9月3日にドイツ・ベルリンで開幕したエレクトロニクスショー「IFA2020」は、新型コロナウィルス感染症の影響が世界に拡大したことを受けて、今年はメッセ・ベルリン展示会場でのリアルイベントと、オンラインのバーチャルイベントを同時にハイブリッド構成で開催される運びとなりました。期間は3日間です。
初日には、米クアルコムのクリスチアーノ・アモン社長がオンライン形式のオープニングキーノートに登壇。エントリークラスのモバイル端末向けSoCであるSnapdragon 4シリーズを5G対応とする戦略など「3つの大きな発表」がありました。
Snapdragonシリーズの5G対応が拡大、2021年初頭には低価格な5Gスマホが登場か
クリスチアーノ・アモン氏は2019年にもIFAのキーノートスピーチに登壇して、モバイル向けSnapdragonの7シリーズと6シリーズを5G対応にすることなどを発表しています。
今年のステージでアモン氏は「5Gの商用サービスが昨年(2019年)に世界各国で立ち上がってから、現在まで80の商用5Gネットワークが世界40カ国に展開され、多くのユーザーに5G体験が広がっている。5G端末の普及も2023年までに1億台に到達することが見込める。これは4Gのころと比べて2年も速いスピード感」と述べて、世界で5Gが好スタートを切ったことと、多くの製品がクアルコムの5Gプラットフォームを採用していることをアピールしました。
Snapdragon 4シリーズは400番台の型番を冠する、エントリークラスのスマホやモバイル端末向けにデザインされたクアルコムのSoCです。これまでにクアルコムが発表してきた5G Snapdragonモバイルプラットフォームには、フラグシップである「Snapdragon 8シリーズ」の865 Plus・865G・865、ミドルレンジ向け「Snapdragon 7シリーズ」の768G・765・765Gと「Snapdragon 6シリーズ」の690があります。
5G対応Snapdragon 4シリーズのプラットフォームを搭載するデバイスは、2021年の第1四半期(1月~3月)にメーカーが製品化、発売する見込みであることも伝えられています。
オンラインキーノートのステージには、OPPOのファウンダー兼CEOであるTony Chen氏がビデオメッセージを寄せ、「4シリーズを含む5G対応のSnapdragonを搭載するスマホを今後も積極的に商品化して、クアルコムとのパートナーシップをより強固なものにしていきたい」と意気込みを語りました。
シャオミのファウンダー、チェアマン兼CEOであるLei Jun氏も、ビデオメッセージの中でSnapdragon 4シリーズの5G展開に協調する考えを述べています。早ければ両社をはじめとするクアルコムのプレミアムパートナーから、2021年の初頭にとても廉価な5Gスマホが発表されそうです。
常時接続PC向け5Gプラットフォームも第2世代に進化
5Gを含む高速通信対応モデムICチップと連携して、クアルコムが掲げる常時接続PC向けの「Always-On, Always-Connected」のコンセプトを実現するモバイルPC向けの新プラットフォーム、「Snapdragon 8cx Gen 2 5G Compute Platform」も発表されました。
クアルコムが2018年に発表した常時接続モバイルPC向けのプラットフォームである「Snapdragon 8cx 5G」をブラッシュアップした「Gen2」は、5Gのミリ波とSub-6に両対応するほか、Wi-Fi 6の無線通信をサポート。システムパフォーマンスを18%向上させて、オーディオ、AI、カメラなどにも高性能が発揮できるといいます。競合他社のPC向けプラットフォームに比べると、システムパフォーマンスは50%以上も優れており、バッテリーライフの面でも優位性があるとアモン氏が特徴に触れています。
2020年内には新しいGen 2プラットフォームを搭載する2in1スタイルのノートPCがAcerから発売を予定しているそうです。またアモン氏は、新プラットフォームをベースにした次世代のビジネス向けPCを米ヒューレット・パッカードと開発中であることも述べていました。2台の4Kディスプレイへの同時映像出力や、内蔵マイクにノイズキャンセリング機能を載せてクリアに音声をピックアップできる機能などが実現できる新プラットフォームから、最強の常時接続対応テレワークPCが誕生するのでしょうか。
ノイキャン自動最適化機能を最新のBluetoothオーディオ向けSoCに追加
クアルコムのBluetoothオーディオ向けSoC「QCCシリーズ」については、2020年3月に最新のチップと関連する技術の詳細が公開されたばかりです。
IFA2020のキーノートステージでは、クアルコムのSoCを搭載する完全ワイヤレスイヤホンにとって、よりスマートなアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載できる新技術として「Adaptive Active Noise Cancellation」(以下、Adaptive ANC)が発表されました。
現在、ビデオ会議の音声モニタリングにも最適なツールとして、アクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホンの注目が高まっています。クアルコムのAdaptive ANCは、ユーザーがイヤホンを使う環境の周囲の騒音、あるいは装着状態をチップが自動で検知・解析をしながら、消音効果を最適化するという機能です。
静かな環境では消音効果の強度を下げ、反対にうるさい場所で自動的に強度をアップするといった機能を、イヤホンメーカーはクアルコムのSoCを選択することによって簡単に実装可能になります。3月に発表された上位のオーディオ向けSoCである「QCC514xシリーズ」から、新機能への対応がスタートすることになりそうです。
なお、音楽エンターテインメントの分野では、クアルコムが米ライブネーション社とパートナーシップを締結して、5Gネットワークを活用した音楽ステージのライブ配信サービスのプラットフォームを開発することも発表されています。
キーノートスピーチの中で、アモン氏は今後も5Gのアドバンテージが最大限に生かせるミリ波のネットワークによる体験をより広く普及させるため、革新的な技術の開発に注力し続ける考えを強調していました。5Gの商用サービスについては、コンシューマー向けのスマホなどモバイル端末以外にも、産業分野向けのローカル5G、オートモーティブ向けのCellular V2Xにも豊かな可能性と手応えを感じているそうです。