マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、米大統領選挙について語っていただきます。
RealClearPoliticsによれば、8月9〜25日に実施された8つの世論調査全てでバイデン氏がトランプ氏をリード。支持率の差の平均は7.1%です(バイデン氏49.6%対トランプ氏42.5%)。エラーマージン(統計誤差)は平均3%程度なので、実際にはもっと僅差である可能性もあります。
このままトランプ氏が敗北するとすれば、第2次大戦後の13人の大統領のなかで再選を果たせなかった4人目の大統領になります(1期目で暗殺されたケネディ大統領を除く)。
残りの3人は、フォード(共、在籍73-76年)、カーター(民、77-80年)、ブッシュ父(共、89-92年)の諸氏。
再選されなかった理由はそれぞれにあります。フォード大統領はウォーターゲート事件で辞任したニクソン大統領の後継でしたが、ニクソン氏を恩赦したことが批判されました。カーター大統領はイランの米大使館の人質救出に失敗しました。ブッシュ大統領は「増税しない」との選挙公約を反故にしました。
結局は「経済」が重要か
ただ、上記3人のケースには共通点もあります。むしろ、それが再選されなかった最大の理由とみられます。経済情勢が非常に悪かったことです。
フォード大統領が選挙で敗れた76年、米国は第1次石油ショック(73年)の影響で高インフレと景気停滞が同時に起こるスタグフレーションに苦しんでいました。
カーター大統領も同様に、80年は第2次石油ショック(79年)の影響でスタグフレーションでした。リセッション(景気後退)は投票日の4カ月前に終了していましたが、それがNBER(全米経済研究所)によって公式発表されたのは投票日の8カ月後の81年7月でした。
ブッシュ大統領(父)の場合は、貯蓄貸付組合の破綻が相次ぎ、不動産バブルが弾けていました。ただ、この時もリセッションは投票日の1年8カ月も前に終了していました。しかし、それが正式に発表されたのは投票日の1カ月半後でした。
ブッシュ父を破ったクリントン陣営が、「It’s economy, stupid!(問題は経済なのに、それが分からないのか)」とのスローガンを掲げていたことは有名な話です。
(なお、第1次石油ショック後のリセッションは75年3月に終了しましたが、それがいつ公式発表されたのかは分かりませんでした)。
2020年3月にリセッション入り
6月8日、NBERは「今年2月が景気のピーク(山)だった」と発表しました。すなわち、今年3月にリセッションが始まったということです。米景気は3〜4月に大きく落ち込んだ後、徐々に回復しています。それでも、11月3日の投票日までにリセッションが終了する可能性はそれほど高くないし、ましてやNBERがそれを公式発表することはなさそうです。
トランプ大統領が「経済再開」を強く求めてきたのも、大統領選を念頭に置いてのことでしょう。もちろん、選挙は水物、残り2カ月で何が起こるのか、予断を許しません。