アートは、自分の内面を外に表現する活動です。アートを使った心理療法、アートセラピーでは、絵画や陶芸などを行いながら、セラピストの支援のもとで、自分の考えや感情に気づき解放していきます。この記事では、アートセラピーの効果や、セラピストの仕事について解説します。
アートセラピーとは
アートセラピー(絵画療法・芸術療法)とは、アートを使った心理療法です。アートには、絵画や陶芸、音楽、ダンス、演劇などあらゆる芸術活動が含まれます。
アートセラピーでは、言葉を使わないコミュニケーションを用います。言葉にならない心の世界を、目に見える具体的な形として表すのがアートです。
アートセラピーの目的
アートセラピーの目的は、クライアントが表現したアートから、自分についての気づきを得ることです。アートでは非言語の表現を用いるので、言葉にはできないモヤモヤやあいまいな感情のイメージも表現しやくなります。
そしてアートセラピーでは、クライアントが絵を描くなどの表現活動をしながら自分自身と対話をし、自分の奥にある感情に気づいていくのです。
アートセラピストの役割
アートセラピーでは、クライアントがアート表現を通して、自分の状態や感情に気づいていきます。このプロセスにおいてアートセラピストが果たす役割は、クライアントに寄り添い、気づきのための環境を整え支援することです。
クライアントは、セラピストとの交流を通じて気づきを得ていくので、アートセラピストは、カウンセラーのような役割も果たしています。
国内のアートセラピーの現状
日本では、アートセラピストの公的な資格はありません。養成講座を修了するともらえる民間の認定資格だけで、そのレベルはさまざまです。
また、アートセラピーの日本での認知度は低いため、就職して職業にするのは難しいと言えます。そのため、ほかの仕事を持ちながらアートセラピーを行ったり、アロマセラピーなどほかのセラピーと組み合わせたり、絵画教室に取り入れているケースもあるようです。
海外との違い
アートセラピーは欧米で発展してきた療法です。ドイツでは、アートセラピストは国家資格として認められていて、国立大学で資格を取得できます。アメリカでは、国家資格ではないものの、医療現場で医師やソーシャルワーカーとチームで実施しているなど認知度は高いです。
そして、アートセラピーを本格的に学びたい人の中には、ドイツやアメリカに留学する人もいて、そのまま外国で働くケースも多くあります。
アートセラピーを行う主な職業3選
養成講座を修了したアートセラピストの活躍の場としては、セラピー的な絵画教室の先生や、福祉や医療の現場での仕事などがあります。
日本の医療現場でアートセラピー専門のスタッフがいることは少ないため、作業療法士、精神科医、カウンセラーといった職業の中で、アートセラピーを実施しているケースが多いです。
職業1:作業療法士
作業療法士は、日常的な「作業」のリハビリテーションを支援する職業です。日本ではアートセラピストに最も近い国家資格であると言われています。
日常的な作業には、食事や着替え、料理、スポーツ、仕事や趣味の活動などが含まれ、手や指の活動のリハビリテーションなどを行い、ほかにも身体面だけでなく、精神面からのアプローチもしています。
職業2:精神科医
精神科医は医学部を卒業し、医師の国家資格を持っています。医師として病気の診断をし、薬の処方を行います。精神科の治療では、薬物療法のほかに、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法を取り入れることがあります。
職業3:カウンセラー
カウンセラーは、臨床心理学の知識にもとづき、人の心の問題にアプローチする専門家です。カウンセリングのほかに、心理テストなどを用いた心理査定を行います。
心理療法にはさまざまな方法があり、クライアントの状況に応じて選択されますが、その方法の一つにアートセラピーが含まれています。
アートセラピーで期待できる4つの効果
アートセラピーは、自分への気づきを得るプロセスです。アート活動を通じて、自分が何を考えているのかを知り、どのような感情をもっているのかに気づき、リラックスしながらアートを続けることで、精神も安定します。
効果1:自尊心を高められる
脳の機能には、左脳と右脳があります。左脳は言語や計算などの論理的な思考を司り、右脳は直感や感情、想像力を司り、芸術的な分野に関連しています。
自尊心とは、自分自身を肯定し尊重する気持ちです。アートセラピーは右脳を活性化し、心をリラックスさせます。心に余裕がうまれると自尊心を回復し、高めていけると考えられています。
効果2:自己回復が期待できる
アートセラピーでは、粘土、クレヨンや紙など、さまざまな素材に触れます。指先の触感を通して受ける心地よい刺激は、無意識に働きかけ心に影響を与えます。
セラピーにより、子どものような無邪気な気持ちを思い出し、好奇心や意欲が高まって自己回復につながっていくと考えられています。
効果3:思考を整理できる
現代社会の複雑な仕事や人間関係、変化の速い日々は、私たちにストレスを与えている可能性があります。自分が何をしたいのか、考える余裕がなくわからなくなってしまうこともあるでしょう。
アートセラピーでは、絵や記号を用いて自分を表現することにより、自分の置かれている世界や考えを可視化できます。これにより、混乱した思考の整理が期待できます。
効果4:感情を開放できる
私たちの心の奥深くには、自分でも気づかないうちに抑圧された感情がたまっているといえます。絵画などのアートでは、言葉にならない思いや感情の表現が可能です。
アートセラピーで、心の奥に抑圧されていた感情を表現し、思いを外に発散できます。この感情の開放により意識が目覚め、気持ちが楽になるでしょう。
アートセラピーにおける2種類の表現方法
アートセラピーは、さまざまな芸術表現を用いて行います。絵を描く、工作をする、粘土をこねる、体を動かす、音楽を聴く、演奏するなどいろいろな種類があります。
ここでは、代表的な2種類のセッションをご紹介します。
種類1:カラーアートセラピー
カラーアートセラピーは、色彩やアートを使った表現による心理療法です。人形や建物のフィギュアを箱の中に並べる「箱庭」、さまざまな色の紙帯でハートのアートフレームを作る「カラフレ」、カラーボトルを選ぶ「オーラソーマ」などがあります。
オーラソーマは、100本以上のカラーボトルの中から4本を直感で選びます。選んだボトルによってその人の性質や課題、現在の状態や未来への方向性を診断します。
種類2:五感を刺激するアートセラピー
指でペイントするアートセラピーセッションでは、専用の絵の具を使い、ペタペタと指で絵を描いていきます。指先を使うことで五感が刺激され、自由な想像力が養われると考えられています。
ほかにも、踊ったり、歌ったりすることも五感を刺激するアートセラピーに含まれる療法です。これらにより五感を刺激することで、心を解放し安定させるリラックス効果もあります。
アートセラピーを学んでみよう
アートを楽しみながら自分と向き合うアートセラピーには、自分への理解を深め、ストレスを軽減する効果があります。アートの好きな方も、アートには無縁という方も、子どものような純粋な気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか。
また、アートを通じてクライアントを支援することに興味がある方や、人の心理に興味がある方は、ぜひアートセラピーを学んでみてください。