれば、選挙人の過半数を獲得した候補が不在となり、下院が次期大統領を選出します。ただし、通常の法案採決とは方式が異なります。下院議員が州ごとに一票を持って、選挙人投票結果の上位3人のいずれかに投票します。そのため、下院の過半数の議席を獲得した政党ではなく、26州以上で過半数を取った政党が事実上の決定権を持つことになります。現状では、人口の少ない州(=割り当て議員の少ない州)に強い共和党が有利になるかもしれません。
勝利候補が議会の承認後に死亡した場合……
1月6日に議会が選挙人の投票結果を承認した後に勝利候補が死亡した場合、1月20日の大統領就任式で選挙人が選んだ次期副大統領が新しい大統領となります。
ところで、現職の大統領が執務不能になった場合はどうなるでしょうか。
合衆国憲法修正第25条第3項では、大統領が上院議長代行(議長は副大統領)と下院議長に対して書簡を送り、権限を副大統領に委譲することを伝えることで、副大統領が大統領の執務を代行できると定められています。
大統領が手術などで麻酔を受ける場合に上記の手続きが取られることがあり、実際に85年レーガン大統領、2002年と2007年にブッシュ(ジュニア)大統領がそれに基づいて一時的に権限を副大統領に委譲しました。
大統領自身が権限委譲を出来ない場合はどうか。
修正第25条第4項に規定があります。それによると、副大統領と閣僚の過半数とが上院議長代行と下院議長に対して大統領が執務不能だと申し立てれば、副大統領が直ちに大統領代行として職務を遂行できます。
その後に大統領が自身に執務能力が回復したと申し立てれば、再び職務を遂行できます。これに対して、副大統領と閣僚の過半数とが4日以内に改めて議会に対して申し立てを行い、そこから21日以内に議会の3分の2以上が大統領は執務不能だと判断すれば、副大統領は大統領代行を続けることができます。つまり、大統領は復帰できません。なお、結論が出るまでの間は、副大統領が大統領代行を続けます。
実は、トランプ大統領があまりに破天荒な言動をするので、執務能力なしとして修正第25条第4項の発動が検討されるのでは、との観測報道が出たこともあります。