たまたま放送タイミングが重なったのか、復讐ドラマが同時にオンエアしている。玉木宏さん主演の『竜の道 二つの顔の復讐者』(以下、竜の道)(カンテレ・フジテレビ)、横浜流星さん主演の『私たちはどうかしている』(以下、わたどう)(日本テレビ系)の2本だ。

どちらの作品にも共通しているテーマは"親の仇討ち"。私利私欲のために、親の命を奪った人間をどん底に突き落とすために、主役が自分の生涯を捧げている。個人的に復讐モノが大好物なので、毎週ニヤニヤしながらテレビの前にスタンバイ。そこでふと気づいたのは、両作品ともにベテランの俳優陣が並々ならぬ存在感を発揮していることだった。その詳細に迫りたい。

『光月庵』の和菓子の甘さよりもぐっと濃厚なベテラン勢

まずは『わたどう』のあらすじを。

和菓子屋の老舗『光月庵』では15年前に、先代当主の殺人事件が発生。その犯人とされたのが、店の職人である花岡七桜(浜田美波)の母親だった。事件の真相を突き止めるため、七桜は長男の高月椿(横浜流星)と偽装結婚をする。

佐野史郎

椿の祖父役・宗寿郎に佐野史郎さんが出演している。「あのマザゴン冬彦さんがおじいちゃん……?」彼に関してはしばらくノーマークだっただけに、驚いた。読者の皆さんにとって佐野さんはすでに『祖父役』の一人かもしれない。でもかつて『ずっとあなたが好きだった』(TBS系・1992年)では、社会現象を起こすほどのマザゴン息子を演じていた。ママに甘えていくシーンや、木馬にまたがって遊ぶ姿はいまだに忘れることができない。

今回、『わたどう』では15年前に息子を殺害されてしまったことから、まだ完全に立ち直れない、そして周囲ともコミュニケーションをうまく取ることができない役。家族のことも一切信用しない、と言う意地を張った態度を見ていると、どこか前述の冬彦さんを彷彿する。もし彼が年齢を重ねてそのままであれば、宗寿郎のような頑固じいさんだったかもしれない。約30年が過ぎても色あせない衝撃から続く演技に注目して欲しい。

観月ありさ

この作品から外せないのは椿の母、そして七桜義母・今日子を演じる観月ありささん。かつて『伝説の少女』(1991年リリース)を歌って、一世を風靡していた可憐さは全て封印されて、鬼のような形相で嫁をいびり倒している。長い間、主演作品を継続していた彼女にとって、こんな役は初めてのはず。

そもそも椿を政略結婚させたかった今日子にとって、七桜は想定外の存在。家から追い出そうと必死だ。七桜の作った和菓子を壊す、店の職人へ賄賂を渡して七桜に花瓶をぶつけようとする……と、視聴者からクレームが飛んできそうな陰湿かつ、ダイナミックないじめが連発している。観月さんの美貌も、恐怖へと確実に変貌しているけれど、これは物語にとって重要なエッセンスなのだ。 

芸歴数十年を超える俳優が見せる、想定外のG・A・P!

そして『竜の道』にも深みのある二代俳優が"恐怖"を添える。まずはあらすじを紹介しよう。

矢端竜一(玉木宏)と竜二(高橋一生)は双子の兄弟。自分たちを育ててくれた義両親を自殺に追いやった、キリシマ急便社長の復讐を企み、そのために生きていた。竜一に至っては、他人の戸籍を使い、整形も施して和田猛として生活している。

遠藤憲一

かつての日本ではヤクザ映画の人気が非常に高かった。『Vシネマ』シリーズという、極道やギャンブルを題材に扱った作品もあったほど。その時に悪役として活躍していたのが、エンケンこと遠藤憲一さんだ。今回の『竜の道』では、久しぶりに彼が悪役に徹する彼を見ることができる。

遠藤さんが演じているのは、矢端兄弟から恨まれ続けている霧島源平。キリシマ急便の豪腕社長で、広島県から全国拡大をするために中小運送会社から多くの仕事を根こそぎ奪った。そして運送会社として日本一を目指すために、悪とも手を組んでいる。おお……これこそ、昔は反社会勢力の役でドスを効かせていた、凄みのある遠藤さんではないか……。

今でこそ『エンケン』というニックネームで呼ばれて、おじカワ代表とも言われている遠藤さん。でも今回はその姿を封印して、完全に極悪非道の人間に徹しているのがいい。そのギャップに戸惑う人がいるかもしれないけれど、これが俳優としての“振り幅”で、一人の俳優さんをチェックするときに外して欲しくはない項目である。

西郷輝彦

そして以前は裏社会に片足を突っ込んでいた、竜一を見守るのがヤクザ組織の会長・曽根村始。毎度ヤクザたちを従えて、着物姿で登場するのは西郷輝彦さん。読者のみなさんの親御さん世代に圧倒的アイドルだったこともある西郷さん。タレントの逸見えみりさんの父親と言えば思い出す人も多いはず。実は芸歴は軽く50年を超える、酸いも甘いも知る芸能界の重鎮である。

そんな"歩く歴史"の西郷さんがヤクザの親分役とは、これ以上の強さがあっただろうかと見入ると、もう登場するだけで怖い。「ははーっ!」と平伏したくなる存在感がそこにある。そもそも私の記憶を辿っていくと、彼の悪役の印象は薄い。それでも令和のドラマで、極悪っぷりを瞬時に発揮してギャップを見せつけるとは……歴史、そして才能の極みを見せつけられたような気がする。

最近では触れることが難しくなった、極道モノの世界。『竜の道』ではその雰囲気が十分に味わうことができる。そしてその面白さの向こう側には、ベテランの力あり、なのだ。そんな2作品の最終回も近ついているので、この機会にぜひ。