マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、英国の市場について語っていただきます。


英ポンドは対米ドルで9月1日に、昨年12月13日以来となる1.350ドルにトライしたものの、果たせず。そこから反落して、1.300ドルを割り込みました(9月10日現在)。

  • 英ポンド/米ドル(日足、2019年12月2日-)

英ポンド安の背景は主に2点。

・英国とEUのFTA交渉が難航、「合意なき離脱」が現実味を帯びてきた
・上記に加えて景気低迷が続くなか、BOE(英中銀)の追加緩和期待が高まった

英国とEU(欧州連合)は昨年10月にブレグジット(英国のEU離脱)協定案で合意。それにより一時懸念された「合意なき離脱」は回避され、英国は今年1月末をもってEUを離脱しました。ただ、今年12月末までは移行期間として離脱前の関係が続きます。そして、ブレグジット協定では白紙だった、移行期終了後の関係についての英国とEUの交渉が難航しています。

とりわけ、FTA(自由貿易協定)がなければ、英国とEUはWTO(世界貿易機関)のルールに従うことになるため、輸出入手続きの簡素化や関税の免除といった優遇措置は受けられなくなります。そうした新たな「(通商面での)合意なき離脱」が英国とEUの経済にとって打撃となることが懸念されています。

10月中旬が交渉期限

英国とEUの交渉が難航するなか、ジョンソン首相は10月15-16日のEUサミット(首脳会議)を交渉期限に設定。それまでに合意できなければ、両サイドは「合意なき離脱」を受け入れるべきとの立場を表明しました。EUからの譲歩を引き出すための「ブラッフ(脅し)」かもしれませんが、期日が接近するにつれ、市場は「合意なき離脱」を一段と意識するでしょう。

アイルランド国境問題が再び焦点?

ジョンソン政権は9日にブレグジットに関連した国内市場法案を発表しました。そのなかで、FTAが締結出来なかった場合に英国領北アイルランドでの税関手続きを不要にする権限を閣僚に付与するとしています。

ブレグジット協定によれば、ブレグジット後も北アイルランドはEUの関税ルールに従い、北アイルランドからそれ以外の英国各地に物品を輸送する際に関税手続きを行うこととなっていました(北アイルランドと英本島を隔てるアイリッシュ海を事実上の関税ラインにするということ)。

英国の国際法違反も

ジョンソン政権の新たな法案は、いったん落着したアイルランド国境問題を蒸し返すものです。これを受けてEUは、ブレグジット協定の書き換えは国際法に違反するため法的措置を取る根拠があるとの判断を示し、FTA締結の可能性を一段と低下させると警告しています。

BOEは来春ごろにマイナス金利採用か

「合意なき離脱」が現実味を帯びてきたことで、BOE(英中銀)の追加緩和の観測も強まっています。8日、BOEのホールデン専務理事(兼チーフエコノミスト)は、コロナ対策としての雇用支援策の延長に反対を表明。依然として低迷する景気の回復期待に水を差しました。

市場では、現在0.1%の政策金利を来年春ごろにマイナス金利にするとの観測が台頭。少し前まではマイナス金利導入は来年9月以降との見方が有力でした。

英ポンドに一段の下げ余地!?

英ポンド/米ドルは7月末に1.300ドルを回復。3月の「コロナ・ショック」の下げを取り戻しました。その後の英ポンド/米ドルの上昇は、英ポンド高要因によるというより、米ドル安の裏返しだったようにみえます。

したがって、今後の英ポンド/米ドルの先行きも米ドルの材料次第の面が強そうです。ただし、「合意なき離脱」が一段と現実味を帯び、BOEの追加緩和期待が根強い状況が続くなら、英ポンドには一段の下げ余地がありそうです。