前編で「Epicの乱」が法廷に至るまでを紹介したが、Epicの言い分からApp StoreやGoogle Play Storeだけがゲームコンテンツに30%のストア手数料を徴収しているように思うかもしれない。だが、Xboxは30%(非ゲームのサブスクリプションは15%)、PlayStationや任天堂も30%、PCゲームのSteamは20〜30%である。では、なぜEpicはAppleとGoogleだけに不満を爆発させているのか?

Epicのティム・スウィーニーCEOは、iPhoneやAndroidは汎用のコンピュータ(general purpose computer)であり、XboxやPlayStation、Nintendo Switchはゲームコンソールとしている。ゲーム機では、それぞれの企業がゲーミングプラットフォームに莫大な投資をしている。利益ゼロまたはマイナスでハードウェアを販売し、ゲームスタジオと綿密に連携してゲーム市場の拡大に努めている。その恩恵をゲームスタジオも受けているから30%は妥当なコストだとしている。スマートフォンやタブレットはハードウェアで利益を上げている汎用コンピュータであり、アプリ開発者やゲームスタジオが自由にビジネスを行える環境を提供するべきというのが同氏の主張だ。

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Fortnite世代の若いスマートフォンユーザーは「なるほど」と思うかもしれないが、スマートフォンで3Dゲームが遊ばれるようになる以前からスマートフォンを使ってきた人達にとっては「またか…」となる議論である。スマートフォンは手のひらのパソコン、だからパソコンのような自由を……というのは、2007年にスマートフォンが登場してから、アプリストアの制限、Flash問題、iPhone対Android、ジェイルブレイク問題、ブラウザの制限などで何度も繰り返されてきた議論だ。

初代iPhoneを発表した2007年に、スティーブ・ジョブズ氏はNew York Timesに「これはコンピュータのようであるというよりiPodのようである」と語った。当時、多くの人が「PCのような自由な環境にしないとMacの二の舞になる」と予想したが、スマートフォンを小さなパソコンのようにしなかったことで、スマートフォンはパソコンを超える爆発的な成長を実現した。

具体的には、全てのアプリをサンドボックス内で動かす設計を採用、アプリのダウンロード/インストールをApp Storeに限定してマルウェアが入りこむ余地を排除。そして全てのアプリをApp Storeの決済システムで購入できるようにし、海外の小さなソフトウェア会社にカード情報を渡すようなクレジットカードを使う不安を解消した。もう1つつけ加えると、同じストアルールを全ての開発者に適用することで、大手が優位に立つことなく、全ての開発者が公平に競争できるマーケットを形にした。

管理された環境において、ユーザーは安心して自由にアプリを入手できる。パソコンよりも安全で簡単だから、スマートフォンからインターネットにアクセスする人が瞬く間にパソコンを上回り、スマートフォンのアプリ市場はPCのソフトウェア市場を大きく上回る規模に成長した。その恩恵をアプリ開発者だけではなく、ゲームスタジオも受けているはずである。

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ただし、「管理された環境」は見方を変えると「独占的に支配された環境」である。Appleがプラットフォーマーとしての力を不適切に行使する可能性もあり、そう思われないために同社はアプリ開発者やユーザーと利益や成長を共有する環境を保たなければならない。ところが、それができているとは言いがたいから「Epicの乱」の問題がややこしくなっている。

調整が繰り返されてはいるものの、App Storeの基本的な仕組みはまだスマートフォンでできることが限られた頃に作られたまま。ソフトウエア流通の主流がパッケージからオンライン配信に移った変化に合わせてアップデートされているとは言いがたい。実際、アプリ開発者やソフトハウスのApp Storeに対する不満の声が年々増加している。ただし、不満の声を上げる全ての開発者が、EpicのようにAppleを「独占的」と非難しているわけではない。多くは管理されている環境の価値も認めた上で改善を求めている。これは同じように抗議しているように見えて、導かれる結果は全く異なる。

6月にEUの欧州委員会がApp StoreとApple PayがEU競争法に違反する可能性の調査を開始した。米国でも米下院司法委員会において反トラスト法違反の可能性が問われている。強大な力を持つようになったIT大手を規制するべきという気運が高まる中で、AppleもApp Storeを変えていかないと、「独占的に支配された環境」という烙印が押されかねない。それはスマートフォンの成長を支えてきた基盤が揺らぐことを意味する。

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