近く発表となるスバルの新型「レヴォーグ」にクローズドコースで試乗してきた。動力性能に不満はなく、運転支援&安全装備は充実していてよいクルマだったのだが、燃費については少し残念だったというのが本音だ。
自動車メーカー各社はハイブリッドをはじめとする電動化技術を駆使し、クルマの燃費向上に躍起となっているが、スバルについては目立った電動化の話題が聞こえてこない。クルマ好きが喜ぶクルマを作るのがうまいスバルだが、燃費についての要求が厳しくなっているこの時代を乗り切ることはできるのだろうか。
全面刷新の「レヴォーグ」は非電化
レヴォーグの発売は2014年。1990年代以来、日本のワゴンブームを牽引してきた「レガシィ」の事実上の後継モデルとして登場した。現在も販売中だが、北米市場を強く意識したサイズとなったレガシィに代わって、日本市場にちょうどよいサイズのワゴンという役目を担うことになったのがレヴォーグだ。
登場以来、人気を博してきたレヴォーグも6年が経過し、さすがに競争力が低下してくる中、2019年秋の東京モーターショーで新型の存在とその姿が明らかに。まったく新しいデザインでありながら、ひと目でレヴォーグとわかるスタイリングはおおむね好評で、早期の発売に期待が集まった。ほぼサイズアップしていないこともファンは歓迎した。
新型レヴォーグはスバルの新世代プラットフォーム「SGP」(スバル・グローバル・プラットフォーム)を採用している。試乗してみると、ハンドリング性能、コンフォート性能ともに6年分の進化を遂げているのが感じられた。路面の不整部分(試乗場所がサーキットだったため、わざわざ縁石に乗り上げるなどして確認した)を通過しても、またハイペースでコーナーに進入してボディに負荷をかけても、不快な振動や頼りなさを感じさせることはなかった。速度域を問わず静粛性が保たれ、高級感とまではいわないが、従来型よりも“モノの良さ”を感じさせた。
新型ではエンジンが従来の1.6リッターターボから1.8リッターターボに置き換わった。トランスミッションは引き続きCVTだ。上位モデルに搭載される2リッターターボは2.4リッターターボに置き換わると噂されるが、まだ公式発表はない。
今回の試乗会に用意されていたのも1.8リッターターボモデルのみだった。新エンジンは突出した何かがあるわけではないが、過不足のないパワーを発揮してくれた。ただ、従来型の2リッターターボに迫る力強さはないので、活発な動力性能を望むなら上位エンジン搭載モデルの登場を待つべきかもしれない。
スバル車といえば「アイサイト」に代表される充実したADAS(先進運転支援システム)のイメージが強い。従来型レヴォーグは、6年間のモデルサイクルの中で何度かADASを進化させてきたものの、ここ最近はライバルにキャッチアップされた状態だった。
「アイサイトX」を搭載する新型レヴォーグは、GPSと準天頂衛星システム「みちびき」を活用した位置情報を用いることで、自車の正確な位置を把握できる。これにより、一定条件下でのハンズフリー運転も可能となった。料金所の手前では自動的に減速するなど、自動運転レベル2としては最先端の性能が備わっている。
厳しい規制と競合で燃費向上が急務に
ただし、冒頭で述べた通り、新型レヴォーグの燃費は13.6~13.7km/L(WLTCモード)で、2020年の新型車としてはやや期待はずれな性能だ。ICE(電動システムを用いない純内燃機関車)としては健闘した数値なのかもしれないが、販売現場では電動モデルと競争を繰り広げることになる。
例えば、トヨタ自動車「RAV4」は15.2~20.6km/L、トヨタ「ハリアー」は14.7~21.6km/L、ホンダ「CR-V」は13.6~25.0km/L。ワゴンモデルで比べると、「マツダ6」のワゴンは17.0km/L、BMW「320d xDriveツーリング」は14.6km/L(いずれも4WDモデルのWLTCモード)となっている。CR-Vのガソリンモデルが同等なのを除けば、ライバルは軒並みレヴォーグよりも燃費がいい。
スバルは「XV」に「e-BOXER」というマイルドハイブリッドモデルを設定するものの、レヴォーグには設定していない。そのe-BOXERのXVとて、15.0km/Lと電動車の燃費としては物足りない。
スバルは電動化による燃費向上を考えていないのか? いや、そんな自動車メーカーは存在しない。
2020年3月末、国交省と経産省によって2030年燃費基準が策定された。基準値はWLTCモードで25.4km/Lととんでもなく厳しい。車重ごとに達成すべき燃費値が定められており、車重が1,000キロのクルマなら27.3km/L以上、1,400キロのクルマなら24.6km/L以上、1,800キロのクルマなら21.1km/L以上をクリアしなければ達成できない。達成判定はCAFE(企業別平均燃費基準)方式となる。つまり、1,800キロ以上ある重いクルマで達成できない場合、それを補って余りあるだけの(基準値を達成した)コンパクトカーを販売しなければ、企業として達成したことにはならないのだ。
新型レヴォーグ単体で基準を満たそうとするなら、23.0km/L弱の燃費性能でないと達成できないことになり、現在の13.6~13.7km/Lではお話にならない。ICE車が中心のラインアップでは新基準を達成するのは事実上不可能で、スバルのみならず、どのメーカーもHV(ハイブリッド)、PHV(プラグインハイブリッド)、BEV(電気自動車)といった電動車を販売の中心に据えなくてはならない。また、欧米にもこれに類する基準や規制が存在する。
2020年の年頭にスバルは、メディア向け技術ミーティングで「CO2削減」(=燃費向上)に向けたロードマップを示した。それによれば、まず「202X年にCセグメントのBEVを市場投入」とある。これは、スバルが2019年に「トヨタと中・大型乗用車向けのEV専用プラットフォーム、およびCセグメントクラスのSUVのBEVを共同で開発することに合意した」と発表した際のモデルを指している。
また、202X年(図によれば、同じ2X年でもEV投入より後)にはSHEV(ストロング・ハイブリッド)を市場投入するとの計画も掲げる。ミーティングでは、ハイブリッド専用に最適化した水平対向エンジンとTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)を組み合わせたパワートレインを開発中との発表もあった。THSはこれまで、マツダやスズキに供給された例があり、スバルは米国向けのPHV「クロストレック ハイブリッド」でTHSを使っている。
スバルが今後、SHEVをどのモデルで採用し、どの市場で売るかについては明らかになっていないが、 これこそ、同社のCAFEを向上させる当面のキーテクノロジーとなることは間違いない。世界各国で広く販売しないことには、各市場が要求する厳しい燃費性能をクリアできないはずだ。一部のスポーティーモデルを除き、広く採用することになるだろう。
現時点で、一部市場を除いてSHEV搭載モデルを投入できていない点において、スバルの電動化戦略ははっきりと遅れている。同社が掲げるCO2削減ロードマップが順調に進まなければ、同社の存続すら危ぶまれる状況といわざるを得ない。同社は「2030年に全世界販売台数の40%以上を電動車(BEV+HV)に」との目標を掲げているが、2030年に世界販売の40%程度では、各国の燃費要求を満たすことはできない。より高い電動車比率へと修正せざるを得ないはずだ。
これまで、スバルのイメージを高めるのに貢献してきた水平対向エンジンと4WDへのこだわりが、電動化戦略において足かせになっているのは皮肉だ。ただ、こうしたこだわりの技術をいかしたまま電動化に成功し、それをトヨタ車にも展開することができれば、両社にメリットがある。そういう意味では、スバルがこだわりをもち続けたことにも意味があるといえる。