米Appleは2020年9月15日(現地時間)、Apple Watchの新モデル「Apple Watch Series 6」と「Apple Watch SE」を発表した。注文受付はすでに開始しており、9月18日より発売される。一足先に実物に触れる機会を得たので、ファーストインプレッションをお届けする。
見た目は変わらず、中身は正統進化のApple Watch Series 6
Apple Watchは、2015年の誕生以来基本的なフォルムを変えないまま現在までアップデートを続けてきたデバイスだ。大きな変化といえばSeries 4で画面サイズがアップしたことが挙げられるが、それでも見た目の印象は変わらず、バンドも互換性が保たれた。誰がどのモデルを見てもApple Watchだとわかるアイコンが確立されている。
Series 6でも同じく、フォルムに大きな変化はない。ただし、アルミニウムケースモデルに新色が追加され、これまでになくカラフルになった。ほぼシルバー/ゴールド/スペースグレイで続いてきた歴史からすると冒険的とも言える。
誕生当初に強くアプローチしていた「ファッションアイテムとしての時計」からは、この数年やや離れていたが、Appleらしいやり方で、"選んで身に着けるもの"としての価値を改めて主張し始めたように見える。
ハードウェア面では、iPhone 11のA13 BionicチップをベースにしたS6 SiPが搭載され、Series 5と比べて最大20%高速化しながらバッテリー駆動時間は18時間(スペック値)を変わらない長さを維持。また、充電がより高速になり、0%から100%まで約1時間半でフル充電が可能となっている。これならiOS 7の睡眠計測機能を利用する場合でも残量のやりくりに困らないだろう。
注目の「血中酸素ウェルネス」、常時表示もアップデート
Series 6の新機能として注目されているのが「血中酸素ウェルネス」機能だ。新搭載のセンサーとアプリにより、血液中のヘモグロビンに含まれる酸素の割合を計測することができるというもの。医療用でなくあくまで個人向けに自分の状態を知ることが現状の用途となるが、ヘルスケアの指標としてApple Watchで計測できるものが一つ増えた形になる。
Appleではこの機能やその他の計測機能を活用して得られたデータを用い、大学や研究機関と共同で、ぜんそくや心不全の症状緩和、インフルエンザやCOVID-19の初期症状との関係について研究を始めている。今後の医療に役立つ何らかの成果が得られることに期待したい。
見た目の部分でSeries 5と違いを感じたのが、常時表示Retinaディスプレイのアップデートだ。スリープ状態の明るさが最大2.5倍になり、より自然に見えるようになった。はたから見ると黒くて四角いものが手首についているように見えた頃とは一転、周囲の人からも普通に時計として認識されるものになったと言える。
注目のApple Watch SE、普及モデルとしての実力は
今回、Apple Watch史上初めてスペックの異なる2つのモデルが発表された。もうひとつのモデル「Apple Watch SE」は、名前から受ける印象の通りiPhone SEと同じく戦略的な普及モデルと考えていいだろう。価格はGPSモデルが2万9,800円、GPS+セルラーモデルが3万4,800円と、Series 6より3割以上も安い。
ケースのフォルムとディスプレイサイズはSeries 6と全く同じで、一見して見分けがつかない。チップはSeries 5と同じS5 SiPを搭載し、十分な処理能力が担保されている。ラインアップに残るSeries 3では少々心許ないと思う人も、これなら安心できるだろう。
Series 6にあってSEにない機能は、「常時表示Retinaディスプレイ」「血中酸素ウェルネス機能」「電気心拍センサー」の3つだ。これらを除いても、多くの人がApple Watchに必要だと考えている機能はカバーされていると言える。「ほぼSeries 5」と考えるとコスパはかなりのものだ。Apple Watch購入者の7割以上を占めるという新規ユーザーにとって、有力な選択肢になることは間違いない。
サービスの力で既存ユーザーの周辺を取り込めるか
今回、新型Apple Watch同時に「ファミリー共有設定」機能が発表された。1台のiPhoneに別のアカウントのApple Watchをペアリングすることで、iPhoneを持たない人でもApple Watchを利用できるというものだ。Apple Watch SEのターゲットが既存のユーザーでなく新規ユーザーであることは明確だが、特に既存ユーザーの子どもや親に期待を寄せていることがうかがえる。
30〜40代のユーザー層なら、安全確認や非常時の連絡手段として子どもや親にスマートフォンを持たせたいと思っている人も少なくないだろう。だが、価格の問題や、見えないところでトラブルに巻き込まれかねない懸念もある。Apple Watchはそれに対するソリューションになり得るデバイスだ。比較的安価で、GPS+セルラーによる位置情報や転倒検出に対応するSEはその用途に最適化されている。
おあつらえの2モデルとサービスを同時に提供し、既存ユーザーとその周辺の潜在ユーザーに対して新たな活用モデルを提示したことは、戦略上の大きなポイントと言えるだろう。ただ、スマートフォンを欲しがる子どもをApple Watchで納得させられるか(使えば面白がるとは思うが)、逆に高齢者にはちょっと頑張ってスマートフォンを持ってもらったほうがいいのではないか…といった反応は容易に想像できる。ユーザーの事情にAppleの戦略がどこまでフィットするか、注目したい。