野村総合研究所は9月8日、「アフターコロナの働き方改革・女性活躍推進へのヒント」というテーマの下、メディアフォーラムを開催した。同フォーラムでは、同社が行ったアンケート調査の結果を基に、野村総合研究所 未来創発センター 上級コンサルタントの武田佳奈氏が説明を行った。
在宅勤務において生産性上昇を阻害する要因
まず、武田氏は、企業が今後、新型コロナウイルスの影響で急増した在宅勤務をどうとらえるべきかについて説明した。従業員規模500人以上の企業で働く3289人を対象に実施した調査「新型コロナウイルス感染症拡大と働き方・暮らし方に関する調査」によると、緊急事態宣言期間中に在宅勤務を行っていた人は67.3%だったのに対し、7月末時点で在宅勤務を実施している人は46.7%であることがわかった。
この結果について、武田氏は「数として減ってはいるが、在宅勤務をまだ活用している人は一定数いることになる。さらに、新型コロナウイルス感染拡大に伴う変化として、在宅勤務が性別や年齢に関係なく利用されたことがある。これまでも在宅勤務制度はあったが、育児や介護などの特別な事情がある人が利用しているケースが多かった」と述べた。
在宅勤務を活用した働き方における生産性については、全体は「在宅勤務で生産性が下がった」と感じている人が4割から5割と多いが、7月末時点で「在宅勤務で生産性が上がった」と感じている人が5月末時点から1割増えていることがわかった。
では、なぜ在宅勤務で生産性が下がったと感じるのだろうか。武田氏は以下のように、スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が挙げている、コロナ下での在宅勤務が生産性上昇を妨げる4つの要因を紹介した。
- 子どもの世話をしながらの就労
- 適切な執務環境の確保が困
- プライバシーの確保が困難
- 働き方に選択の余地がない
緊急事態宣言期間中は、保育園が休園になり、小学校が休校になったことで、自宅で子どもの世話を余儀なくされた人も多かっただろう。NRIの調査でも、小学生以下の子と同居している在宅勤務者1009人に聞いたところ、「子どもの世話をした」人は65.3%に上った。そのほか、在宅勤務で最も仕事をした場所が家族共用のスペースだった人が48.5%、会社都合で在宅勤務をした人が95.8%に上り、武田氏は「日本でもブルーム教授が指摘している要因が在宅勤務による生産性低下を引き起こしていた可能性が高い」と述べた。
「家族との関係」「生活度満足度」の向上が生産性に好影響をもたらす
次に、武田氏は、新型コロナウイルス感染拡大を機に在宅勤務を活用した人の意識の実態と変化について説明した。
仕事面においては、「主体性の感覚が高まった」ことを実感した人が45.5%と半数近くに上り、33.6%は「今の会社で働き続けたいという意欲の高まり」を実感したことがわかった。仕事面における意識を性別や年代別で見ると、「仕事における主体性の感覚の高まり」や「今の会社で働き続けたいという意欲の高まり」を感じた人は男性よりも女性に、40・50歳代よりも20・30歳代に多いこともわかっている。
暮らしの面では、在宅勤務によって「家事や育児にかけられる時間が増加した」と感じた人が6割を超え、暮らしの満足度向上を実感した人も約5割となった。男性層(50代除く)も、在宅勤務に追って家事や育児にかけられる時間が増えたという回答が半数を超えているという。
さらに、武田氏は、「家族との関係が良好になることが、仕事の生産性に良い影響をもたらす」「生活満足度が高くなることが、仕事の生産性に良い影響をもたらす」と考える働き手が6割を超えることを紹介した。
こうした結果を踏まえ、武田氏は「企業はコロナ禍で人材が不足する中で、業績を回復しなければないが、競争力を維持する上で、在宅勤務が生産性向上につながる可能性に着目することが重要となる。具体的には、働き手の想いを知り、それぞれが自身の力を最も発揮できる場を再構築できるかどうかが試金石となる」と語った。
現在、日本の企業では在宅勤務制度の本格導入が走り出したばかりであり、デメリットも生じているだろう。しかし、今後働き手として増えることが期待されている女性、今後職場の中心となることが見込まれている若手がメリットを感じている在宅勤務は優秀な人材を確保するための手段としても有効ではないだろうか。