トヨタ自動車の新型コンパクトSUV「ヤリス クロス」が好調だ。発売から1週間ちょっとで受注台数は約2万台に到達。どんなクルマからの乗り換えが多いのかを聞くと、自動車市場の現状を如実に示す興味深い事実が判明した。SUVはもはや、「ブーム」ではないのかもしれない。
ブームではなく「主流」に?
ヤリス クロスはトヨタの小型車「ヤリス」とプラットフォームを共有するコンパクトSUV。ヤリスシリーズとしての「軽快な走り」「先進の安全・安心技術」「低燃費」を受け継ぎつつ、利便性を高め、乗る人の個性やライフスタイルを彩るクルマに仕上げたとトヨタは出来ばえに自信を示す。
エンジンは1.5リッターでハイブリッドも選べる。駆動方式はFF(前輪駆動)と4WDの2種類。ハイブリッドの4WDは電気式の「E-Four」だ。グレードは「X」「G」「Z」の3種類で、価格幅は179.8万円~281.5万円。ちなみに、ヤリスの価格幅は139.5万円~249.3万円だ。
ヤリス クロスの発売日は2020年8月31日だが。発売から1週間ちょっとの9月8日現在で受注台数は約2万台に到達したとのこと。内訳を聞くと、パワートレインはハイブリッドが約7割、グレードは「Z」が8割で「G」が2割、駆動方式は2輪駆動が7割とのことだった。
日本で買えるトヨタのSUVは、かなり増えた。思いつくだけでも、「ライズ」「C-HR」「ヤリス クロス」「RAV4」「ハリアー」「ランドクルーザー」の6種類が販売中だ。普通、これだけSUVの種類が増えると、互いに顧客を取り合ってしまって、ビジネス的にはよろしくないはず。ヤリス クロスに試乗した後、開発責任者の末沢泰謙さんにこの疑問をそのままぶつけてみると、以下のような興味深い話を聞くことができた。
「(いわゆるカニバリズムは)私も心配していたのですが、ただ、市場全体がSUVに動いているんです。ヤリス クロスのお客様は、プリウスやアクアなどからの乗り換えが多い。C-HRからとか、ヴェゼル(ホンダの小型SUV)からとかいう話であれば、SUVのお客様が流れてきたということになるんでしょうけど、実際はセダンやハッチバックから来ていただいているんです」
もちろん、まだ発売になったばかりなので、ヤリス クロスの顧客はもともとのトヨタユーザーが多いと思うし、これから、どんなクルマからの乗り換えが増えていくのかは分からない。ただ、あくまで現時点では、ヤリス クロスはSUV市場から顧客を奪ってきたというよりも、SUV市場に新たな顧客を呼び込んでいるように見える。これは、「次にクルマを買い替えるなら、SUVにしよう」と考えている自動車ユーザー(潜在的なSUVの顧客)の多さを如実に示す現象なのではないだろうか。ここ数年、自動車業界では「SUVブーム」という言葉をよく耳にしたが、SUVはもはやブームではなく、自動車市場の主流になりつつあるのかもしれない。