暑い夏もようやく終わりが見えてきました。こんなにマスクを着けた夏は初ではないでしょうか。医療の現場では、マスクが原因と考えられる深刻な症状が激増したそうです。産業医としても活躍する医師の木村至信(しのぶ。以下、キムシノ)氏に聞きました。
マスクで蒸れただけ……じゃない深刻な病気
いまだに収束が見えない新型コロナウイルス感染症の拡大。感染予防でマスクを着ける機会が増えたためか、唇や口の周りに違和感を覚えて受診する人が急増したそうです。症状は、「ピリピリする」「赤く腫れる」「水ぶくれが出たりただれたりする」など。首のリンパ節が腫れたり、熱発したりなどの深刻なケースも。
これらはマスクで蒸れた、生地が肌に合わないなどといった単純な理由だけではない深刻なケースもあるらしいのです。
キムシノ氏 「夏前ぐらいから口唇ヘルペスが増えています。ヘルペスとは、皮膚に小さな水ぶくれが集まって炎症を起こしている状態です。ヘルペスウイルスに感染することで引き起こされますが、ヘルペスウイルスには種類があります。
水ぼうそうや帯状疱疹の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルス、口唇ヘルペスや性器ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルスなど。口唇ヘルペスは、口の周りに痛みとともに水ぶくれができることを繰り返します」。
――マスクが直接の原因となるわけではないのですね?
キムシノ氏 「口唇ヘルペスはウイルスの働きによりできます。口唇にできたヘルペスが、マスクで擦れて水疱が破れ、浸出液がマスクを伝って唇の違うところにヘルペスを作ります。それが、今流行っている難治性の口唇ヘルペスの原因と考えます」。
口唇ヘルペスの治療とマスクの正しい使い方
もしも感染したときの治療はどのような感じなのでしょうか。予防法も教えてもらいました。
キムシノ氏「ウイルスが付着した手指や器具、くしゃみや咳などが感染経路です。一度ヘルペスウイルスに感染すると体内で潜伏感染し、そのときは症状がありません。疲労や風邪、ストレス、生理などで免疫力が下がった時に、唇や口の周りにウイルスが移動し発症します。
軽症なら抗ヘルペスウイルス薬の塗布、重症なら抗ヘルペスウイルス薬の内服を指導しますが、現在発売されている抗ヘルペスウイルス薬は、ウイルスが増えることを抑えても、ウイルスを取り除くことはできません」。
――完治はできず、再発するかもしれないということでしょうか?
キムシノ氏 「口唇ヘルペスは神経に潜み、体の抵抗力が落ちたときに再発します。そのため、再発を予防するには疲れやストレスをためないようにしましょう。バランスの取れた食生活を心がけ、風邪を引かないよう手洗いやうがいを徹底します。
女性の場合は免疫力が落ちる生理期間中は要注意です。同居者が感染した場合は、食器やタオルは共用せず、使用後は洗剤を用いて洗うなどしましょう」。
――マスク着用の注意点を教えてください。
キムシノ氏 「マスクは頻繁に替える、マスクの中に隙間を作るシリコン製の器具などを挿入して直接唇と当たらないようにする、器具も清潔を保つなどです。唇の皮をむかない、汚い手で唇を触らないなども重要。
食事、運動、睡眠の充実を心がけた上でサプリを考えるなら、粘膜の保護をするビタミンB、Cがお勧めです。ヘルペスができたら48時間以内に抗ウイルス剤を内服すると早期に治ります。診療科は耳鼻咽喉科がよいでしょう」。
マスク日焼けどうしよう?
マスクのトラブルといえば、マスク日焼け。夏が終わってマスク焼けに気付いた人もいるのではないでしょうか。マスクで覆われたところだけ白く焼け残った肌、なんとかしたいですよね。
キムシノ氏 「日焼けは火傷に近いもので、黒くなっているのはメラニン色素の沈着。第一に、熱を持った肌を冷やす、次に保湿です。私は安いパックをたくさん買って冷蔵庫で冷やしておいて、日焼けした日はお風呂上がりにパックします。日焼け後48時間以内のケアが大事です。冷やしては保湿、冷やしては保湿を1週間続けてください。
1週間の急性期を過ぎてしまったら、ビタミンCやメラニンを排泄するトラネキサム酸入りの化粧水でたっぷりと保湿しましょう。夏に限らず開封した化粧水は冷蔵庫に入れておくと、成分劣化を防ぎつつ引き締め作用もアップします。色が戻るには肌の生まれ変わりサイクルを待つしかありません。新たな日焼けを作らないようにしながら1カ月ケアを続けてみてください。
食べ物ならレモン、グレープフルーツ、赤や黄のピーマンなどのビタミンCを多く含む野菜や果物がお勧めです。サプリで補うのも良いです。1カ月ほどでそういえば薄くなったなと実感できると思います」。
取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)
横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。