NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜20:00~)の第24回「将軍の器」が20日に放送され、向井理演じる将軍・足利義輝の最期が描かれた。三好・松永の子らによるクーデターが勃発。義輝は刀を手に大勢の敵を斬り倒していくも、最後は障子で動きを抑え込まれて殺害された。
「武家の頭領らしく、勇ましく散ることができたら」。そう語っていた向井は、力強い立ち回りを見せ、そして、無念さが伝わるラストを演じきった。このシーンは撮影再開直後に行われ、殺陣の稽古は撮影の数日前の1回のみ。限られた時間の中で向井はどのように“義輝の最期”と向き合ったのか、演出の佐々木善春氏が明かした。
■動きや演出意図を事前に把握 「その先」の話から
演出担当回のめぐりあわせで、これまでの義輝登場のシーンを演出しておらず、向井とちゃんと話すのは殺陣の稽古時が初めてだったという佐々木氏。そのため、事前に向井に手紙を送り、「自分の演出のプランとそれを思うに至った訳」を伝えた。
コロナ禍において殺陣稽古も数多くはできず、本番の数日前に1度きり。そこで演出意図を説明しようとすると、向井から「義輝の心情は、どこに描いていきましょうか?」とさわやかな笑顔で一言。殺陣の動きや演出意図はすべてわかった上で、「その先」の話から会話がスタートしたという。
通常の殺陣シーンの稽古では、まずは先生の指導を受けて殺陣の動きを体に入れ、そのあと、細かいところに踏み込んでいくが、向井はすでに殺陣の先生がつける予定の動きをマスターしていたのだ。
佐々木氏は「確かに、撮影中断でお会いできなかったので、事前に殺陣の久世先生がつけた動きを動画に撮ってお送りはしていました。でも普通それは、あらかじめ見るだけで、動きは稽古の現場で身に着けていくものなんです。しかし、この時の向井さんはその動画で描かれている動きを完璧に頭にいれていて、最初に手合わせした時に、あらかた動けていたんです。向井さんが求めたのはその動きの中に宿すべき『魂』でした」と振り返る。
そして、「向井さんのこのシーンにかける思いと準備の緻密さを実感し、驚きと感動に包まれたのを覚えています。僕自身の演出プラン・意図は理解した上で、『ではもっと上に積み上げていきましょう』という思いが、向井さんの中にみなぎっていました」と、そのとき感じた驚きと感動を明かした。
■「義輝の心情を殺陣の上に乗せてどう表現するか」
向井が動きや演出意図をすでに理解していたため、その話をする必要はなく、収録現場に至るまでずっと話していたのは、「義輝の心情をこの殺陣の上に乗せてどう表現するか」ということ。「ただ単に華麗に斬っていく、華麗に散っていくだけではなく、やり残したことへの思い、襲いかかる敵に対する気迫、カットごとに、その思いをどう表現するか」を突き詰めていったという。
そして、「殺陣シーンであるにもかかわらず義輝の目と表情が印象的」と語る佐々木氏。「なにやら覚悟を決め、文言を唱えたあと。太刀を抜いた時。相手に太刀を突き立ててまま鬼気迫る感じでグイっと押し込む。たくさんの者を相手にして疲れているかもしれないけれど、気合をまき直し外へ出ていくときのその目。槍を突き立てられても尚、あきらめるというよりは、この世の理を知ったような静かな目。わずかな時間の中に変化豊かなたくさんの『目』が表現されたのは、向井さんのこだわりと芝居のなせる業だと思います」と向井の演技を称賛した。
殺陣シーンの収録を終え、クランクアップを迎えた向井は、「演じるのが当たり前と思っていたけれど、撮影の中断によってそうではない何もしない期間を経て、またカメラの前に立つことが出来て、演じられる喜びをひしひしと感じた撮影でした」とあいさつ。佐々木氏は「向井さんが出番を終えることと義輝がこのドラマから退場すること、その寂しさが一気に心にきました。義輝と向井さんはやはりこの日『一つ』になっていたと確信し嬉しくもあり寂しくもあるそんな撮影になりました」と振り返った。
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