東日本大震災の復興支援を目的に、2013年より開催されている自転車イベント「ツール・ド・東北」。約4,000人もの参加者が集い、大勢のライダーたちが海岸線を颯爽と駆け抜けていく風景は今や"東北の風物詩"とも言える。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響によって開催の中止を余儀なくされ、その代わりに、自宅で楽しめる「ツール・ド・東北」として「オンライン応“縁”フェス」が開催されている(2020年9月2日~9月30日)。

  • 私たちが「ツール・ド・東北」に参加するワケ。60名の社員を超える大所帯で「ツール・ド・東北」に参加する「日本ヒューレット・パッカード(HPE)」

ここでは、「来年また東北の地を自転車で走れるように!」との願いも込め、昨年の2019年に会場で取材させていただいた方々の声から、改めて「ツール・ド・東北」を紐解いていきたい。今回のテーマは「私たちがツール・ド・東北に参加するワケ」。

ITで被災地を支援したい

ライダー、ボランティア、協賛ブースと多岐にわたり、60名の社員を超える大所帯で「ツール・ド・東北」に参加する「日本ヒューレット・パッカード(HPE)」さんを取材。出走前日の会場で、エンジニアの久保圭乃子さん、営業職の宮本健斗さんの2名にお話を伺った。

「HPE」と言えば、誰もが知るIT業界における世界的な大企業。しかし、サイクリングや東北にゆかりがあることはあまり知られていないが、どのような経緯で同イベントに参加する運びとなったのだろうか。

「東日本大震災のあと、会社では"ITで被災地の支援ができないか"という想いから様々な支援活動を行っていました。そんな中で『ツール・ド・東北』運営のヤフーさんから同イベントのお話をいただき、ブース出展を始めたのがきっかけです」

「復興を支援したい」「サイクリングで被災地を応援したい」……そんな想いを持つ社内の有志が集い、会場でのブース出展、エイドステーションでのボランティア活動、ライダーとしての出走と多彩な面からイベントを支えている。今や、会場のあちらこちらで目にするHPEのお揃いサイクリングウェアは、イベントの風物詩とも言えるほどだ。

「社内から『イベントに参加したい!』という強い要望がいくつもあがり、イベントに参加する運びになりました。このような事例は他になく、とても驚いたのを覚えています。やはり、他のサイクリングイベントとは違い、この『ツール・ド・東北』には"特別な魅力"があるからだと思います」と、イベント担当者は話す。実は彼は今回がイベント初参加。その"特別な魅力"を感じたくて、今回は東北に来たのだと語っていた。

会社の仲間と"一体感"が生まれる

これまで何度も「ツール・ド・東北」に参加してきたリピーターである久保さんと宮本さんは、大勢の社員とともにイベントに参加する魅力について「一体感です」と口をそろえて話す。

ボランティアのとりまとめを行っている久保さんは「毎年訪れるたびに仮設住宅がなくなったり新しい建物が増えていたりと、復興が進んでいる様子を直で感じられること、沿道で応援してくれる地元の方々に元気をもらえることなど、イベントの魅力は尽きません。中でも、会社の人たちと一緒に参加することで、いつもは関わることのない別部署の人とコミュニケーションがとれたり、職場仲間の会社とは違う一面が見られたり……普段、会社では得られない貴重なひとときを過ごすことができます。このようにコミュニケーションが深まることで、仕事も円滑に進むようになったと感じています」と話す。

  • 大漁旗に迎えられゴールするライダー(画像提供:ツール・ド・東北 事務局)

また、もともとサイクリングが趣味でライダーのとりまとめを担う宮本さんは、ひとりで走っている際とは異なる魅力にも気づくことができたという。「自転車が好きなのでひとりでストイックに走るのももちろん楽しいのですが、『ツール・ド・東北』で会社の人たちと走ってみると、走行中"話していないのに話している"ような不思議な感覚になるんですよね。それは、同じスピード、同じ景色、同じ空気を共有しているからかもしれません。そんなサイクリングならではの体験が、普段は得られない"一体感"を生んでいる気がします」

仕事の枠を超えて通じ合える関係に

「近年、仕事と生活を統合させる『ワーク・ライフ・インテグレーション』の考え方に注目が集まっていますが、その観点からも会社の仲間たちと『ツール・ド・東北』に参加することは理にかなっていると思います」と参加者が話すように、共通する志や趣味を持つ仲間たちとイベントに参加することは、仕事の枠を超えた有意義なひとときとなる。そんな時間を共有することで参加者同士で一体感が生まれ、公私ともに充実した体験となるのだ。

取材後、久保さんが「普段は気楽にしゃべりかけることができないような人ともこうやって仲良く話ができるのはイベントのおかげです」と笑顔で話していた。年代も立場も超えて、こんな風に気さくなコミュニケーションが生まれるのは、自転車が絆を紡いでくれるからに他ならない。

※取材協力:ヤフー