インターネットイニシアティブ(IIJ)は、同社の在宅医療の専門職向け情報共有プラットフォーム「IIJ電子@連絡帳サービス」において、災害対策や救急搬送時に行政や専門職が情報連携できるようにアップデートを行ったことを発表した。相次ぐ災害や新型コロナウイルスの流行に際し、「地域のくらしを支えるネットワーク」として機能を強化している。
厚生労働省は、高齢者の尊厳保持と自立生活支援を目的に、2025年までに地域の包括的な支援・サービス提供体制「地域包括ケアシステム」の構築を推進している。このシステムの実現に向けて、医療と介護サービスの連携強化など、多職種による連携が必須となる。そこでIIJは、名古屋大学医学部付属病院 先端医療・臨床研究支援センターが開発した「電子@連絡帳」をクラウド対応させた「「IIJ電子@連絡帳サービス」を開発し、2017年から提供している。
これまでは医師、看護師、薬剤師のいわゆる「三師業」に加え、介護ヘルパー、ケアマネージャといった専門職が、在宅医療を受けている患者の情報を共有するためのプラットフォームとして、65の行政・地域で採用されている。7月末までの実績として、30職種・1万4,800人以上の専門職が登録し、2万人以上の患者に対応するために利用されているという。
特に愛知県では、すでに35の自治体で情報連携の協定が結ばれているほか、10月には新たに11の自治体が加わり、愛知県の54ある自治体のうち、9割近くが情報連携を行うことになる。これまでは自治体ごとに情報の運用方針や利用規約が異なるため、自治体をまたいでスムーズな情報連携が取りにくいといった問題があった。しかし愛知県のような情報連携協定を組むことで、情報共有が促進され、システムの役割が高まることになる。
「IIJ電子@連絡帳サービス」は、タイムラインを構築できるSNSや掲示板のような情報交換のためのシステムであり、多業種が情報をやり取りすることで、たとえば薬剤師の書き込みから、介護ヘルパーやケアマネージャが新たな知見を得る、といった相乗効果がもたらされる。今春から流行している新型コロナウイルスの影響により、記事投稿数は月平均2万件以上に上り、ウイルス流行前と比べて1.4倍に増えているという。
この「IIJ電子@連絡帳サービス」を拡張し、行政と消防等の専門職との情報連携に対応するために利用したいという要望を受けたのが、今回発表された「災害時連携オプション」と「救急情報連携オプション」だ。
行政では、地震や水害など災害時において、特に支援が必要な「避難行動要支援者」の名簿作成が義務付けられているが、「災害時連携オプション」では、この名簿を「IIJ電子@連絡帳サービス」と連携することで、被災時の要援護者情報を地域の専門職、ならびに避難行動を支援する行政が共有し、一体となって災害対策を進めることができるようになる。
具体的には、地図上に避難行動要支援者の避難場所を表示し、そこに避難場所を管理する行政担当者や担当する専門職が安否情報を投稿することで、関係者間で情報共有が行えるようになる。また避難対応後も、継続的に医療介護情報の連携をすることで、新型コロナウイルス感染症対策における非対面での活動も支援できるという。医療用画像データの標準であるDICOMにも対応しており、システム上で画像の添付や表示なども行える。
この機能は、平成27年9月関東・東北豪雨で鬼怒川の氾濫により甚大な被害を被った茨城県常総市の要望を取り入れて開発されたもので、同市で実証を経て採用済みとのこと。
昨今、毎年のように繰り返される風水害が拡大する中、紙の資料やPCは水害で失われてしまったり、新型コロナウイルス対応で、非対面での対応を求める声も多い。また、独居老人が増えることで近親者やかかりつけ医の情報が現場で得られずに、対応に時間がかかるという問題も増えている。IIJ電子@連絡帳サービスを使って効率的に安否情報が扱えるようになれば、避難行動や災害後の活動も効率的に行えるようになるだろう。IIJでは今後も機能強化を図っていき、地域包括ケアから「くらしのプラットフォーム」へと進化しながら、全国の自治体への販売を推進していくという。