既報の通り、AMDはZen 3をRyzen 5000シリーズとして発表した。まだ肝心のMicroarchitectureとかの詳細は明らかになっていないが、発表会に先立って、ちょっとだけ深い内容が公開されたので、これをまとめてご紹介したい。というか、実はこの原稿は当然ながら発表会前に書いているので、一部発表会の内容と被る部分もあると思うが、それはご容赦いただきたい。
さてまずZen 3、出荷は2020年第4四半期中とされた(Photo01)。後で出てくるが、実際の出荷時期は11月5日である。そのZen 3であるが、より高い動作周波数Boostと、IPCの向上が主なテーマである(Photo02)。まずコアレイアウト周りからいくと、CCXがついに8コア単位になり、またL3のLatencyが半減した。このあたりも加味したうえで、IPC向上は19%にも及ぶとする(Photo03)。その19%のIPC向上の内訳がこちら(Photo04)。大きなものはFrontEndとLoad/Store(CCXレイアウト変更とかキャッシュのLatency短縮はこのLoad/Storeに効いてくると思われる)であるが、他にも分岐予測の精度向上とか実行ユニットの性能改善などが挙げられている。Micro-Op Cacheの分は、ひょっとすると容量を大幅に増やしたのではないかと思われる。
次がレイアウト(Photo05)。先に書いたようにCCXが8コア単位になった。これに伴い、Zen 2ではそれぞれのCCXに16MBづつだったL3キャッシュが、Zen 3では32MBのUnified(という言い方も変だが)構成になった。Zen 2世代の場合、2つのL3は連携しておらず、両方に跨るアクセスをしようとすると、一度I/O Die上にあるInfinityFabric経由でのアクセスになり、これが非常に大きなLatencyに繋がっていたが、今度からはこれが大幅に緩和された形だ。「無くなった」のではなく「緩和された」だけなのは、CPU Dieが1つの8コア製品までは「無くなった」だが、2 Die構成の12コア以上の製品は、引き続きI/O Die経由での通信になるからで、その意味では完全になくなっているわけではないからだ。とはいえ、平均的には大幅にLatency削減が可能になったと思われる。
こうした工夫により、性能/消費電力比は、初代のRyzen 7 1800X比で2.4倍、Ryzen 9 3900XTと比べても2割改善した、としている。ちなみにCore i9-10900K比では2.8倍としているが、これはまぁ判らなくもない(Photo07)。
またスライドには記載はないが、Q&Aのセッションで判明したのは、今回CPU Dieは新しくなったものの、I/O DieはRyzen 3000シリーズのものをそのまま利用しており(全く同一だ、としていた)、なので対応するメモリなども全く同じという話だった。今回はCPUコアの性能改善に全力を注いだので、I/O Die廻りは手を付けていない、ということだそうで、このあたりは次のZen 4世代に先送りとなる。どのみち、次の世代ではDDR5対応とかPCIe Gen5対応などが入ってきてI/O Dieは完全に作り直しになる(し、恐らくプラットフォームそのものも変更にならざるをえない)。であれば、Zen 3の世代はそのままにしておこう、という判断は合理的だと思う。
さて、実際の製品である。まず普及帯(?)であるが、Ryzen 5 5600X/Ryzen 7 5800X/Ryzen 9 5900Xが、299ドル~549ドルという、かなりのお値打ち価格で提供される。TDPは105Wと65Wで、現在のRyzen 3000シリーズと同じである。その性能であるが、まずRyzen 9 5900Xシリーズの性能がこちら(Photo10)。ちなみにこれはGeForce RTX 2080 Tiを利用しての結果だそうだが、先日性能をご紹介したGeForce RTX 3080だともっと露骨に性能があがるかもしれない。もう少し象徴的なのがCineBenchのSingle Thread性能(Photo11)。以前Comet Lake-SとZen 2をまとめて比較した際のグラフがこちらで、Single Threadだと概ね500台のスコアなのが、遂に600を超えたとしている。IPCの19%アップ、という数字を実証するかのような結果である。Photo12はCore i9-10900Kとのゲーム性能比較であるが、やはり全般的に有利になっているとする。
Photo13~15は、この3つのCPUについて、競合製品との性能価格比を示したものである。数字はCineBenchと、あとは2K Gamingのフレームレート比の平均値をまとめたものなので、一つの目安以上のものではないのだが、実は競合製品と比べるとRyzen 5000シリーズは僅かながら高い値付けになっており、にも関わらず性能/価格比ではIntelを上回っているというメッセージであり、逆に言えばAMDは今回のRyzen 5000シリーズの性能に自信を持っており、それもあってやや高めの値付けをすることが出来た、という言い方もできる。
さて、ハイエンドは16コアのRyzen 9 5950Xが控えている(Photo16)。Photo17がRyzen 9 3950Xとの比較、Photo18がCore i9-10900Kとの比較であるが、まぁ文句ない性能である。このRyzen 9 5950も同じく11月5日に全世界同時発売、価格は$799とされる(Photo19)。
さて、マザーボードの対応だが、11月5日の発売時に間に合うのはAMD 500シリーズチップセット搭載マザーボードのみ。AMD 400シリーズも後追いでサポートされるが、こちらは来年1月頃になりそうとの事だった。
ちなみに、同じく10月中に発表があるBig NAVIことRadeon RX 6000シリーズの、ほんのちょっとのPreviewもあった(Photo21)。ここに挙げられた3つの結果のうち、筆者が普段利用しているのはBorderlands 3だけだが、筆者のテスト環境ではQualityを「高」にした結果なので、直接比較が出来ない(ちなみにGeForce RTX 3090の評価だとこんな感じである)。ただ幸いにも、手元にテスト環境&GeForce RTX 3080が残っていたので、Qualityを"Bad Ass"にしたところ、平均フレームレートは57.17fpsであった。つまりBorderlands 3の結果だけ見る限り、GeForce RTX 3080といい勝負ができそうな感じである。発表が待ち遠しい。