今回のコロナ禍のなか、さまざまなメディアに頻繁に登場するのが「免疫力」という言葉。そして、その免疫力を高めるために重要だとして、「腸内環境を整える」ことにも注目が集まっています。「腸内環境を整える」というと、ヨーグルトをはじめとした「発酵食品」を食べることを多くの人がイメージするでしょう。
でも、栄養士の笠井奈津子さんは、「発酵食品をただ食べればいいというわけではない」といいます。効率よく腸内環境を整えるための、発酵食品の食べ方を教えてもらいました。
■「腸内環境を整える」ってどういうこと?
近頃、「腸内環境を整えよう」といった言葉をよく見聞きします。なぜなら、腸内環境がわたしたちの免疫力を大きく左右するからです。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、これまで以上に「腸内環境を整える」ことに注目が集まっているわけですが、「腸内環境を整える」とはどういうことなのでしょうか。
「腸内環境」とは、文字どおり腸内の環境のことであり、その環境をつくっているのが、「腸内細菌」と呼ばれる細菌たちです。腸内細菌には、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つの種類があります。
それぞれの名前からイメージできると思いますが、善玉菌は、わたしたちの体にとって必要な物質をつくってくれたり有毒物質を無毒化してくれたりと、よい働きをしてくれる細菌。一方の悪玉菌は、病気の原因となる有毒物質をつくるなど、わたしたちの体に悪影響を与える細菌のこと。最後の日和見菌は、善玉菌と悪玉菌のうちで優勢な、つまり多いほうに味方する細菌です。
そして、わたしたちの体を外敵から守ってくれる免疫細胞の活性化の鍵を握るのが、これらの腸内細菌なのです。結論からいえば、善玉菌が優勢な腸内環境であれば、免疫細胞は活性化します。新型コロナウイルスをはじめとした外敵に対抗する免疫力を高めるには、つねに善玉菌が優勢である状態をつくっておくことが大切です。
そして、この「善玉菌が優勢である状態をつくる」ことが、「腸内環境を整える」ということなのです。
■ひとつにかたよらず、さまざまな「発酵食品」を食べる
では、どうすれば腸内環境を整えることができるでしょうか。栄養士としてわたしからおすすめするのは、なんといっても「発酵食品」を食べること。なぜなら、発酵食品はそれ自体に善玉菌が含まれているからです。ですから、発酵食品を腸に届けるだけで腸内環境が整えられるわけです。
「届ける」というと、発酵食品の広告で、「生きたまま腸に届く!」なんてキャッチコピーを見かけませんか? もちろん、生きたまま届くことで善玉菌は即座に働いてくれます。でも、善玉菌はたとえ死んでいてもわたしたちにとって大切なものです。というのも、善玉菌は、死んでいたとしても仲間を増やす因子を残してくれるからです。
また、ひとことで善玉菌といっても、たくさんの種類があります。たとえば、ヨーグルトに含まれるのは乳酸菌ですし、納豆に含まれるのは納豆菌。そして、わたしたちの体に対する働きはそれぞれに異なります。
善玉菌は生きていても死んでいてもわたしたちにとってよい働きをしてくれ、種類によって異なる働きをしてくれる。つまり、腸内環境を整えるためには、ひとつの発酵食品ばかりを食べるのではなく、いろいろな種類の発酵食品を食べることが大切なのです。
■意識的に「植物性発酵食品」を食べよう
そういう意味で、「2大発酵食品」の両方を食べることを意識してほしいと思います。発酵食品は大きくふたつにわけられます。原料が動物由来の「動物性発酵食品」と、原料が植物由来の「植物性発酵食品」です。
代表的な動物性発酵食品は、ヨーグルトやチーズ。植物性発酵食品は、しょうゆやみそ、納豆、キムチなどです。とくに植物性発酵食品のほうを意識的に食べるように心がけてほしいと思います。というのも、納豆やキムチは別ですが、しょうゆやみそは調味料ですから、調理する必要があり、自炊しない人の場合には口にすることが少ないからです。
みなさんも、「発酵食品を食べよう」と思ったら、多くの人が「ヨーグルトを食べよう」と思うのではないでしょうか? そのまま気軽に食べられますし、それこそ発酵食品の代表格のようなイメージがついていますからね。でも、動物性発酵食品にかたよることなく、植物性発酵食品も食べるように意識しましょう。
■腸内環境を整えるには「炭水化物抜きダイエット」に注意!
では、最後に、発酵食品によってより効率的に腸内環境を整えるための方法や注意点をいくつか紹介します。
まず、チーズを食べるなら、どちらかというとプロセスチーズではなくナチュラルチーズがおすすめ。プロセスチーズは、加工の過程で加熱されているために、乳酸菌が死滅しているからです。もちろん、先にお伝えしたように、死んでいる乳酸菌もよい働きをしてくれるのですが、やはり生きている善玉菌のほうがよりよい働きをしてくれます。
そういう意味では、納豆を食べるときにも注意が必要。納豆をみそ汁やチャーハンの具として使う人もいると思いますが、やはり加熱されると納豆菌が死んでしまうからです。
それから、善玉菌が体にいいからと、発酵食品さえ食べていればいいというものではありません。善玉菌に元気に働いてもらうには、善玉菌の「餌」となる食物繊維を食べてあげる必要があります。その食物繊維を摂取するために、炭水化物をしっかり食べてほしいのです。
ダイエットのために炭水化物を食べないという人が増えていますよね? でも、じつは炭水化物は食物繊維の大きな供給源でもあります。「炭水化物=糖質」だと考えている人が多いのですが、炭水化物とは、糖質に食物繊維がくっついたものなのです。本来はおすすめしませんが、それでも糖質を摂取することに抵抗があるなら……ワカメやメカブ、オクラなどネバネバ食品から水溶性食物繊維をとることを意識してください。
【笠井さんおすすめ! 簡単「腸内環境」向上レシピ】
「レンジでつくる、キムチと秋ナスのあえ物」
■材料(ふたり分)
キムチ 50g
ナス 1本
A{ごま油 大さじ1、塩 ひとつまみ}
白ごま(お好み) 少々
■つくり方
① ナスは縦にしま目に皮をむき、ひと口大に切る
② 耐熱皿に入れた①にAをかけてひとまぜし、ラップをかけてレンジ(600W)で4分加熱する
③ ②とキムチをあえ、お好みで白ごまを振ってできあがり
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司