「アサーティブ(アサーティブコミュニケーション、アサーション)」という言葉が近年、ビジネスシーンをはじめとする場面で注目されています。これらの言葉が気になっている人も多いのではないでしょうか。この記事では、アサーティブについてご紹介します。
アサーションとは
アサーティブコミュニケーション(アサーション)とは、自分の言いたいことを大切にするのと同時に、相手が伝えたいことも大切にし、理解しようとする考えです。
医療におけるアサーション
アサーションは、1940年代に出版された医学関連の書籍に医療用語として記述されたのが始まりとされています。当時は人間として尊厳を取り戻すために有効な方法として考えられており、「アサーション=自己主張」として定義されていました。
現代のコミュニケーションにおけるアサーション
1970年代の米国で起こった人種や性別、民族などの差別を撤廃しようとする人権運動を契機に、アサーションは現代の相互理解というような意味を持つようになりました。
多くの人たちがさまざまな場面で自己主張をする機会を得ましたが、これまで抑圧されていた反動から表現が暴力的になったり、思うように自己表現ができずに悩んだりするケースが目立ちました。そこで、相手を傷つけず、なおかつしっかり主張は行うというコミュニケーションを学ぶためのアサーション・トレーニングという手法が確立されました。
自己主張のタイプを理解する
アサーティブコミュニケーションにおいて理想的な関係性を相手と築き上げるためには、相手と自分の自己主張のパターンを正しく認識する必要があります。以下に主な3パターンをまとめました。
■アグレッシブ
アグレッシブは攻撃タイプと言われることも多く、特徴としては下記があります。
- 思ったことを包み隠さず言い、自己主張が強い
- 自分の意志を通すため、悪意を持って行動をすることもある
- 相手より常に優位に立とうとする
■ノン・アサーティブ
ノン・アサーティブは非主張タイプと言われることも多く、特徴としては下記があります。
- 自己主張が苦手
- 物静かな性格
- 婉曲した表現を使う
■アサーティブ
アサーティブはバランスタイプと言われることも多く、特徴としては下記があります。
- 相手の気持ちも考えつつ、自己主張ができる
- 場の空気を重んじることができる
- 相手によって適切な伝え方ができる
アサーティブコミュニケーションの原則
アサーティブの4つの原則「誠実」「率直」「対等」「自己責任」について具体的に説明します。
誠実
相手にとって誠実であるだけでなく、自分の感情に対しても誠実であることが求められます。自分の気持ちに素直に向き合い、そのままを見つめることが大事です。
自分に誠実であるからこそ、相手に誠実になれるという考え方です。
率直
意見を伝える時は、相手の顔を見て簡潔に、具体的に話します。また、話の主語を「みんなが」などとせず、「私が」と主語を自分にして話すようにしましょう。
このように、自分を主語として要望を伝える手法を「アイメッセージ(Iメッセージ)」と呼びます。
自分の気持ちを相手に率直に伝えることの前提として、自分だけでなく相手の気持ちも尊重することが必要です。
対等
相手との間に、立場や役割の上下関係があったとしても、人間としては対等です。卑屈にもならず、相手を見下すことなく、フラットな姿勢で相手と接しましょう。
また人によって態度を変えることなく、誰に対しても同じ態度で接することが、相手と自分を尊重する第一歩です。
自己責任
アサーティブの観点では、自己表現の権利を行使するかどうかは自分で決めるという前提があります。行使した結果、あるいは行使しなかった結果についての責任は自分が取ります。
ただし、もし望んでいなかったリアクションが返って来ても、自分を責める必要はありません。自分の言動を受け入れるかどうかは、相手が決めることだからです。
アサーティブが使用できる場面
ビジネスでも、アサーティブに注目する職場が増えてきています。退職を防止するための人間関係対策や、社員のメンタルヘルス対策、モラハラ問題の対策として活用されることが多いようです。
どのような場面でアサーティブを活用できるのか、アサーティブの原則を踏まえながら、具体的に例を挙げてご紹介します。
商談の時
商談の場で得意先から、「今すぐにでも納品してほしい」などと無理な要求をされた時も、アサーティブな提案ができます。
「早めの納品を望んでいただき、ありがとうございます(誠実)。しかし、納品は最短でも2日かかります(率直)。一番早いと、本日から2日後の○日朝9時に納品という形になりますが、いかがでしょうか(対等)。生産部門にも、必ず○日の朝までに間に合わせるよう申し伝えます(自己責任)」
相手の思いをまず肯定してから率直に伝えたいことを話し、命令ではなく提案をすることも大事です。
意見を求められた時
あなたは会議の場で、同僚Aさんの提案について意見を求められたとします。そこで、アサーティブの原則を踏まえて発言します。
「Aさんのご意見も、もっともだと思います(誠実)。しかし、Aさんの提案をそのまま実行してしまうと、新たな問題が生まれるのではと心配しています(率直)。私もAさんとともに解決したいと考えています(対等)。私は△△という方法を実行したいと考えていますが、いかがでしょうか(自己責任)」
相手に意見を伝える時、「説得」ではなく「共感」を示すことも重要です。共感を示すことにより、相手も自分も尊重することができます。
反対意見を言う時
いきなり「私は反対です」と発言してしまうと、周囲の気持ちを尊重していない印象を与えてしまいます。喧嘩になってしまうこともあるでしょう。そのような場合は、相手を尊重する言い方に変換する技術が必要です。
例えば「○○に反対です」と言う代わりに質問として発言すると、印象も変わります。
「私の理解が足りないところもあるかもしれませんが(誠実)、◯◯より私は△△の方が効果的と感じました(率直)。△△についてどう思われますか?(対等)△△でしたら、ぜひ私に任せてください(自己責任)」
アサーティブで得られる効果
アサーティブなコミュニケーションを取ることで、具体的にどのような効果がもたらされるのかを解説します。
人間関係が円滑になる
アサーティブな会話ができれば、人と付き合いやすくなるでしょう。
アサーティブは、伝え方を変えることが大切とされており、必要なことや伝えたいことを、適切な言葉で伝えられることが目的とされています。
ストレスが減らせる
日常生活をしていると、コミュニケーションがうまくいかず、他人がこちらの思った通りに動いてくれなかったり、自分が我慢してばかりいたりするようなときにはストレスがたまるでしょう。
自分の思っていることをうまく伝えられれば、他人が思った通りに動いてくれないというストレスを抱える機会も減ると言えます。
自己主張が無理なくできるようになる
自己主張をしたい時、特に誰かに注意をしたい時は、アサーティブの活用が望まれるシーンです。
事前に「なぜ自分はこれを言いたいのか(誠実)」「相手が何をすることで、どのようなネガティブなことが起こるのか(率直)」と考え、「これはお互いにとって困る事態だ」と話し(対等)、「私もあなたともっと早く話し合えばよかった」(自己責任)などと言うことで、アサーティブな自己主張は可能となります。
アサーティブを知って人間関係を円滑にしよう
社交的な性格でなくとも、「誠実」「率直」「対等」「自己責任」を意識しトレーニングを重ねていくことで、アサーティブな会話ができます。
アサーティブな会話を通して、周囲と円滑な人間関係を築いていきましょう。