ふわっとしたパンに、ぷりぷりのちくわ。そして、ツナサラダの旨みが口いっぱいに広がる「ちくわパン」。いまや札幌のソウルフードと言われる商品を生み出したのは「どんぐり」という名のパン屋だ。
同社の社長が、あるコミュニティイベントでパン作りへの想いを語ると聞き、参加した。
オンライン参加者へもパンを送付
どんぐりの代表取締役社長 野尻雅之氏が登壇したのは、体験シェアリングサイト「AND STORY」主催の「札幌、旅するトーク」というイベント。「そこに暮らす人と、旅する人たちが気軽につながれる場作り」を目的に、道内・道外で実施されている。
コロナ禍での今回のイベントは、会場とオンライン参加者をネットでつなぎ、事前にオンライン参加者約100組へ無料送付していた「ちくわパン」を会場参加者とともに味わいながらトークに耳を傾けるスタイルになった。
「おいしい」と、オンライン画面や会場に笑顔があふれる中、野尻氏は「パン作りのド素人だった父と母が『どんぐり』を始めてから37年、とにかくお客さまに喜んでいただくために何ができるのかを考えています」と、おだやかに話し始めた。
ちくわパンが生まれたきっかけも、おかずみたいなパンが欲しいという利用者からのリクエストだった。誕生から30年以上、調理方法を変えずに作り続け、年間500個の新商品が発表される同店の中でも不動の人気NO.1だ。
地元に3,000個以上のパンをプレゼント
長年、地域に根ざし、いまでは札幌を中心に北海道で全10店舗をオープンしているどんぐり。それでも、新型コロナウイルス感染拡大とともに客足は減り、創業以来初めて収益がマイナスになった。北海道や国からの緊急事態宣言時には休業も考えた。
「でも、お客さまから『どんぐりさんは、まちの灯火。開いててよかったと安心できる』と言われ、すべての店舗での営業継続を決めました。ただ、密を避けるための入店制限やお客さま同士が近寄るのを怖がりながら買い物する様子は、見ていて苦しいし、悲しい。その心をほんの少しでも柔らかくするのはパンだと信じ、自分たちにできる精一杯をやり続けます」。
どんぐりは、新型コロナ対応に追われる病院、保育園などにすでに3,000〜4,000個のパンを寄贈し、また、農家と店のお客をつなぐ絆を作りたいという思いから、野菜の収穫体験ツアーなども独自に企画している。
「いままで地域の皆さんに応援していただいたから、いまのどんぐりがあります。自分たちも苦しい時期ですが、目の前のことだけにとらわれずに『ありがとう』と言っていただけることに取り組んでいきます」。
1個のパンにこめた願い
イベント後半は、参加者みんなで新作パンをあれこれ妄想。採用されたアイデアパンは、どんぐり秋のパンフェアで店頭に登場することになっている。なお選考結果は、どんぐりのインスタで発表するという。
この日パンを受け取った人たちが、誰か一人にでも1個のパンや「ありがとう」という言葉を贈ったら……バトンを渡すように、そんなつながりが広がってほしいという願いが、ちくわパンにこめられている。
全国各地の参加者と会場参加者があたたかく手を振り合う光景は、きっと別の誰かの心へとつながっていくだろう。