新型コロナウイルス(COVID-19)の急速な感染拡大や症状の重さなどにより2020年4月7日、政府から「緊急事態宣言」が発出された。アニメ・ゲーム・声優業界ではこれを受け、アフレコやラジオ番組の収録ストップ、演劇やライブといった人が集まるイベントの開催延期・中止を多数のコンテンツが判断した。
同年4月から6月にかけて各メディアミックスプロジェクトにて大規模イベントの開催を予定していたブシロードは、軒並み延期・中止、もしくは規模を縮小しての実施を決断。一方で、「BanG Dream!」プロジェクトは過去のライブ映像の配信、「ARGONAVIS from BanG Dream!」プロジェクト・「D4DJ」プロジェクトでは、音源をライブ仕立てで配信する「Sound Only Live」を開催するなど、オンライン上でさまざまな展開を行ってきた。
今回は、「BanG Dream!」にて楽曲制作の取りまとめを担当する吉村秀至氏、同プロジェクトにて番組制作・プロモーションを担当する中野勇人氏、「ARGONAVIS from BanG Dream!」(以下、「アルゴナビス」)の音楽プロデューサー・北岡那之氏、「D4DJ」プロジェクトの楽曲制作の取りまとめを担当する渡邊亮太氏にインタビュー。各メディアミックスプロジェクトが行ったオンラインイベントの成果、今後の展望などについてお話を聞いた(取材は一定の距離を設け、密閉、密集、密接の3密に配慮した上で行ったものです)。
■吉村秀至(よしむらしゅうじ)。ブシロードミュージック所属。「BanG Dream!」音楽統括。「BanG Dream! 4th☆LIVE Miracle PARTY 2017! at 日本武道館」よりプロジェクトの音楽まわりを担当。それまでは同社のカードゲームプロジェクトに携わっていた。
■中野勇人(なかのはやと)。ブシロード所属。「BanG Dream! 5th☆LIVE」よりプロジェクトに携わり、ライブグッズの販売運営などに関わる。2020年1月よりYouTubeで展開する「BanG Dream!」の番組制作やプロモーションを担当するようになる。
■北岡那之(きたおかなの)。ブシロードミュージック所属。「ARGONAVIS from BanG Dream!」音楽プロデューサー。プロジェクトの立ち上げより関わる。
■渡邊亮太(わたなべりょうた)。ブシロードミュージック所属。「D4DJ」プロジェクトの楽曲制作を取りまとめている。ブシロード本社での営業、「カードファイト!! ヴァンガード」「フューチャーカード バディファイト」などの楽曲制作、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」の舞台主題歌などの楽曲制作を経て、現職。
各プロジェクトの特徴と共通点
――まずは各プロジェクトの紹介からお願いします。
吉村:私が関わっている「BanG Dream!」は、キャラクターとリアルライブがリンクするガールズバンドプロジェクトです。このコンセプトを軸にしながら、まずはアニメやゲーム、コミックなどを通じて各キャラクターの世界を2次元で描く。そして、そこから生まれた楽曲たちをキャストの皆さんが演奏することで、3次元にも展開しています。
北岡:「アルゴナビス」は「BanG Dream!」から生まれたボーイズバンドプロジェクトです。アプリはまだ配信されていませんが、展開としては「BanG Dream!」と同じく、アニメ、ゲーム、コミック、そしてキャストによるリアルライブを行っていくメディアミックスプロジェクトです。
渡邊:「D4DJ」は、DJライブ・ゲーム・アニメで展開するメディアミックスプロジェクトです。その名の通り、DJを題材としたプロジェクトで、ライブではノンストップで音楽を流すスタイルを取っています。幅広い層にお届けするため、カバー楽曲は古めのものから最新のものまで採用しているのも特徴ですね。
――各プロジェクト「音楽」や「ライブ」が共通点かと思います。それぞれのライブの特徴について教えてください。
吉村:「BanG Dream!」については、全体のコンセプトを考えてから、その中でキャラクターならどのようなライブを行うのか、そして、キャストさんはそれに対してどのようにアウトプットするのか、という三段構えで、ライブを作っていきます。そのため、実際に演奏したり、歌ったりするキャストさんとは普段からよく話し合っていますね。キャストさんの熱量がすごいのも特徴だと思います。
北岡:「アルゴナビス」も基本的には「BanG Dream!」と一緒ですね。ライブの開催日はアニメやゲームなどと連動させて補完し合う、意味のある構成にできればという思いで進めています。例えば、開催延期にはなってしまいましたが、4月28・29日に予定していた3rdライブは、アニメ第3話の放送が終了した時点で行うものでした。そのライブは、「(メインバンドの)アルゴナビスは、この段階で見せたいのはこういうライブだよね」ということを前提にしながら、セットリストや演出も組み立てていたんです。
渡邊:「D4DJ」には6つのユニットが登場し、それぞれのユニットに音楽プロデューサーがついているのが特徴です。そのため、音楽プロデューサーたちと話し合い、いかに各ユニットの良さや色を出すのかという点は、ライブを作るうえでも意識していますね。
"Sound Only Live"の成功
――各プロジェクトの柱のひとつでもある「リアルで展開するライブ」ですが、新型コロナウイルス(COVID-19)の急速な感染拡大により、思うように開催ができなくなりました。先ほど北岡さんからお話があったように、皆さんが担当されるプロジェクトも影響を受けています。
中野:「BanG Dream!」は舞浜アンフィシアターで4月に開催予定だった『Morfonica Debut Event「Prelude」』、メットライフドームにて5月に行う予定だった「BanG Dream! Special☆LIVE Girls Band Party! 2020」などのイベントが休止・延期になりました。
渡邊:「D4DJ」も舞浜アンフィシアターにて4月に開催予定だった4th LIVEをはじめ、さまざまなライブが延期となっています。
――ライブ・イベントが延期・中止となる中でも、ブシロードさんはいち早くオンラインでの音楽展開に着手されています。例えば「アルゴナビス」は開催延期となった3rd LIVEで予定していたセットリスト、演出を基にキャラクターが織りなす"音"のみのイベント"Sound Only Live"を4月に配信されました。
北岡:"Sound Only Live"は、私が企画させていただきました。世界情勢を鑑みて、3rd LIVEはお客さんを入れて開催するのが難しいだろうとなったとき、まずは無観客ライブでの実施を検討したんです。しかしながら、感染の拡大は止まらず、キャストさんやスタッフを稼働してのライブを行うこと自体ができなくなってしまいました。それでも、何かしらの形で届けることはできないかと思い、色々と考えたんです。最初は2ndLIVEの映像をキャストと一緒に楽しむ上映会の実施という案も出ました。ただ、アニメの展開と併せて行う予定だったので、4月のタイミングでどうしても「ライブ」を成立させたかったんですよね。それから、キャストさんが生で演奏せずともオンライン上で展開できる形は何かを考え、既に収録を終えた音源を編集してお届けする「音だけのライブ」という発想に至りました。
――実際に行ってみていかがでしたか?
北岡:初めての試みだったので、どうすれば満足していただけるのか必死で考えました。CD用にミックスされたものをライブ風にアレンジしたり、ボーカルのリバーブを強めにかけて会場にいるような音に仕上げたりするなど、これまであまりやったことのない作業ばかりだったので、調整するのが難しかったですね。
あとは、お客さんの「歓声」。ライブって、曲中や曲終わりには「歓声」が入るじゃないですか。「音だけのライブ」でもそれは絶対に必要だと思ったんです。ただ、「歓声」と一言で言っても種類はさまざま。例えば、盛り上がる曲なら「わー!」という声が多いでしょうし、バラードだと拍手が多めになると思います。そういったことも考慮しながら、過去の「アルゴナビス」ライブの音源から切り出していきました。難しいことばかりでしたが、基本的には楽しく制作していましたね。
――オンラインではありながらも、リアルのライブを体感してもらえるような工夫をした。
北岡:そうですね。あとは聞いてくださる方の「妄想の余地」を作ったというのは、「音だけのライブ」ならではだったかもしれません。例えば、ギターのソロで歓声が沸くなら、キャラクターがお立ち台に乗っているかもしれないなど、目を閉じたら光景が思い浮かぶような演出にこだわりました。
――反響はどうでしたか?
北岡:2日に渡り実施したのですが、1日目の同時接続者数が約7,000人だったのに対して、2日目は約9,000人になりました。6月に実施したSound Only Live Distiny Rock festivalでは12,000人の方が同時に視聴してくださいました。また、開催後に実施したアンケートでは、ライブ風の演出を評価してくださる声が非常に多かったんです。最初はリアルでのライブの代わりと考えていましたが、「これはひとつのライブの在り方として成立する」と感じるほど、手ごたえのある企画となりました。