洋食の定番、ケチャップライスを薄焼き卵でくるんだ国民食オムライス。子供から大人まで不動の人気メニューだが、自宅で作る場合、お店のように均一な色で美しい紡錘型に仕上がらないのが悩みのタネ。手作りの機会が増えているいまこそ、正しいオムライスづくりをマスターしたい。そこでお茶の間でもお馴染み、日本橋たいめいけん三代目茂出木浩司シェフに、失敗しない定番オムライスの作り方を聞いてみた。
たいめいけんの看板メニュー「オムライス」
私がまだ小さい頃、たいめいけんの看板メニューはエビフライやラーメンでしたが、今は何といってもオムライス。感覚的にはお客様の半分くらいがオムライス、オムレツをオーダーされますね。ご家庭でも手軽に作ることができるお料理ですが、それだけに本物を味わっていただけるよう、丁寧に、心を込めて作っています。オムライスでたいめいけんのファンになっていただければ、今度はハンバーグ、次はビーフシチューと洋食の楽しみ方も広がると思います。
卵料理だけに素材の卵選びには気を使っていますが、どれも栄養価はほとんど変わりません。むしろ新鮮さや安全であることが大切なので、今は千葉県など近郊から中心に仕入れています。以前、白いオムライスが流行ったことがありましたが、あれは見た目にあまり食欲をそそりません。白いキリンや白いトラは希少価値があって人気がありますけど(笑)。
オムライスはハム入りケチャップライスが基本
材料(2人分)
●ご飯茶碗………………………2杯弱分
●たまねぎ(みじん切り)……1/4個
●ハム(粗みじん切り)………2枚
●トマトケチャップ……………大さじ2
●卵………………………………6個
●バター…………………………大さじ
塩、こしょう
トマトケチャップ
パセリ
各適宜
ではケチャップライスから作っていきます。オムライスはご飯料理じゃなくて、卵を味わってもらうお料理。ですから中に入れる素材は、シンプルにごはんとハム、タマネギ。タンポポオムライスの場合はチキンライスですが、基本のオムライスは祖父の代からハムを使ったケチャップライスです。
タマネギはバター大さじ1.5を溶かしたフライパンで、飴色になるまで弱火でじっくり炒めて、甘みを引き出します。次にハムとバター大さじ1.5をさらに加え、中火で焦げないようにバターを絡めます。
【ケチャップライスづくりのポイント】
最初からライスは入れず、先にケチャップを投入します。ケチャップは煮詰めていくことで、酸味が消えて甘みが出ます。この中にご飯を入れると、ご飯も柔らかくなってちょうどいい具合になります。
ご飯は少しかために炊いたものを使ってもいいですし、冷凍ご飯をレンチンしたものでも大丈夫です。弱火でケチャップがプチプチと煮立ってきたら、ご飯を入れます。
もう一つ大事なのは、しっかり塩・こしょうをすること。ケチャップの味が付いているからといって、塩・こしょうを忘れると味がぼけます。こしょうは必ずホワイトペッパーで。洋食系は基本、ホワイトペッパーでしっかり味付けます。
味付けをしたら強火にしてフライパンをゆすりながら、具材をほぐすような形で素早く炒めていきます。この時、ご飯を少し宙に浮かせて水分を飛ばしていきますが、無理にフライパンを上げるとごはんが飛び出してしまったりするので、脇を締めてスナップを利かせながら、手前に引く感じでフライパンを動かします。慣れてきたらこれを素早く繰り返します。具材が混ざって照り感が出てきたら、ケチャップライスは完成です。
卵は3個以上。隠し技に炭酸を加えるのもアリです
次に卵を炒めていきます。フライパンはアルミの直径22cmのものがいいと思います。私が考案したオムライス専用フライパンもあるので、ぜひお試しください(笑)。卵は基本3個。ボウルに割り入れてほんの少し塩をふります。料理研究家の方には「塩を入れると固まりやすくなるので入れないほうがいい」という方もいますが、卵の旨味を引き出すためには塩が大事です。
卵は白身と黄身の固まる温度が違うので、ホイッパーで10回ほどしっかりと混ぜ、空気を含ませるようにします。さらにザルで濾してカラザなど余分なものを取り除きます。裏ワザとしてこの時、卵に炭酸を大さじ1加えるとふんわりと仕上がります。
バターは大さじ1、フライパンを少し浮かせて回しながら強火で溶かします。バターからフツフツ気泡が出てきたら卵を入れます。
ここからはフライパンは持ち上げずに、五徳の上でフライパンを外側から内側に転がすイメージで動かしながら菜箸で勢いよくかき混ぜます。
30秒ほどして卵の下の方が固まって、上のほうがトロトロになってきたら火を止め、ガス台からフライパンを下ろして、真ん中にご飯を一人分載せます。
【卵を返すときのポイント】
次に再び卵をガス台に戻し、火を付けます。フライパンを45度に傾けて、卵を菜箸やゴムベラで手前の卵でライスを包み込むように折りたたみながら、向こう側に送ります。ここが最も重要なポイントですが、左手でフライパンの端を持って45度に傾けた状態のまま、右手で柄の根元から3分の1のあたりをトントンと叩きながら、同時に左手で卵を手前に戻すイメージで卵を返していきます。
卵が一周して合わせ目が上に来たら、フライパンを右手に持ち替え、逆手にして、左手にお皿を持って、そこに卵を返すように載せます。卵を返す技は何度も練習しないと難しいので、自信がない場合はお皿にフライパンのヘリを持ってきて、ゴムベラなどでゆっくりと返すといいでしょう。
トントンとたたきながら卵を返す技は、塩などをビニール袋に入れたものを、きれいなフライパンで返す練習をすればコツがつかめると思います。数カ月できっと上手に返せるようになると思います。最後に真ん中にケチャップをかけて、付け合わせのパセリなどを添えてできあがり。同じ要領でもう一人分をつくります。
「完璧なオムライス」をつねに目指して
お店の場合、オムライスをつくるのは10年以上のベテランだけです。オムライスだけなら数年でマスターできると思いますが、たいめいけんは卵料理はもちろん、ピラフ、グラタン、ステーキと何でもこなせないといけない。なので必然的にベテランでないといけなくなります。僕もシェフ歴30年ですが、それでもフライパンの調子やその日の体調などで、ちょっと卵にしわが寄っちゃったりということがあります。卵の固さや照り具合など自分でも完璧! と納得できるものは1日に数個でしょうか。料理の道に終わりはありません。