マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、米国の金融政策について語っていただきます。
9月15-16日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催しました。
そこでは8月下旬にパウエル議長が明らかにした金融政策の新しい枠組みが採用されました。それは、2%のインフレ目標を常に狙うのではなく、一定期間の平均として達成を目指すというもの。近年のようにインフレが2%を下回る場面が続けば、2%を上回ってもある程度容認されます。換言すれば、金融緩和の長期化が示唆されたことになります。
2024年までゼロ金利は続く!?
FOMCの「ドット・プロット(※)」によれば、17人の参加者のち2022年末までの利上げを予想したのは1人、2023年末までの利上げを予想したのは4人でした。つまり、17人のうち13人は2024年に入っても現在のゼロ金利が続くと予想したことになります。
※ドット・プロット: FOMCの参加者それぞれが予想する各年末の政策金利をドット(点)で表し、図にしたもの。点が多い=その金利水準を予想している参加者が多いということ。参加者のうち何人が利上げ/利下げ/据え置きを想定しているのかが一目でわかる。
FOMCの声明文では、「インフレの一定期間の平均が2%となり、(企業や家計、市場などの)期待インフレが2%に定着するまで、FOMCは2%をやや上回るインフレを目指す」とされました。また、「労働市場が最大雇用と整合的な状況になるまで、そしてインフレが2%に到達して、2%をやや上回る軌道に乗るまで政策金利を0-0.25%に維持する(=ゼロ金利の継続)」と明言されました。
失業率は4%を目指す!?
FOMCは「最大雇用」が達成された時の失業率(自然失業率)を4%程度とみています。今年8月の失業率は8.4%でした。失業率が低下して4%に接近するまではゼロ金利が継続されます。そして、上述の「ドット・プロット」に基づけば、FOMC参加者の大部分は失業率が4%になるタイミングが2024年以降だと予想していることになります。
なお、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、食料とエネルギーを除くコアインフレが継続的に2%となるまでゼロ金利を維持すべきと主張しましたが、それは採用されませんでした。
コロナ禍での強力な金融緩和
コロナの感染拡大が経済に与える打撃が懸念された3月中旬以降、FRBは次々と対策を打ち出しました。まず、政策金利であるFFレートの目標を0-0.25%へ引き下げ、2015年12月以来となる事実上のゼロ金利政策へ回帰しました。
2014年10月に終了したQE(量的緩和)を再開し、その後に国債や住宅ローン担保債券の購入を「無制限」としました。コロナ対策によって財政赤字(=ネットの国債発行額)が増大するなか、中央銀行による国債購入は国債市場の安定に寄与しているはずです。
FRBはさらに、州政府や地方自治体、企業、あるいは消費者を直接支援する複数のプログラムを創設しました。大手企業の新規に発行する債券を購入したり、新たな融資を行ったりするPMCCF、既存の社債を購入するSMCCF、そして学生ローン、自動車ローン、カードローンなどを担保にした債券を購入するTALF、直接的に中小企業へ融資を行うMSBLPなどです。
以上の結果、FRBのバランスシート(総資産)は、今年2月末の4兆ドルから5月末には7兆ドルに膨張しました(その後はほぼ横ばいで推移)。
長期金利は上昇!?
今回のFOMCの結果とパウエル議長の会見を受けて、長期金利(10年物国債利回り)は小幅上昇しました。インフレの2%超が容認されるのであれば、長期金利には上昇圧力が加わるはずです(「名目の金利=実質金利+期待インフレ率」なので)。会見でパウエル議長がFRBの国債購入で長期国債を増やすこと(=長期金利低下要因)を示唆するようなリップサービスを、投資家は期待していたのかもしれません(実際には議長は「必要なら調整する」とだけ述べました)。
FOMCは市場金利に目標を設定するYCC(イールドカーブ・コントロール)の導入には否定的ですが、長期金利が大きく上昇するような状況になればYCCの導入を検討するかもしれません。
米ドル相場のカギを握る長期金利の動向
金融緩和が長期化すれば、長期的には米ドル安要因と判断できます。ただし、長期金利の上昇が米ドルを押し上げる局面はありそうです。財政赤字(=ネットの国債発行額)のさらなる増大が見込まれるなか、FOMCが対応を誤れば長期金利の思わぬ上昇(=国債価格の下落)を招きかねません。16日の長期金利の上昇は小幅かつ一時的でしたが、今後起こりうることのプレビューだった可能性はあるでしょう。