「あまり勉強ができなくて」「体調が悪くて」「昨日あんまり寝てなくって」――。大事な試験や試合、商談の場などにおいて、周囲に弱音を漏らしてしまったことはありませんか。
実はこの行為には名前がついています。その名も、「セルフハンディキャッピング(Self-handicapping)」。あらかじめ自分にハンディを負わせて、できなかった場合に外的要因を原因にする心理状態を示す言葉です。
つまり、結果が出る前から失敗の原因をほかに示すことで、恥ずかしい思いをしないように予防しているのです。
2種類のセルフハンディキャッピング
セルフハンディキャッピングには“主張的なもの”と“獲得的なもの”の2つがあります。これらは、周囲に言い訳の言葉を発するか、先にできない要因を作っておくかの違いがあります。
主張的セルフハンディキャッピング
主張的セルフハンディキャッピングとは、自分が困難に直面していると知っている周囲の人に向けて、言葉で言い訳をするような場合です。
たとえば、「あまり勉強ができなくて」「体調が悪くて」「自信がぜんぜんなかったから」などと周りの人に言いふらして、達成できなかったのは自分のせいではないと主張します。
結果が出る前からこのように吹聴して、失敗の原因をほかになすりつけて恥ずかしい思いをしないように予防しています。
獲得的セルフハンディキャッピング
獲得的セルフハンディキャッピングとは、試験前日にゲームなどをして遊んで、あらかじめできない原因を自分に課してしまう状態です。
仕事に関しても同じような例があり、自分ではまかないきれない量の仕事を抱え込み、できない言い訳にする人がいます。これも、獲得的セルフハンディキャッピングの典型的な行動です。
セルフハンディキャッピングに打ち勝つ方法
セルフハンディキャッピングは、自分で自分の成長を止めてしまう可能性がある心理状態です。しかし、自己防衛という観点から考えると必要なものなので、以下に示すやり方から自分にふさわしい方法を選び、少しずつチャレンジしてみましょう。
言い訳をしない
セルフハンディキャッピングに打ち勝つために、まずは言い訳をするのをやめていきましょう。
自分の発言に客観的に耳を傾けて、言い訳を始めたなと感じたらすぐに止める努力をしましょう。たとえそれが失敗したあとの言い訳だったとしても、未練がましく聞こえるのでやめておきましょう。
成功体験を作る
セルフハンディキャッピングを乗り越えるために、小さな成功体験をたくさん作って自信につなげていきましょう。
自信がある人はセルフハンディキャッピングに陥りません。小さな成功を積み重ねて、失敗しない自分を作り上げていきましょう。「仕事はひとつに絞り必ず成功させる」「試験の練習は解ける問題から始める」などの工夫が大切です。
成功を想像する
成功のイメージトレーニングをしていると、失敗するという想定が頭の中から追い払われます。脳が成功のイメージを作り上げると、自然に体や周囲の状況が変わってくるからです。このイメージトレーニングが、あなたから失敗する環境を遠ざけてくれます。
失敗を恐れない
失敗がとても恥ずかしく不名誉だと思っているから怖いと感じてしまうので、恐れない強い心構えを作っていきましょう。間違いは誰にでもあります。失敗があるから成功するのだと考えを改めて、恐れをなくしていきましょう。ミスから学ぶ方法を覚えて、失敗が成功への近道だと思える、大きな心構えを養う姿勢が大切です。
周りに宣言する
SNSなどを使って自分が成功させたい何かを宣言して、できるという自信を高めていきましょう。自分はできる、大丈夫だという自信を持つために、先に周知させてしまう方法が有効です。自分で自分にできると思い込ませて本当に実現できれば、自負心が高まるでしょう。
感情を認める
セルフハンディキャッピングに打ち勝つために、自分の素直な感情を認めてあげましょう。
自分の心に自然に湧いてくる考えは、それがポジティブであろうとネガティブであろうと、すべて認めてあげてください。否定してはいけません。自分を否定すると自尊心を傷つけて自身を貶める結果になるからです。
自分のすべてを肯定してあげましょう。
セルフハンディキャッピングの利点
セルフハンディキャッピングには、メリットも存在します。以下、2つのメリットについて紹介します。
自信を持てる
事前にしっかり勉強・準備していなかったにもかかわらず、試験や仕事の結果がよかった場合には、それが自信につながることがあります。
自分はできる人間だという自覚ができれば、自分自身に自信を持つことができ、さまざまな行動に挑戦できる人間になれる可能性があります。
プライドを守る
セルフハンディキャッピングで自己防衛しておけば、自信喪失せずに済みます。
人間には誰にでもプライドがあります。高すぎてもだめですが、低すぎると自分はダメな人間だと思い込む性格になってしまうでしょう。また、何もできない人間だと考えて自分を責めすぎると、体調を崩したり、精神的な落ち込みを招いたりいてしまう恐れもあります。
セルフハンディキャッピングとは、そのような心の危険を避けるために存在していると言えます。
セルフハンディキャッピングの欠点
メリットがある半面、デメリットもセルフハンディキャッピングには存在します。以下に2点をまとめました。
課題成功の確率が下がる
上記の獲得的セルフハンディキャッピングの例で言えば、「試験前日にゲームなどをして遊ぶ」という行為は、テストにおける得点低下につながる可能性が高いです。また、重要なプレゼンテーション前日に深夜まで深酒をしてしまえば、二日酔いで頭がガンガンした状態でプレゼンをする事態に陥ってしまいかねません。
そのような状態では、自分が本来望んでいた結果(テストでの高得点やプレゼンテーションの成功)を得るのは難しいでしょう。
周囲から悪印象を抱かれかねない
上記の主張的セルフハンディキャッピングをすると、周囲から否定的な印象を抱かれる恐れがあります。
心理学・臨床心理学分野を専攻する沼崎誠教授が発表した論文「受け手が抱く印象に獲得的および主張的セルフ・ハンディキャッピングが与える効果」(The Japanese Journal of Experimental Social Psychology: 1995, Vol.35, No.1, 14-22)によると、都内私立大学生35名を対象にした実験では、主張的セルフハンディキャッピングを行った人は、相手から好意および親しみやすさにおいてネガティブな評価がされています。これらの結果を踏まえ、同氏は「主張的セルフハンディキャッピングがあると、親しみにくく好意が持てないと評定された」とまとめています。
言い訳じみた言動をする人に対し、周囲の人はあまりいい印象を抱かないので注意が必要です。
セルフハンディキャッピングとうまく付き合おう
セルフハンディキャッピングには良い面と悪い面があります。自己防衛という意味では心強い味方ですが、自分を甘やかす結果になると人間としての成長を妨げてしまう可能性もあります。
セルフハンディキャッピングを克服して、自分に言い訳しない人生を歩んでいきましょう。