産学連携事例:ベクトルグループ×九大 ESG投資分野におけるサービス共同開発

ここからは、Spreadyを通じて生まれた産学連携や事業提携などの事例を取り上げる。

個人・法人の連携・提携に関しては、大きく分けると「事業パートナーを探す」「専門家や先人に知見を聞く」「新サービスのユーザーヒアリング」の3パターンがあると柳川さんは語る。

「事業パートナーを探す」事例は、PR事業・メディア事業などを中心に行うベクトルグループと九州大学の産学連携を取り上げたい。

ベクトルグループは社内で新規事業を複数展開している。SDGs(持続可能な開発目標)に関する新規事業を進める過程で、同分野の知見を持つ外部の人とつながりたいというニーズが生まれたという。そこで、Spreadyに「SDGs関連事業に従事する方とつながりたい」といった形で案件を掲載。

それを見たスプレッダーが、自身が大学時代にお世話になった教授をベクトルグループに紹介。教授は、ESG(Environment、Social、Governance)投資分野で、先進的な研究と活動を展開する九州大学教授、馬奈木俊介氏。

両者はSpreadyでつながった後、オンラインでのやりとりを経て意気投合。2回ほどの打ち合わせを経て提携が決まったそうだ。

ベクトルグループは、馬奈木氏と連携して、ESG投資分野におけるサービスを九大と共同で開発する産学連携プロジェクトを開始する旨を2020年4月に発表している。7月にはESGスコアが企業の利益に与える影響の検証を目的とした、グローバル調査の分析を実施したリリースを発表した。

外部からの知見獲得事例:リコー DX推進部署の新規事業ブランディング

「専門家や先人に知見を聞く」事例は、リコー デジタルビジネス事業本部の、新規事業ブランディングを取り上げたい。

リコーといえば複合機やカメラで知られるが、同部署はDXを推進する、同社にとって新規事業を担う位置づけとなる部署だ。中小企業向けにワークフローやコミュニケーションをデジタル化して活用し、企業の経営課題や業務運用上の課題を解決に導くことをミッションとしている。

「リコーさまが求めていたのは、事業部門としてのブランディングや広報に関する相談相手です。そこで、Spreadyでは『デジタルビジネス事業本部の世の中とのコミュニケーション設計、ブランディングについて壁打ちさせていただきたい』といった募集を出されました。

外部の専門家に相談する前に、気軽に相談に乗ってもらえて、まずは社内で方向性や方針をまとめるお手伝いをしてくれる人を探していたからです。

事業会社で経営企画の広報をしている方、元PR会社勤務の方などとつながり、社内ミーティングのような感覚で、皆さんとそれぞれ2時間ほど話して、コミュニケーション設計やブランディングについての方針を固めていったといいます」(柳川氏)

中の人だけで課題と向き合うのではなく、外部から新しい切り口で助言をもらったり、経験に基づいた話をしてもらったりすることで、打開できる物事もある。

新サービスユーザーヒアリング事例:ウーブ iPadアプリ β版

「新サービスのユーザーヒアリング」事例は、合同会社ウーブのiPadを利用したリアルタイム手書きコラボレーションアプリ「Limeboard」β版開発前ユーザーヒアリングを取り上げる。

2020年1月、同社はLimeboardを構想して間もないタイミングでSpreadyを利用。「こんなアプリを作りたい」といったアイデアを漠然と思い描いていた時期だ。

このアプリにニーズはあるのか、iPadユーザーはどんなことを考えながら、iPadをどう使っているのか知りたいと考えていたという。

「iPadユーザーで、かつ手書き派の方、というピンポイントな対象者に、ユーザーヒアリングをしたいというニーズをお持ちでした。Spreadyで人探しをする前は、別のビジネス系アプリを通じてヒアリング対象者さんを探しておられましたが、難航していたそうです。Spready経由では10名の方からヒアリングを行い、その内容をもとにして2020年7月、β版をローンチされました」(柳川氏)

ユーザーヒアリングというと、対象者には単発のヒアリングに参加してもらい、開発者(ヒアリング主催者)と関係が継続することはない印象だ。しかし、Spreadyはスプレッダーという関係者の紹介で成り立っているからこそ、企業と個人が温かいつながりを維持しやすい傾向にあるという。

「ニーズにぴったり合う人を紹介することから、ヒアリング後も関係が続きやすいのです。アプリβ版ローンチ後、ウーブさまがその旨をFacebookに投稿すると、ヒアリングに協力してくれた方からコメントが届いたり、その方がファンになってくれたりと、今もポジティブなつながりが継続しています」(柳川氏)

人を介したつながりが、化学反応を生み出す

3つの事例を紹介したが、これらはほんの一握りで、他にも多様なコラボレーションが数多く生まれている。

ちなみに、直近では「新規事業のパートナーを探したい」ニーズが特に増えている実感があると佐古氏は言う。

「コロナウイルスの影響で、イベント開催のハードルが高くなっています。特にオープンイノベーションを担当者は、リアルイベントでネットワークを広げられない分、オンラインで事業パートナーを探す動きに出ています。そこでSpreadyで『~のようなインサイトを持っている方を探しています』という形で、具体的な告知を行い、連日2桁を超えるつながりが生まれています」(佐古氏)

転職や副業を促すわけではないSpready。間にスプレッダーというキーパーソンを挟むため、機械的なマッチングで結びつくよりも、熱量の高い出会いに発展しやすい。間に生身の人が介在することで生まれる付加価値が、事業に新たな化学反応を起こしている。