SECIモデルとは?
SECI(セキ)モデルとは、日本の経営学者である野中郁次郎(のなかいくじろう)氏が提唱した、組織における知識創造のためのプロセスのこと。個人が持つ知識や経験・ノウハウを組織全体で共有することにより、組織の生産性を向上させることを目指します。
SECIモデルのキーワード
SECIモデルでは、組織に蓄積されている知識を「暗黙知」と「形式知」の2種類に分類しています。野中氏は、組織の成長のためには、暗黙知を形式知に変換することが重要だと唱えます。それでは、暗黙知と形式知とはいったいどのようなものなのでしょうか?
暗黙知
まず暗黙知とは、個人的な知識で、他人に伝えるのが難しい知識を指します。個人の経験から成る主観的な知識で、言語化しにくい性質のものです。
暗黙知には身体的な知識と、認知的な知識があります。
例えば、自転車の乗り方は体で覚えます。自転車に乗ることができても、その方法を説明することは難しいでしょう。このような身体的知識は、一流のスポーツ選手の技術や、職人の技などに蓄積されています。一方の認知的な暗黙知は、思考のフレームや世界観、信念などを指します。
形式知
次に形式知とは、言語化された知識や客観的な知識のことです。言葉や図、数値などで表現可能な上、他人に説明できる内容を指します。
個人の知識をマニュアル化して他人にわかるようにすれば、それは形式知になり、マニュアルを見た人は誰でも知識を共有できることになるでしょう。
SECIモデルの4つのステップ
SECIモデルでは、知識の変換プロセスを「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の4ステップに分け、それらをぐるぐると回すことで戦略的な知識の創造を実現します。
4つのステップについて、具体的にみていきましょう。
ステップ1 : 共同化(Socialization)
共同化(Socialization)は、暗黙知から、さらなる暗黙知が生まれるステップです。
例えば、職人の世界では弟子が師匠を見て技術を盗みます。
このように、個人的な経験の共有により、知識が暗黙知のまま他者に共有されていくステップを示します。
ステップ2 : 表出化(Externalization)
表出化(Externalization)は、暗黙知を形式知に変換するステップです。
ステップ1の共同化で得たノウハウを言葉や図で表現したり、マニュアル化したりすることにより実現します。
例えば、先述の弟子が、師匠から盗んだ技術をマニュアルに落とし込むことで、第三者も同様の作業を行えるようにする場合はこのステップにあたります。
このステップはSECIモデルのプロセスの中で特に重要です。暗黙知を形式知にすることで、従来属人的していた知識を組織で利用することが可能になるため、組織の成長につなげることができます。
ステップ3 : 連結化(Combination)
連結化(Combination)は、ステップ2により変換された形式知と他の形式知を組み合わせることにより、新たな形式知を作り出すステップです。
バラバラだった知識が組み合わさることで、より体系的なものへと変換され、ステップ2よりも多くの価値創出へと寄与します。
ステップ4 : Internalization・内面化
内面化(Internalization)は、形式知を再び暗黙知に変換するステップ、もしくは、形式知の利用により新たな暗黙知が誕生するステップです。
形式知を現場で活用し実践していく間に、新たなノウハウが生まれ、暗黙知が創造されます。
上記の4ステップを繰り返しながら、知識が高度化させていく、というのはSECIモデルの考え方です。
SECIモデルの4つの場
SECIモデルでは、知識変換のプロセスを行う「場」の創造が重要といわれています。「場」はリアルな場所だけでなく、バーチャルなものも含めた概念です。
先述したSECIモデルの4つのステップに対応して、これを実践する4つの場が定義されています。
モデルの場1 : 創発場
共同化ステップに対応する場が創発場といい、経験や思いなどの暗黙知を共有する場で、人から人へのノウハウの伝達を行います。
先輩の仕事を見ながら自然にノウハウを得たり、職場の雑談の中で他者の経験を伝えたりする場を通して、個人の暗黙知が他人に共有されていきます。
モデルの場2 : 対話場
対話場は、暗黙知を形式知に変換する表出化に対応します。対話を通じて、暗黙知を他者が理解できるように言語化したりマニュアル化したりする場です。
ノウハウを聞き取りや説明を行う場で、ミーティングやプレゼンテーションの場がこれに相当します。
モデルの場3 : システム場
システム場では連結化を行います。連結化は複数の形式知から新たな形式知を創造するステップですから、複数の形式知を持ち寄り共有する場がシステム場です。
メンバーが形式知を持ち寄る場としてはリアルの場もありますが、バーチャルな場も向いていると言われ、組織内のSNSやチャットツールなども利用できるでしょう。
モデルの場4 : 実践場
内面化のステップに対応するのが実践場です。
内面化では、獲得した形式知を仕事の現場で実践し、新たな暗黙知を創造します。これ行う実践場は、普段の仕事の場を指します。
SECIモデルを活用した企業
SECIモデルを活用したナレッジ・マネジメントは、国内で多くの企業において、活用されています。この方法を通じて、業務の効率化、営業力や技術力の強化を実現します。知識共有による、新たなアイデアの創出は、さらなる企業成長へと寄与することでしょう。
エーザイの事例
SECIモデルの活用企業としては、医薬品メーカーのエーザイが有名です。
同社では、患者に寄り添うことを重要と考え、全社員が業務時間の1% を患者と共に過ごすことを推奨しており、社員が患者との交流から得た暗黙知を、SECIモデルで変換し組織の知識創造につなげているのです。
具体的には、患者や家族と過ごして気づいた漠然とした課題を、組織内で議論し共有し、議論の結果を言語化し、形式知に表出化。その後、他の部署と共同で対応策を検討し、それを現場で実践する(内面化)――というプロセスを踏んでいます。
SECIモデルを活用しよう
SECIモデルは、組織の知識変換のプロセス。組織内の個人がもつ経験やノウハウなどの暗黙知を、言語化された形式知に変換することで、組織の知識として蓄積していくことを目指します。
まずは、SECIモデルを構成する4つのプロセスのための「場」を意識的に作ることが重要と言えます。所属する組織をより強いものにするために、是非、この考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか?